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なぜ人は外反母趾になる? 実は人類の進化が関係、古代にもいた

  • 2024年5月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

なぜ人は外反母趾になる? 実は人類の進化が関係、古代にもいた

 8000年以上前、現在のイングランド北西部の海岸を人類がはだしで歩き、消えない足跡を残した。先史時代の狩猟採集民と私たち現代人はあまり共通点がないかもしれないが、10代の少年が残した足跡が、意外な接点を教えてくれている。足の指の付け根から外側に突き出た腫れ(バニオン)の痕跡だ。

 バニオンを引き起こす外反母趾(がいはんぼし)や内反小趾(ないはんしょうし)は、古代から人類を悩ませてきた。しかし、そもそもなぜ私たちは外反母趾になるのだろう? そして、なぜ手術なしで治す方法が見つかっていないのだろう? ここでは、私たちはどのようにこの苦しみを抱えるようになり、なぜいまだに科学者を当惑させているのかを解説する。

永遠の病

 考古学と歴史を垣間見れば、これらの病が古代から存在したことがわかる。イングランドに残された先史時代の足跡から古代エジプトのミイラまで、証拠はたくさんある。

 14〜15世紀にイングランドのケンブリッジ周辺に埋葬された遺骨の実に27%に外反母趾の証拠が見られた。それ以前(11〜13世紀)の遺骨ではわずか6%だった。研究者たちは、中世に登場した爪先が長くとがった革靴「プーレーヌ」が原因だと考えている。

外反母趾とは?

 外反母趾は、足の親指がほかの指の方に傾き、親指の関節が横から突き出る足の変形だ。この変形はほかの指にも影響し、神経痛、しびれ、皮膚炎、たこ、うおのめ、腫れ、発赤、さらには足の指の関節が曲がったままになる「ハンマートゥ」や「クロートゥ」といった変形を引き起こす。

 外反母趾ほど一般的ではないものの、足の小指の関節で同じようなことが起きる内反小趾もある。冒頭で紹介した8000年前の足跡は、こちらの内反小趾だった。

 現在、外反母趾は最も一般的な足の病気のひとつだ。患っている人の割合の推定はさまざまだが、成人の約4人に1人が外反母趾に悩んでいるようで、女性や65歳以上に多く見られる。ほとんどの外反母趾は軽度で無症状だが、生活の質や運動能力に影響を与え、慢性的な痛みや転倒につながることもある。

次ページ:外反母趾になる原因は?

 外反母趾は進化的にも理にかなっていない。自然選択は、時間とともに足が変形しない個体を好むべきではないか。ヒトの足の独特な構造が原因だと考える科学者もいる。2017年の研究で、博物館に収蔵されているヒト、チンパンジー、ゴリラの中足骨(足の甲の骨)の構造と機能が調べられた結果、ヒトはチンパンジーやゴリラに比べて親指を「著しく改造」していることがわかった。

 チンパンジーやゴリラは物をつかむために足の親指を使うが、すべて地面と接触しているヒトの足指では、親指周辺の筋肉や靱帯(じんたい)に負担がかかり、その結果、親指がずれて外反母趾になりうる。

外反母趾になる原因は?

 しかし、外反母趾の正確な原因はまだ明らかになっていない。遺伝も一役買っているようだ。痛みを伴う外反母趾の患者350人を対象とした2007年の研究では、3世代以内の家族に外反母趾の病歴のある人が90%を占めた。

 関わっているのは遺伝だけではないと、米国フロリダ州オーランドで開業する足病医・外科医のティモシー・ミラー氏は述べている。「2番目に多い原因は足の形です」。足のアーチが低い人は、親指周辺の筋肉や靱帯が緩んでいるため、外反母趾になりやすい。

 靴も外反母趾の原因になるのだろうか? もちろんだとミラー氏は言う。「私たちは本来、草原や柔らかい地面を歩くようにできています」と氏は話す。「現在、私たちは硬い床やコンクリートを歩いていますが、多くの靴は全くサポート性がありません」。サポート性のない靴は、腰や背中を守るために足が「犠牲」になるため、外反母趾などの変形が起きやすい。

外反母趾の治し方

 サポート性のある靴を履くことで、外反母趾の進行を遅らせることができる。また、痛みを和らげるには、ストレッチやアイシング、薬物療法が効果的だ。しかし、いったん外反母趾になると、治す方法は1つしかない。

「残念ながら、外反母趾になってしまった場合、元に戻す方法は手術しかありません」とミラー氏は話す。氏は外反母趾の手術を年間数百件、通常は外来で行っている。

 症例によって異なるが、ほとんどの外反母趾の手術では骨の一部を取り除き、足の支持構造を整え、プレートやワイヤで結合組織を補強する。場合によっては関節の置き換えや固定が必要になるが、これほど大きな手術になるケースは少ない。

次ページ:外反母趾の事実とウソ

 回復には数カ月かかることもあり、足病医は、外反母趾の手術は美容整形ではないと強調している。しかし、手術による体への傷や負担はどんどん小さくなっており、回復に要する時間が短く、より良い結果が期待できる手術法も登場している。ただし、やはり症例によって異なるとミラー氏は述べている。

 手術が唯一の治療法ということもあってか、インターネット上には、外反母趾の痛みを和らげるためのとっぴで、しばしば無益なアドバイスがあふれている。自宅で行っている対処について、患者からどのような話を聞いたことがあるかと質問すると、ミラー氏は苦笑した。

「エプソムソルト(硫酸マグネシウム、入浴剤として使われる)で何でも治ると思っている人や、リンゴ酢に足を浸す人もいます」とミラー氏は話す。もちろん、どちらも外反母趾を治す効果はない。

 インターネットは実際のところ、外反母趾の信頼できる情報を得るには最悪の場所であることがわかっている。2013年の調査では、外反母趾に関連するウェブサイトのうち、正確で最新の情報が載っていると評価されたのはわずか24%だった。また、2022年の分析では、外反母趾に関するオンライン情報源の3分の2近くが透明性を欠いていた。

外反母趾の事実とウソ

 最新の機器や施術の利点を宣伝するソーシャルメディアアカウントや自称フットフルエンサー(足のインフルエンサー)が助長するDIY精神に、こうした状況がますます磨きをかける。だがミラー氏によれば、多くの患者がお金を費やす「バニオンスプリント(外反母趾矯正具)」は、症状のみを治療するものであり、原因に対処するものではない。

 ミラー氏はバニオンスプリントについて、「効果がない」と断言する。「足から外したら、すぐ元に戻ってしまします」。ミラー氏は手っ取り早いが効果のない治療法に浪費するのではなく、バニオンが痛くなったらすぐに受診することを勧めている。早期の介入が患者に最良の結果をもたらすためだ。「患者はいつも、もっと早く来なかったことを後悔します」

 外反母趾を和らげる方法を探している人はあなただけではない。あなたは世界で年間7億3000万ドル(約1130億円)規模の市場に参加し、物をつかまない親指に先史時代から付きまとってきた苦悩を分かち合っているのだ。外反母趾は高齢者や病弱な人だけがなるものだという、患者を治療から遠ざけ、自分も外反母趾だと認めることさえできなくするような固定観念は、もう終わりにしよう。

「私は10歳から98歳までの患者を治療しています」とミラー氏も述べている。もし痛みがあるのなら、恥ずかしがらずに医療機関を受診してほしい。あなたには良い仲間がいる。

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