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太陽100万年分のエネルギーを0.01秒で放出、超レアな爆発を観測

  • 2024年4月26日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

太陽100万年分のエネルギーを0.01秒で放出、超レアな爆発を観測

 2023年11月15日、欧州宇宙機関(ESA)のガンマ線観測衛星インテグラルが、巨大なガンマ線バーストを捉えた。この爆発現象は、私たちの銀河系の外にある「マグネター」から発生した巨大フレアという、極めて珍しい現象によるものだとする論文が、2024年4月24日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。

 バーストの持続時間はわずか0.1秒だったが、すぐに世界中の天文学者に警報が発せられた。天文学者たちはガンマ線の発生源を突き止めようと大急ぎで観測機器を向けたが、その後の展開は彼らの予想とは違っていた。

 深宇宙からやってくるガンマ線バーストは途方もなく明るい高エネルギージェットで、時折、地球に届くものがある。天文学者たちは1960年代からガンマ線バーストを検出していて、今回もまた、宇宙のはるか彼方で2つの中性子星が衝突して放出されたものだろうと考えていた。

 中性子星は死んだ恒星の核で、信じられないほど密度が高い。そんな中性子星どうしが衝突すれば大爆発となり、最初にガンマ線などが放出され、重力波がそれに続く。

「通常のガンマ線バーストだったら、いわゆる『残光(アフターグロー)』が見えるはずです」とイタリア、ミラノ国立天体物理学研究所の研究者であるサンドロ・メレゲッティ氏は言う。「短時間のガンマ線バーストの後、X線、可視光、電波の放射が数時間から数日間にわたって続くのです」

 けれども今回、残光は見えなかった。

50年間にわずか3回の現象

 残光のX線が観測されなかったことから、メレゲッティ氏らは、今回のガンマ線バーストの発生源はマグネターという種類の中性子星から発生した巨大フレアなのではないかと考えた。マグネターからの巨大フレアは、宇宙で知られている中でも特に珍しく、最も強力な爆発現象の一つだ。

 中性子星は巨大な恒星が崩壊してできる天体で、小さな都市ほどの大きさしかないにもかかわらず、質量は太陽と同程度だ。そして、強力な磁場を持つ。マグネターは、通常の中性子星のさらに数千倍という非常に強力な磁場を持っているが、マグネターができる詳細なしくみはまだ解明されていない。

「マグネターは磁場の減衰をエネルギー源にします」とメレゲッティ氏は言う。「磁場の減衰は膨大な熱を発生させ、高温のマグネターから巨大フレアを放出させます」

 私たちの太陽から発生するフレアは強力で、数十億トンのプラズマが放出されることもあるが、マグネターの巨大フレアに比べれば微々たるものだ。マグネターの巨大フレアは、太陽が100万年かけて放出するのと同じ量のエネルギーをわずか0.01秒で放出する。

次ページ:発生源に天文学者たちは「非常に興奮しています」

 米ルイジアナ州立大学の天体物理学助教であるエリック・バーンズ氏は今回の研究には参加していないが、「中性子星は宇宙で最も密度の高い物質です」と説明する。「マグネターは、極端に密度が高いおかげで、信じられないほど強力な磁場を持つことができるのです。密度がここまで高くなければ、その磁場によって引き裂かれてしまうでしょう」

 こうした特異な条件のせいで、マグネターの存在や、その巨大フレアの発生はさらに珍しいものになる。メレゲッティ氏によると、ガンマ線バーストはおよそ1カ月に1回のペースで検出されているが、銀河系と近傍の大マゼラン雲で、マグネターからの巨大フレアは過去50年間に3回しか検出されていないという。

 銀河系の外からくる巨大フレアの検出はさらに困難だ。検出器を適切な方向に向けたうえで、他の発生源によるガンマ線バーストと区別できなければならないからだ。

 メレゲッティ氏らは、今回それをやってのけた。

星の一生に関する貴重なデータ

 今回の論文の中で、メレゲッティ氏らは、2023年11月に検出された爆発現象は、1200万光年離れた「M82銀河」にあるマグネターからの巨大フレアによるものだと主張している。

「過去にも銀河系外で巨大フレアらしき現象が見つかったことがありましたが、私たちが今回報告した現象は、場所がよく特定され、観測手法も優れているため、はるかに説得力があるのです」と氏は言う。

 ガンマ線バーストの発生源がM82にあるという結論に天文学者たちは「非常に興奮しています」とバーンズ氏は言う。M82は別の銀河に近接しているため、私たちの銀河系の10倍ものペースで大質量星が誕生しているのだ。M82の星々は短命で明るく輝き、研究対象として非常に興味深い。

 メレゲッティ氏は、「M82にはかなり多くのマグネターがあると考えられます。今回、マグネターからの巨大フレアが、ほかの銀河ではなくM82で発見されたのは、偶然ではないかもしれません」と話す。

 とはいえ、氏のチームがこれを発見できたのは思いがけないことだった。今回のガンマ線バーストが地球に到達したとき、インテグラル衛星がたまたまM82のあたりを観測していたのだ。

 インテグラル衛星はもうすぐ地球の大気圏に再突入する予定で、後継機の打ち上げは現時点では計画されていない。メレゲッティ氏は、インテグラル衛星の運用が終わる前にM82がもっと注目され、多くの巨大フレアが発見されることを願っている。そうすれば、強烈な磁場の物理学や星の一生に関する貴重なデータが得られる。

「星は生まれ、生きて死に、爆発し、また次の星を生み出します」と氏は言う。「宇宙には生物のような周期があり、マグネターは星の一生の進化を形づくる要素の1つなのです」

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