サイト内
ウェブ

高校生の私を「汚らわしい子だね」と睨んだ…老齢の母と同居してよみがえった悪夢のような出来事

  • 2024年5月17日
  • All About

独居生活の老いた母との同居を決意した40代女性。しかし、あることがきっかけで幼い頃の悪夢のような出来事がよみがえった。説明できない嫌悪感の正体とは?
自分の親だから面倒をみるのは当たり前と考える人もいるだろうし、あるいはしかたなく引き取って同居する人も、施設に入ってもらおうと考える人もいるだろう。老いてひとりになった親をどうするか、考え方はさまざまだ。

■母のひとり暮らし「もうだめだと思った」
「母は私と仲がいいと周囲に言っていましたが、私は関係がいいとは思っていなかった。だけど、やっぱり母親を見捨てることはできなかった」

そう言うのはチエコさん(46歳)だ。5年前に父が亡くなってから、ときどき実家を訪ねていたが、家の中が少しずつ、だが確実に荒れていくのを感じていた。通って掃除や片付けをすればすむという話でもなくなっていった。

チエコさんには、同い年の夫との間に高校生と中学生の子どもがいる。

「私も家庭や仕事があるので、1時間ほどの実家に日参するわけにもいかない。2年ほど前、2週間ぶりに訪れてみると、水切りかごに食器が積まれていた。母はいつも丁寧に拭いて棚にしまうはずなのに、それができてない。しかも洗ったお皿を見ると、洗い残しがひどい。

バスルームも掃除してなかったんでしょう。面倒だからシャワーで済ませていたようで、ハエが飛んでいた。それを見て、もうだめだと思いました」

■母の老いた母、介護するほどではない?
まだ介護が必要というほどではない。ただ、食事の支度や掃除など、手間のかかることが「面倒」になって放棄しているように見えた。

「夫に相談したら、部屋があいているから呼べばいいよと。そんなにあっさり言ってくれるとは思わなかった。子どもたちも、小さいころからかわいがってもらったから『いいよ』って。うち、東京郊外の一軒家で、本当は夫が自分の親を引き取るつもりだったからちょっと広いんです。

ただ夫の親は、数年前に相次いで亡くなって。夫は何もしてやれなかったと後悔していたので、私の母を呼べばいいと言ってくれたんでしょう」

チエコさん自身は、自分と母の関係を考えると若干の不安はあった。それでも見捨ててはおけないという思いが強かった。

■不意によみがえった「悪夢のような出来事」
引っ越すのは嫌だと渋る母を説得、とりあえず実家はそのままにして「少しうちでのんびりする気持ちで来てみて」と呼び寄せた。

日当たりのいい部屋を用意した。チエコさんは週4回出社なので、昼間は母がひとりになることも多いが、朝晩の食事をともにするだけでも、母がどうしているかと不安にならずにすんだ。

「そのうち母も近所を散歩するようになり、顔見知りもできたりして慣れていきました。息子の友だちが来ることも多かったので、コーヒーとお菓子を出したりしてくれて。ちょっとした会話でも若い子と話すのが楽しかったようです」

いつから自分は母を遠ざけるようになったのだろう。そう考えたが思い出せなかった。だがある日、高校生の息子が「彼女」を連れてきたときに思い出したことがあった。

「夫はフランクな人なので、息子の彼女とみんなで食事をしようと。うちは息子たちが小さいころから、主に夫が性についてゆっくりじっくり話してきた。だから息子も、彼女ができたとき真っ先にうちに連れてきたんだと思います。彼女は、とっても明るくていい子。

母も一緒に夕飯を食べて、その後、ふたりは息子の部屋で話しているようでした。

すると母が『部屋にふたりきりにさせちゃダメよ』と言い出した。今どきの子は案外しっかりしているから大丈夫よと流したんですが、母は息子の部屋の前に立ってる。それを見て、私、急に思い出したんです。自分が高校生のときのことを」

当時、チエコさんには付き合っている彼がいた。ある晩、自室で彼と電話でデートの約束をしていると、母が急に部屋になだれ込むように入ってきた。そして電話を取り上げ、「うちの娘を籠絡(ろうらく)しないで」と激しく言って切ってしまったのだ。

「何するのよと言ったら、『汚らわしい子だね』とものすごい目で睨んだんです。あとから知ったんですが、そのころ、どうも父に浮気疑惑があったみたいで。男女のことに妙に敏感になっていたんでしょうね。でも私は、それ以来、母への不信感が募って遠ざけるようになったんです」

■リンゴをむく母の姿に「息が苦しくなった」
息子の部屋の前にいた母を促してリビングに連れ戻し、「私は息子を信用しているから」と話した。すると母は「ふん」と鼻で返事をし、「何か持っていってやろうかね」とキッチンでリンゴをむき始めた。

「いらないわよ、リンゴなんてと言いかけると、母が包丁をもったまま『え?』と振り向いたんです。それを見て、自分の中で封じ込めていた記憶がいきなり蘇った。

4歳か5歳のころかな、私、母に包丁を突きつけられたことがあるんです。理由はわからないんですが、包丁を持った母が迫ってくるところだけは覚えている。それが蘇ってきて、息が苦しくなって……」

気づくとキッチンで母から包丁を取り上げていた。何するのと言った母に「昔、こうやって私に包丁を突きつけたよね」と言うと、母は「おかしいんじゃないの、あんた。私がそんなことをするはずないでしょ」と背を向けた。

「でも私はしっかり記憶に残っています。怖くてたまらなかった。振り返ってみれば、あの頃から私は母に心を許したことがなかったんだと思う。高校生のときの電話の話から、一気に小さいころのことまで思い出して、母を心のどこかで信頼していなかった自分の気持ちがよくわかりました」

怖くて封じ込めていた自分の心が開いてしまった。このまま母と同居できるのか。チエコさんは新たな悩みと葛藤の中にいる。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(フリーライター)

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright(c) All About, Inc. All rights reserved.