ボールダーのカフェで仕事をする人々
議論やアイデア交換を楽しむ若き起業家たち ボールダーのような「非理性的」な町だからこそ、アンリーズナブル・インスティチュートのような「非理性的」な団体が存在意義を持つのかもしれない。10万人に満たない人口のボールダーはその小さな町のサイズからは想像もできないほど希有な潜在能力を有している。世界中のアイデアが集まり、緊密に協力し合う起業家コミュニティとそしてそれを現実にするための手段が充実するこの小さな町は世界でも珍しい環境だと言えるだろう。「サンフランシスコでもニューヨークでもなく私たちは理由があってボールダーにいるんだ。この町は大都市のエネルギーを持ちながらもそのコンパクトな町のサイズ故にプロジェクト開発に専念できる環境が整っているね」とダニエルは説明する。
ダニエルは今後、メディア部門やキャピタル部門を創設してお互いの部署の活動を助け合うようにし、プロジェクト全体をブランド化しようと計画している。ブランド化を進めながら2020年までに世界100カ国に100のインスティチュートを作るのが彼の「非理性的」な目標である。各国のインスティチュート支部運営を希望する人たちからアイデアを募集し、選考し、ボールダーでトレーニングを施す。トレーニング後は独自の特色を大いに出してその国の支部を運営し、国内の素晴らしい「非理性的」な起業家たちを発掘してもらう。「あなたは“アンリーズナブル・東京’、あなたは“アンリーズナブル・メキシコ”と言った風にね」実際、需要はもうそこにあるとダニエルは言う。「東京やムンバイやスリランカから毎週数本の電話がかかってくるよ。アンリーズナブル・インスティチュートを自分の国でもやりたいってね」それにしても彼の掲げる目標値は現実離れしたものに思えてしかたない。
アンリーズナブル・インスティチュートの事業イメージ図
彼の話を聞きながら私はあるギリシャ神話を思い出した。自作の像に恋したキプロス島の王ピグマリオンの話だ。象牙を20年も掘り続けて理想の女性を彫刻にしたピグマリオンが、その彫刻に恋をし人間になることを願うようになる。それを見かねた女神アフロディーテが願いを聞き入れて彫刻に生命を与えるという神話だ。後に、人間は期待された通りに成果を出す傾向があるという学説が登場し、ピグマリオン効果と名付けられた。指導者から成功すると言われれば本当に成功するし、逆にネガティブな言葉をかけられれば失敗する。ピグマリオンの彫刻のようにダニエルの「非理性的」なプロジェクトは彼の強い信念とボールダーの町のエネルギーとの相乗効果によって現実のものとなるかもしれない。21世紀をリードする新しいビジネスの形がここにある。こうして見るとそれほど「非理性的」だとも思えなくなってきたが、みなさんはどう思われるだろうか。