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ともに30代でカヌーガイドで写真家。ふたりが感じた「美しい瞬間」とは?

  • 2024年4月4日
  • コロカル

(photo:Tomoki Kokubun)

國分さんが感じる13の瞬間

3月下旬、朝の気温は相変わらず氷点下だけど、雪面を照らす春の光が、たまらなく美しい。

「雪が解けて、当たり前に春がやってくる」

2月に行われたイベント「ボクらの阿寒摩周国立公園」というトークショーで、「季節が変わってただ過ぎていくのがとても美しい。ここで暮らしていて本当に幸運だなって思うんです」と語ってくれたカヌーガイドがいる。弟子屈町・屈斜路湖畔に居を構える國分知貴さんだ。

「自分らしい写真を1枚!」とのリクエストに送られてきた、ナイスショット。愛犬・KAIと一緒に昼寝の図。(写真提供:Tomoki Kokubun)

「自分らしい写真を1枚!」とのリクエストに送られてきた、ナイスショット。愛犬・KAIと一緒に昼寝の図。(写真提供:Tomoki Kokubun)

トークショーのテーマは、今年指定90周年を迎える〈阿寒摩周国立公園〉。その魅力を尋ねたら、國分さんは13枚の写真を用意してくれた。

「身の回りに起きた出来事をどんどん撮っている」

そんななかからセレクトされた、13回もの美しい瞬間。そのうちの数枚を紹介させてもらおう。

凍った屈斜路湖の上で遊ぶ、放課後の子供たち。(写真提供:Tomoki Kokubun)

凍った屈斜路湖の上で遊ぶ、放課後の子供たち。(写真提供:Tomoki Kokubun)

まずは、イベント開催と同時期、2月に撮影された写真だった。

「先日友人から電話がかかってきて、『スケートしません?』って。行ってみたら、近所の家族がスケート靴を履いて野球しているんです。そこに夕日が沈んでいく感じとか、めちゃくちゃすてきで、自然の中で幸せに暮らすってこういうことだよな、と思って撮りました」

國分さんはガイドのかたわら、写真家としても活躍している。

家の周りに自生する“食べ頃”のコゴミ。(写真提供:Tomoki Kokubun)

家の周りに自生する“食べ頃”のコゴミ。(写真提供:Tomoki Kokubun)

次の写真は春ならではのひとコマ。

「屈斜路に暮らしていると、市街地が離れているので、買い物が億劫なんです。だからこの時期は、『野菜ないな』って思ったら、コゴミを探す。雪が解けて春が来て、その辺に食べられるものがあるなんて、幸せです」

7月中旬に撮影された、ウグイの群れ。カヌーガイドの拠点である釧路川にて。(写真提供:Tomoki Kokubun)

7月中旬に撮影された、ウグイの群れ。カヌーガイドの拠点である釧路川にて。(写真提供:Tomoki Kokubun)

「夏になると、たくさんのウグイが遡上する。毎年、必ず来る! これってすごいと同時に、異変があったらこういうところから影響が出るのでは、と気になるんです」

その後、夏と秋の風景が続き、季節外れのイソツツジの花の写真へ。

本来は6月中旬〜7月上旬に花を咲かせるイソツツジを、10月に撮影。(写真提供:Tomoki Kokubun)

本来は6月中旬〜7月上旬に花を咲かせるイソツツジを、10月に撮影。(写真提供:Tomoki Kokubun)

「去年は夏が暑くて、秋になってもまだ暑い日があって、そしたら10月だというのにイソツツジの花が咲いて、そこに霜が降りていた。こんなこと、今後も続いてしまうのか……、わからないけど記録しておくべきだと思って」

そして季節は巡り、また冬へ。最後の1枚は初雪の日。

奥さんと愛犬と家路につく。國分さんの幸せが詰まった一枚。(写真提供:Tomoki Kokubun)

奥さんと愛犬と家路につく。國分さんの幸せが詰まった一枚。(写真提供:Tomoki Kokubun)

「12月、初めて雪が降った日の帰り道。初雪ってやっぱりうれしいし、幸せな気分になるし、そんなときに家族が家に向かっていく姿が愛おしくて」

そう言って、「こういう1年間って、なんてすばらしいんだろう、って感じているんです」と締め括った。

同じトークショーに参加したカヌーガイド、鑓野目純基さんも、毎年繰り返す風景を眺めながら、弟子屈町で暮らすことの心地よさを語ってくれた。

「嫁さんと、釧路川源流から海へ。水の旅の1日目」。カヌーには、テントやキャンプ道具、食料品など。荷物満載の図。(写真提供:Junki Yarinome)

「嫁さんと、釧路川源流から海へ。水の旅の1日目」。カヌーには、テントやキャンプ道具、食料品など。荷物満載の図。(写真提供:Junki Yarinome)

