サイト内
ウェブ

(Boulder)vol.15 世界中のアイデアが集まるボールダー

  • 2011年10月1日

シンプルなアイデア

 2008年のプロジェクト試験運転を経て、2010年にダニエルはアンリーズナブル・インスティチュートを設立させた。そしてすぐに起業家たちからの願書受付を開始した。受付作業はたいへんだった。申し込みは数百に及び、願書を選考基準に沿ってふるいにかけ、見込みのある企業70社を選出。ここから面接を行い、更に35社までしぼる。この35社を「アンリーズナブル・マーケットプレイス」と題したウェブサイト上に紹介し、資金集めコンペを行う。各起業家はウェブサイト上をショーケースに見立てて事業内容を売り込み、6500ドルをゴールに資金集めレースを戦う。レースをフェアに行うため、個人からの資金募集に限定し、金額も一律10ドルとした。最初に10ドルの基金を650人から集めて6500ドルに達した栄えあるファイナリスト25名をボールダーへ招聘する。6500ドルは彼らの旅費に充てられる。

ナミーカ・イケグアヌ氏
ナミーカ・イケグアヌ氏
ファーマーに取材するナミーカさん
ファーマーに取材するナミーカさん
 ダニエルは昨年のファイナリストの一人、ナミーカ・イケグアヌの事業内容について説明してくれた。ナミーカの故郷ナイジェリアでは7千万人の80%が地方のファーマーとして生計を立て、多くがラジオ以外のコミュニケーション手段を持たずに暮らしている。ナミーカも地方ファーマーの一人だが、彼はファーマーたちのニーズに応えるために「スモールホルダーズ・ルーラル・ファーマーズ・ラジオ(Smallholders Rural Farmers Radio)」という名前のラジオ局を創設した。何を作付けするか、どんな肥料を使うか、どの消費者層をターゲットに生産するか、市場価格はどのくらいかといったことから天気予報まで、ファーマーたちにとってタイムリーで価値のある情報を放送する小さなラジオ局だ。
 本来全てのファーマーが知っているべき基本的な農業情報ばかりだが、地方のファーマーはこれらを入手することができず苦労を重ねていた。「驚くことに、彼のラジオ番組を聞きはじめた標準的な地方ファーマーは皆、4ヶ月以内に収入を2倍に延ばしている」とダニエルは証言する。「ただ単に、それらの情報へアクセスする方法が必要だっただけなんだ。単純でインパクトもないし、あまりロマンチックなストーリーじゃないだろう?
でも、新しいビジネスモデルを考える時、多くの起業家はオーバークオリファイド(或る仕事に、必要以上の経験や学歴があること)で物事を難しく考えすぎる。私はもし起業家への最大の賛辞があるとすればそれは“あなたのアイデアはシンプルで理解しやすいね”じゃないかと思う」
 最近、ナミーカはアメリカのビジネス誌『Fast Company(ファスト・カンパニー)』の“世界で最も革新的なビジネスピープルトップ100”にランクインされた。より大きなラジオタワーを建設するための投資を集めるのがボールダー行きの目的だ。


地方の村を訪ねて貧血症測定をするミシキンさんのチームの様子
地方の村を訪ねて貧血症測定をするミシキンさんのチームの様子
 今年のファイナリストとしてインドの大都市ムンバイからやって来たミシキン・インガワレは「バイオセンス・テクノロジー(Biosense Technologies)」という会社を経営している。指に光を照射することで貧血症を測定する携帯電話ほどの大きさの装置を開発している。貧血症のために妊婦が出血死した現場を目撃したことをきっかけに起業した。
 地域の医療施設が足りないことが問題ではなかった。その時もクリニックは1マイル以内にあったし、無料で鉄分補給のタブレットも配布していた。問題はその貧血症を発見できなかったことにある。貧血症の診断は、採血によって行われる。しかし、インドの地方で暮らす妊婦たちにとって身体に針を刺すその検査は、お金がかかる上に文化的にも慣れない行為で、そしてなんとも厄介なプロセスを踏まなければいけないという印象がある。結果、検査を受けようとする妊婦も少ない。 ミシキンの開発した装置の素晴らしい点は、貧血症をお金をかけず簡単に発見できるようにしたという点だけでなく、発展途上国以外の先進国でも活用できるようなテクノロジーを開発したという点だ。厳しい制限下にあればあるほど人は創造的になり問題解決力を高めることができるとダニエルも指摘する。ミシキンはこの装置を世界中へ広めたいという想いとともにボールダーへやって来た。

ミシキンさんの開発した貧血症測定器
ミシキンさんの開発した貧血症測定器


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。