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奇跡のゲーセン「ゲーセンミカド」の店長が語ったゲームセンターの歴史と人生〜注目の新書紹介〜

  • 2023年7月2日
  • GetNavi web

こんにちは、書評家の卯月鮎です。みなさんにとってゲームセンターはどのような場所ですか? 私はまだ不良が実在し、「カツアゲ」なんて言葉が現役だった時代にビクビクしながらゲームセンターの隅に座っていました。お化け屋敷と「狂ったお茶会」を足したようなイメージ。最近の、UFOキャッチャーがひしめき、音ゲーで賑わっている光景を見るとキラキラと眩しいですね。

「ゲーセンミカド」店長が語るゲーセン史

さて、今回紹介する新書は『ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀』(池田稔・著、ナカガワ ヒロユキ・聞き手・構成/中公新書ラクレ)。著者の池田稔さんは個性派ゲームセンター「ゲーセンミカド」の経営者兼店長。小学生のころからゲームセンターに通い、高校卒業後には店員として働き始め、2006年には自らが経営する「新宿ゲーセンミカド」を立ち上げました(現在同店は閉店)。2023年現在「高田馬場ゲーセンミカド IN オアシスプラザ」など3店舗を構えています。

 

聞き手・構成のナカガワヒロユキさんはライター。著書にバーチャファイターのプレイヤーレポ『TOKYOHEAD NONFIX』などがあります。『愛についての感じ』『キッズファイヤー・ドットコム』などで知られる小説家・海猫沢めろんさんの別名義でもあります。

「伝説のゲーセン」の興亡

ゲーセンミカドといえば「伝説のゲーセン」「ゲーセンの聖地」として、国内外問わずゲーマーに知られた存在。レトロゲームが並ぶマニアックなラインナップと、ゲーム大会やイベントを毎日開催し、配信を行うエネルギッシュな企画力で支持されています。

 

「まえがき」には「いま、個人経営のゲームセンターは存亡の危機にある」とあります。そんななか、独自路線を打ち出して異彩を放つ店を作り上げた池田さんが、自ら体験してきた“ゲーセン史”を語っていきます。

 

第1章は「始まりから成熟の時代 1974-1996」。ゲームセンターがもっとも熱かった時代です。「ゼビウス」(1983年)をきっかけに始まった池田さんのゲームセンター人生。1991年、対戦格闘ゲーム「ストリートファイターII」に強い衝撃を受けます。本物の格闘技のようなスピーディな展開と複雑で豊富な技にしびれ、地元以外の大会にも遠征したという池田さん。

 

「知らない人同士が対戦する風景は珍しいものでわざわざ見にいく価値があった」。こうした池田さんの述懐は、私も同感です。私は新宿の「ゲームスポット21」で、格ゲーに熱中する人たちを見るのが好きで、やりもしないのに通っていました。あのころのゲームセンターはローマのコロッセウムに通じる道でした。

 

ちなみに、2台の筐体を背中合わせに並べた「キャビネット型対戦台」という配置は、シャイな日本人のために相手が見えないようにして対戦のハードルを下げた工夫で、メーカーではなく福岡のゲームセンターが発明したのだそう。そんな知る人ぞ知る裏話も本書には数多く語られています。

 

第3章以降では、2006年に「ゲーセンミカド」を開店した池田さんの奮闘ぶりも披露されていきます。新規客を狙った最新ゲームがことごとく赤字、新宿店の立ち退きを強いられて土壇場で決まった高田馬場への移転、当初否定的だった大会の無料配信を続けたことで変わってきた空気……。泥臭くも熱いエピソードは、ドラマ化してもウケそうです。

 

「ゲーセンミカド」で一番稼いでいる意外なゲーム、メダルゲームの利益計算法、UFOキャッチャーの景品原価率の実態など、経営の内幕も明かされているのがゲーセン店長の本ならでは。

 

そして何よりも、レトロゲームの大会を日々配信し続けるという、リアルとネット、過去と現在を巻き込んだ「場」を作り出した「ゲーセンミカド」の稀有な生存戦略は読み応え抜群。個人史という小さな視点が広がって、ゲーセン史の全体像、さらにはその陰の部分も見えてくる、そんな構成も光ります。

 

ゲームセンターはつらい現実を忘れさせてくれるオアシスのような場所、と池田さん。明日、ゲーセンにふらっと行ってみようかと思います。

 

【書籍紹介】

ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀

著:池田 稔
聞き手・構成:ナカガワ ヒロユキ
発行:中央公論新社

「ゲーマーの聖地」として国内外で名を知られる「ゲーセンミカド」。中小店が苦境に立たされる中、多彩なラインナップと企画力で愛され続けている。同店の池田店長が、数々の名作を振り返りながら現場のリアルを語る。『ゼビウス』『グラディウス』などシューティングブームの流行から、『ストリートファイターⅡ』『バーチャファイター2』など格ゲーの隆盛、経営の試行錯誤や業界への提言まで、ゲーセンの歴史と未来を描いた一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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