「〈阿寒摩周国立公園〉の魅力は、多様な自然。山、川、湖、森、火山がコンパクトに存在している。これって、アクティビティに置き換えて考えると、トレッキング、カヌー、森歩き、マウンテンバイク、スノーボード……いろんなジャンルが楽しめて、一年中遊び尽くせるってこと」

自然の中で過ごす時間が大好きだという鑓野目さんにとって、弟子屈町は最高のフィールドだ。

ガイド中に撮影した、和琴半島・オヤコツ地獄。「カヌーに乗りながら火山にアプローチできるなんて、すごくないですか?」(写真提供:Junki Yarinome)

ガイド中に撮影した、和琴半島・オヤコツ地獄。「カヌーに乗りながら火山にアプローチできるなんて、すごくないですか?」(写真提供:Junki Yarinome)

「春にカヌーガイドがスタートして、水温が上がってくると魚たちが元気になって、そうすると、釣り人が現れ始める。“あ、あのおじさん、今年もいるな”なんて、遊びを通して自然のサイクルを感じています」

鑓野目さんも、自然の中で心惹かれた瞬間を写真に収める。自身のインスタグラムには、独自の視点で捉えた美しい自然が並ぶ。

「屈斜路湖とか釧路川源流って、本当に水がきれい。僕は恵まれている場所で仕事しているって思います」。そんな気持ちが高じて撮影した、屈斜路湖の水面。(写真提供:Junki Yarinome)

「屈斜路湖とか釧路川源流って、本当に水がきれい。僕は恵まれている場所で仕事しているって思います」。そんな気持ちが高じて撮影した、屈斜路湖の水面。(写真提供:Junki Yarinome)

「なぜ写真を?」という問いに、「写真は記録。そのとき、その場所に、自分がいた。心が動いたときの雰囲気を、温度感、湿度感、匂いも含めて、記録しておきたいんです」なんて、カッコいいことを言う。

“心が動いた記録”。だからだろうか。鑓野目さんの写真は、静謐ななかにも、高揚感のようなものが感じられるのだ。

「森の奥に、急にパッと水面が現れる。抱いていた期待が現実になって、気分が上がった瞬間に撮った1枚」(写真提供:Junki Yarinome)

「森の奥に、急にパッと水面が現れる。抱いていた期待が現実になって、気分が上がった瞬間に撮った1枚」(写真提供:Junki Yarinome)

そして、もうひとつ。鑓野目さんが感じる〈阿寒摩周国立公園〉の魅力、これが、とてもすてきだ。

「冬、屈斜路湖の外輪山に雪が降ると、ガイドツアーで踏んだり、スノーボードで滑ったり。その雪が、何年か何十年か後に、屈斜路湖の水になって、釧路川を下って太平洋に出る。その水が、雨雲や雲海になって、ここにも戻ってきて、また雨や雪を降らす。こうした循環のなかに、僕らはポツンといる。“人間って、自然の中のほんのわずかだな”そういう感覚が味わえるのも魅力で、僕はここに住んでいる」

國分さんと鑓野目さん、30代のカヌーガイド。ふたりの感性に触れて、「自然の感じ方」というのは、研ぎ澄まされていくものなのだと気づく。そして、そこから得られる幸福感は、とても尊い。

屈斜路湖の外輪山、藻琴山の上から、屈斜路湖と、奥のほうに釧路川の源流部が望める1枚。水の循環を思い描き、自然の偉大さを実感する。(写真提供:Junki Yarinome)

屈斜路湖の外輪山、藻琴山の上から、屈斜路湖と、奥のほうに釧路川の源流部が望める1枚。水の循環を思い描き、自然の偉大さを実感する。(写真提供:Junki Yarinome)

私が弟子屈町に暮らし始めて、3回目の春がやってくる。

夜、窓の外を眺めれば、雪面には、満月の光が描いた針葉樹の影。

ここには、小さな美しさが溢れている。日々感じるそれらすべてが、たまらない。

profile

TOMOKI KOKUBUN 國分 知貴

こくぶん・ともき●カヌー&カヤックガイド、写真家。1986年、北海道・中標津町生まれ。2018年より弟子屈町屈斜路在住。ガイドカンパニー〈RIVER&FIELD〉 所属。フィールドの中に身を置くことをこよなく愛し、そこで得られた感覚や自然の魅力を人に伝えることを生業としている。2023年12月に発行したノルウェーの旅行記『LYNGEN』が好評発売中。

Web:TOMOKI KOKUBUN photography

profile

JUNKI YARINOME 鑓野目純基

やりのめ・じゅんき●カヌーガイド、写真家。1992年、釧路市生まれ、網走市育ち。2017年から弟子屈町に在住。〈Outdoorguide YARINOME〉主宰。幼少より見てきた道東の景色、活動を通して見えてきた道東の素晴らしさや感動を伝えられるよう、日々ガイドしている。「APA AWARD 2024 写真作品部門」入選。

Web:Outdoorguide YARINOME

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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