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人口260人の小さな農村の伝統芸能が存続の危機!舞台の大規模改修プロジェクト

  • 2023年8月28日
  • コロカル
小さな農村の伝統芸能が存続の危機

小豆島の真ん中に位置する、棚田が美しい集落「中山(なかやま)」。今、この小さな農村で暮らす人たちが取り組んでいる大きなプロジェクトがあります。

この地で江戸時代から続く伝統芸能『中山農村歌舞伎』を奉納上演するための場「中山の舞台」の大規模改修工事プロジェクトです。今回はこの取り組みについてみなさんに知ってもらい、応援してもらいたい! という気持ちを込めて書きます。

小豆島の真ん中、山に囲まれた場所にある中山集落。私が暮らす肥土山(ひとやま)集落のお隣にあります。

小豆島の真ん中、山に囲まれた場所にある中山集落。私が暮らす肥土山(ひとやま)集落のお隣にあります。

中山では、毎年7月の半夏生の頃に「虫送り」が行われます。火手(ほて)と呼ばれる松明に火を灯し、田んぼのあぜ道を歩いて、虫を海まで送り、豊作を祈願する農村の行事。

中山では、毎年7月の半夏生の頃に「虫送り」が行われます。火手(ほて)と呼ばれる松明に火を灯し、田んぼのあぜ道を歩いて、虫を海まで送り、豊作を祈願する農村の行事。

まず「中山」という農村について。中山は人口約260人、約100世帯が暮らす山間にある集落で、平地はほとんどなく、山の急な斜面に切り開かれた棚田では現在も米が栽培されています。この風景がとても美しく、『日本の棚田百選』に選ばれているほど。旅行者の多くも、この景色を見に中山を訪れます。

もうすぐ収穫シーズンを迎える中山の棚田の風景。

もうすぐ収穫シーズンを迎える中山の棚田の風景。

「湯船(ゆぶね)の水」と呼ばれる湧き水が千枚田に流れ込み、お米を栽培できます。

「湯船(ゆぶね)の水」と呼ばれる湧き水が千枚田に流れ込み、お米を栽培できます。

この美しい棚田の風景のなかに「中山の舞台」があり、そこで毎年10月に中山農村歌舞伎が奉納上演されます。農村歌舞伎というのは、豊作祈願の奉納と娯楽として昔から各集落で行われてきた伝統行事です。そこで暮らす人々が企画し、演じ、楽しむ行事。

昔は小豆島の各集落に舞台があり、農村歌舞伎が行われていたそうですが、今残っているのは、この中山地区と肥土山地区の2か所だけ。小さな島の小さな農村で、300年以上続く伝統芸能とその舞台が守り続けられているんです。

毎年10月に開催される中山の農村歌舞伎。(撮影:坊野美絵)

毎年10月に開催される中山の農村歌舞伎。(撮影:坊野美絵)

本番の舞台裏の様子。暮らす人たちが自分たちの手でつくりあげる歌舞伎だからおもしろい。(撮影:坊野美絵)

本番の舞台裏の様子。暮らす人たちが自分たちの手でつくりあげる歌舞伎だからおもしろい。(撮影:坊野美絵)

実はこの中山の舞台が、今まさに倒壊の危機に瀕していて、2022年秋より大規模な改修工事プロジェクトが始まっています。

地区の誇りを守るということ

中山の舞台は、地域の氏神である春日神社の境内に、江戸時代後期に建築されたといわれています。建築後約200年が経過しており、専門家の調査によって、建物の傾きや損傷が激しく、すでに半壊状態であり、いつ倒れてもおかしくないような状態であることがわかりました。

現在改修工事中の中山の舞台。2024年3月工事完了予定で、2024年10月には改修された新しい舞台で農村歌舞伎が上演されます。

現在改修工事中の中山の舞台。2024年3月工事完了予定で、2024年10月には改修された新しい舞台で農村歌舞伎が上演されます。

きっと、すでになくなってしまったほかの地区の農村歌舞伎舞台もこうやって古くなって、維持することが難しくなり、舞台とともに農村歌舞伎という伝統行事もなくなっていってしまったんだと思います。守る人がいない、守るためのお金がない。

中山地区のみなさんは、この舞台と農村歌舞伎という伝統をこれから先にもつなげていこうと、大きな労力とお金をかけて舞台を直すことに決めました。本当に大変なことだと思いますが、舞台と伝統を守るということは、この地区で暮らす自分たちの誇りを守り、結束を高め、結果としてここでの暮らしを守ることにつながるという思いを込めて。

中山の舞台がある春日神社の管理をされる地元の方と棚田の風景。

中山の舞台がある春日神社の管理をされる地元の方と棚田の風景。

改修工事には約8600万円という費用がかかるそうです。文化庁や香川県、小豆島町からの支援がありますが、事業に関する地区の経費は約1000万円に及びます。単純に計算して、1世帯約10万円の負担。これはなかなか簡単に出せる金額ではないです。

工事の進行中にも想定以上に傷みが激しい箇所が見つかったり、シロアリの被害などが発覚したりすれば、改修費用が増える可能性も。上回った金額はそのまま地区の負担につながるそうで、費用の工面が難しい状況が続いているそうです。

舞台の基礎は腐食してしまっていて、早急に工事が必要な状態。

舞台の基礎は腐食してしまっていて、早急に工事が必要な状態。

クラウドファンディングで応援

この状況のなかで、中山地区の自治会、農村歌舞伎保存会の人たちを中心に立ち上げた資金を集めるための活動が、クラウドファンディング『倒壊の危機迫る「中山の舞台」小豆島の宝、中山農村歌舞伎を次の百年へ』です。

クラウドファンディングを担当する中山自治会長の井口平治さん(写真右)と、クラウドファンディング担当の谷久智己さん。

クラウドファンディングを担当する中山自治会長の井口平治さん(写真右)と、クラウドファンディング担当の谷久智己さん。

改修工事と並行して、クラウドファンディングの準備を進めてきて、2023年7月3日より支援募集が始まっています。8月21日現在、第1目標金額である700万円は達成し、次の目標に向けて8月31日まで支援を募っています。

もし10年前だったら、改修工事を諦めていたかもしれませんが、今はクラウドファンディングという手段で多くの人に応援してもらえる仕組みがあり、そもそもこれだけ人口減少と高齢化が進み、もう自分たちの手だけではどうしようもできないという現状の認識があることで、今までにない手段に挑戦してみようと踏みきれるのかもしれません。

人が減り、高齢化していくなかで、地元の人の手でこの棚田を維持していくことは本当に大変。

人が減り、高齢化していくなかで、地元の人の手でこの棚田を維持していくことは本当に大変。

大変だけれども、ここでの暮らし、働く人たちの営みが、多くの人が感動する美しい風景につながる。

大変だけれども、ここでの暮らし、働く人たちの営みが、多くの人が感動する美しい風景につながる。

みなさんからの少しずつの応援で、小豆島の小さな農村の伝統と暮らし、そしてその風景を守っていくことができます。どうぞ『倒壊の危機迫る「中山の舞台」小豆島の宝、中山農村歌舞伎を次の百年へ』へのご支援をよろしくお願いいたします。

そしていつか、この美しい農村、中山の農村歌舞伎や虫送りを見に、小豆島に遊びに来てくださいね。

writer profile

Hikari Mimura

三村ひかり

みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島のなかでもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。https://homemakers.jp/

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