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(Boulder)vol.8 小規模農家の挑戦

  • 2008年7月1日

3つの課題

 小規模農家の未来は果てしなく明るいかのように思えるが、課題もある。2人は3つの課題を指摘する。

地元ボランティア
たくさんの地元ボランティアにも支えられている(トーマスとは別の農場にて)
地元ボランティア
地元ボランティア
(1)労働力
 近代アメリカ人は農家の重労働に耐えられるようには育ってきていない。子供たちはいかに頭を使って考えられるかという教育の中で育っている。とにかく身体を動かすという教育は施されていない。「感じる前に考えてしまうよう教育されているのよ」とシャノンさんは溜め息をつく。
 移民労働者(特にメキシコ人労働者)は一般的にハードワーカーである。「メキシコ人の血の中には農業のセンスが綿々と受け継がれて来ている」とリチャードさんは言う。「彼らはアメリカ人のようにIT革命の激流に翻弄されることなく、不自然な社会構造変化に遭遇することがなかった。彼らは真の意味で働くということの苦労を知っている。才能を持っているし、地道な作業を厭わない」しかし、メキシコ人労働者はほとんどの場合非合法であるのと、その出稼ぎが期間限定であることが問題だ。このためアメリカが彼らの才能に頼り切ることは難しい。

(2)農作業と現代文化生活とのバランス
 Abbondanzaファームを始め、他の小規模農家も古き良き伝統を復活させようとしている。しかし、それはテンポの速い現代ライフスタイルとは逆行してしまう。「昔は、一番暑い昼の間はゆっくり休んで早朝と夕方に作業をしていたよね。でも現代社会の中ではファーマーも5時30分には仕事を終え家に帰り、そして家族で食卓を囲む生活をしたいんだ。そのために日中の一番暑くて過酷な時間帯も休まず働かなければいけなくなったんだ」2人はこの生活はファーマーにはどうしても適してないと言う。彼らの先祖もそんな生活リズムをしてきたことはないし、生物学的にも無理のある生活サイクルなのだ。「難しいことだよ。伝統的なサイクルが正しいとはわかっていても、実行するのは本当に大変なんだ」

(3)奪還
 今日、小規模農家はCSA(Community Supported Agriculture :地域のコミュニティに支えられた農業)のような取り組みを通して、あと一歩で過去の栄光をを取り戻すチャンスを目の前にしている。CSAはドイツ、スイス、そして日本で始まった。1960年代の日本では「産直提携」と呼ばれ、当時母親達は大型スーパーの商品を信頼せず、輸入食料に対する不信感も手伝い、地元農家から直接食品を購入する道を模索した時期があった。
 今アメリカでは、子供たちの食品アレルギー問題などを抱えた母親達が、小さくても信頼できる地元オーガニック農家に相談を持ちかけるようになっている。「奪還」のチャンスはここだ。人々のオーガニック食品に関する関心は高まる一方だ。
 しかし、オーガニック農場を経営するにはかなりの資金が必要であることが小規模農家を悩ませている。ファーマーズマーケット(地元朝市)、教育プログラムの充実、オンライン販売、CSAの活性化などによって少しは状況が良くなって来たとは言え、小規模農家が十分な利益をあげられるまでには至っていない。ここでAbbondanzaファームの新しい夢を紹介したい。

 今年始め、シャノンさんはある試算を試みた。彼らは、「トーマス・オープンスペース・プロジェクト」農場以外に、もう1つのオーガニック農場を経営している。そこの維持費の試算であったが、設備費、原料費、人件費、土地賃料含む費用を捻出するためには、年間少なくとも500のCSAメンバーが必要であることがわかった。併せて、「トーマス・オープンスペース・プロジェクト」へも時間と労力を多大に割かなければならない。5年かかって今やっと250のCSAメンバーを集めたが、目標の500にはまだ届かない。この難しい現状に直面してから、シャノンさんが新しいアイデア「Dream Share構想」に辿り着くまで、しばしの時間を要した。
 「Dream Share構想」はCSAのメンバーシップを3年契約とするところに特徴がある。従来のCSAメンバーシップは1年契約であることが通例であったが、この基本事項を覆すことにより、農家は早期資金調達が可能になる。消費者は3年分の食費を一括で支払うという負担を我慢しなければならないが、メリットもある。消費者は3年の間、物価高騰を心配することなく、安全な食品を享受できるからだ。消費者は、「地元の」「美味しい」「安全な」食品を一度に保証される。
 従来のCSAはシーズン前に申込が終了し、そのあとは参加することができない仕組みであるのに対し、「Dream Share構想」は年間どのタイミングでも参加できるようにもなっている。これは1年を通して農家が比較的安定した資金調達をも望めるという利点、そして消費者も家計に応じて参加時期を自分で選べるという利点を兼ね備える。今後の「Dream Share構想」の発展が楽しみである。

 Abbondanzaファームの活動の成果は、今後のローカルオーガニックフードのムーブメントを更に活性化させる起爆剤となることだろう。またこのムーブメントは、彼らと彼らのような小規模農家が消費者に数十年来忘れ去られていた「生産者への信頼」を再び取り戻させることにもなるだろう。そして、更に言うならば、食品業界だけに留まらず、私たちが暮らすコミュニティ自体の信頼や自信回復に繋がっていくだろうことを期待を持って想像したい。



■ 筆者紹介
サミュエル D グッドマン
サミュエル D グッドマン
Colorado House International, LLC 代表。コロラド州生まれ。コロラド大学ボールダー校心理学部を卒業。高校時代から様々なアウドア活動に参加、現在も母校の高校で課外活動の指導員として活動する。大学卒業後、約5年間に渡り、シンガポールと日本の公立および私立の小中高校、各種企業・政府機関で英語を教える。日米政府間教師交換プログラム(JETプログラム)で京都府に赴任し、3年の任期を終えアメリカに帰国、コロラド州ボールダーで「コロラドハウス」を立ち上げる。Boulder Green Building Guild執行委員。
http://www.coho-online.com/cms/
info@coho-online.com (お問い合わせは日本語でどうぞ)


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