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松本まりかに「ずっと福士くんが 嫌いだった」と言われ… 撮影中 “雑談をしなかった”福士蒼汰の覚悟

  • 2024年4月30日
  • CREA WEB

 吉田修一さん原作の同名小説を映画化した『湖の女たち』で、道を踏み外していくインモラルな若き刑事を演じた福士蒼汰さん。松本まりかさんや浅野忠信さんとの共演についてお聞きしました。



福士蒼汰さん。

──今作は、オール琵琶湖ロケだったそうですね。

 はい。撮影期間ずっと滋賀県に滞在していたので、現地での撮影に集中することができました。

 自然に囲まれた場所に滞在していたので、飲食店の数も少なく。お店にご飯を食べに行くと、撮影スタッフさん達とばったり会うことが何度もあって、本当にずっと一緒に過ごしているような気持ちになりました。

──作中、美しい自然もたくさん出てきます。いちばん印象に残っているシーンはどこですか?

 湖に佳代を飛び込ませ、そのあと自分も飛び込んで佳代を救い出し、ふたりで船に寝転んで話をするシーンです。

 あのシーンは、実は2回撮影したんです。湖から船に上がるカットから始まったのですが、冬の寒い中での撮影だったので、なるべく体が冷えないように、洋服や髪を霧吹きで濡らして臨みました。モニターチェックでは特に問題なかったのですが、僕自身も、松本さんもどこか納得いかない気持ちがあって。監督もきっと同じ気持ちで「もう一回やるか」と言ってくれたんです。


福士蒼汰さん。

 用意していただいていたお風呂で一度体を温めて、もう一度トライすることになったのですが、今と同じことをしても、またどこか納得いかないままで終わってしまうのではないかと直感的に思ったんです。そこで、霧吹きで濡れた演出をするのではなく、実際に湖に落ちて本当に濡れた状態でやってみようと。特に言葉を交わすこともなく、僕が松本さんをただ一緒に連れて、湖に落ちてから再挑戦しました。

 監督も僕の意図に気がついてくれて、湖に落ちた僕たちを見てすぐに「よーい、スタート!」と船に這い上がるシーンを撮りました。

 結果的に、僕も松本さんも納得できるシーンになったと思います。ただ、今思えば、松本さんにも僕の考えを共有して話し合ったうえで撮影することもできたなと反省している面もあるんです。現場では、僕自身も圭介でありたかったし、松本さんとも圭介と佳代の関係性でもいたかった。それゆえの行動だったのですが、松本さんはどう感じているのか気に掛けるべきだったのかもしれないとも思っています。

「ずっと福士くんが嫌いだった」

──いいシーンにするためとはいえ、相手に嫌われてもいいという覚悟がないとできませんね。

 作品の世界観のためにも、「嫌われても構わない」という気持ちで撮影期間を過ごしていましたし、湖に一緒に落ちた時も圭介としての覚悟でした。実は先日、映画の撮影ぶりに松本さんにお会いしたのですが、「あの撮影以来、ずっと福士くんが嫌いだった」と話してくれたんです。複雑な思いもありますが、圭介と佳代でいられた証なのかなと前向きに捉えています。

 今回の撮影では、松本さんと雑談をすることが一切ありませんでした。僕は普段、共演者の方やスタッフの方とラフにお話しすることがほとんどなのですが、今回だけは作品上での関係性を徹底したくて。松本さんに話しかけることも、笑顔を見せることもしませんでした。


松本まりかさんとの関係づくりについて話す福士蒼汰さん。

──撮影に入る前に松本さんと話し合って、親しくふるまうのをやめようと決めたわけではなかったのですね。

 そうなんです。でも先日お会いした際に、当時の僕の思いを伝えることもできましたし、圭介としてではなく、福士蒼汰として初めてお話しできて嬉しかったです。

 お話しして改めて感じたのですが、松本さんはすごく愛情深い方なんだなと。だから、ある種突き放すような接し方をしていた撮影期間は、苦しい思いをさせてしまったかもしれません。でも作品が素晴らしいものになったという気持ちは一致しているので、多くの方々に観ていただきたいなと思っています。

──作中の圭介と佳代の距離感も、近いのか遠いのか、見方によっていろいろな解釈ができます。ふたりの関係性をどのようにとらえましたか?

 圭介は奥さんとの間に子どもが生まれて「家族」を背負うプレッシャーや、狭い組織内での上司からのパワハラにがんじがらめになっている不自由を感じていて、そんな時、たまたま佳代に出会った。そして佳代は、依存する対象を求めていた先にちょうど圭介がいた。ただそれだけだったのではないかと思います。

 だから、佳代の心が圭介に向いてくるのを感じたあたりから、圭介は佳代から離れることを決める。お互いに愛情があったわけではなかったからこそ、決して噛み合うことのない二人だったのではないでしょうか。

浅野忠信さんを質問攻めに

──松本さんだけでなく、浅野忠信さんとの共演シーンも多かったですよね。浅野さんはどんな方でしたか?

 浅野さんは、演じる上での僕のロールモデルでした。圭介の先輩刑事である伊佐美を演じているときの怒りの感情など、お芝居への入り方がすごく勉強になりました。

 監督が僕に伝えていたことをまさに体現されている浅野さんのお芝居を拝見したときには、鳥肌が立つような感動さえも覚えました。

 浅野さんは海外の作品にも挑戦されていますし、僕も2年前に海外のドラマに出演させていただいたので、オーディションや英語の勉強方法などについて、ひたすら質問攻めにしてしまったことを今でも覚えています。


福士蒼汰さん。

──この作品を通して、湖に対する見方や考えは変わりましたか?

 琵琶湖はものすごく大きくて海のようにも見えます。でも、当たり前ですが波がないんです。水深100mぐらいの深い部分もあったり、戦時中のものがいまだに沈んでいたりするそうで。

 海や川と違って動きがなく留まっている、という点が今作においても、すごく重要な要素になっていると思います。

 目に見えないところに堆積した時間と気持ちがあって、今がある。それを教えてくれるのが湖なのかな、なんて思うようになりました。

──湖のように観客の心に今作を留めるために、意識されたことを教えてください。

 どう見せようかという意識ではなく、動物的であるかどうかという部分を念頭に置いてお芝居しました。

 動物というのは本能的だから、人間からすると次にどう動くかが予測できないときがあります。動物園に行くと、ライオンが寝ている姿を、起きるかもしれないと思いながら、ずっと見たりしますよね。それは脳みそで考えている人間ではなく、本能で動く動物が魅力的だからだと思うんです。動物のように本能的に動くことを体現できたとき、役者として魅力的なものになるんじゃないかと考えるようになりました。

 他にも学んだことがあって。たとえば普段怒りっぽい人に対しては、怒る姿が簡単に想像できてしまうので、恐怖心や驚きが薄まりますよね。でも、普段すごく優しい人が急に怒り出したとき、目が離せないと思いませんか? そういう心理描写の表現方法が人を引きつけるということを今回学んだように思います。

福士さんとしてのお答え

──今作では「世界は美しいだろうか」という問いかけが、さまざまなシーンで登場します。伊佐美刑事が圭介に「世界は美しいんか?」と聞くシーンもありますが、いまなら圭介として、どう答えますか? 福士さんとしてのお答えもお聞きしたいです。

 刑事として縦社会の警察組織にいて、しかも上司から日々プレッシャーをかけられている圭介は、世界を美しいと思いたいけど、そう思うことができない状況だと思います。でも、圭介はきっと希望も持っている。

 そして僕個人としては、美しいと思いたいし、それが叶わない世界ではないと思いたいです。世界は美しい。そう言える世の中であってほしいと、心から願っています。

文=相澤洋美
写真=三宅史郎
スタイリング=オク トシヒロ
ヘアメイク=佐鳥麻子

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