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(Boulder)vol.8 小規模農家の挑戦

  • 2008年7月1日

トーマス・オープンスペース・プロジェクト

 夫妻は現在、3人の子供を持ち、コロラドで2つの農場を営んでいる。彼らの最新プロジェクトは、コロラド州初、また全米でも珍しい取り組みとして知られ、「トーマス・オープンスペース・プロジェクト」と呼ばれるものだ。コロラド州ボールダー郡の中にある、人口2万5千、ボールダー市から東へ15マイル郊外のラフィエット市という土地で行われているプロジェクトである。

看板
作業風景
「トーマス・オープンスペース・プロジェクト」作業風景
 2006年、ラフィエット市はある公募を行った。市内のオープンスペース(公開空地)を利用してオーガニックファームを営むための農家とその企画を募ったのだ。市が、3年間の土地使用料、光熱水費、インフラ整備を負担し、選ばれた農家とそのプロジェクトを全面的にサポートするという内容だ。夫妻もさっそく企画書を作成し、市の諮問委員会と市議会に出向きプレゼンテーションを行った。この様子はローカルケーブルTVでも放映され、競合6団体を退けて見事リチャードさんとシャノンさんのAbbondanzaファームのプロジェクトが採用された。
 市は初年度に最低3エーカーの面積を耕すよう2人に要請したが、Abbondanzaファームは、なんと初年度で用意された土地10エーカー全てを耕作しきった。「私たちはただ、情熱の量が圧倒的なの。たぶんちょっとクレイジーと思われてしまうほどね」
 確かに文句無しの素晴らしいプロジェクトだ。地元住人が予々切望していたこの遊休地の有効利用が現実のものとなったのだから。湖畔とハイキングトレイルに隣接し、食料庫と販売スペースまでがすでに整備された理想的な環境。一般の人々が日常的に訪れ易く、作物の成長を見守ることができる農場設計、生産者と消費者が直に相談し合い、収穫物を直接購入できるこのプロジェクトは、地元で絶大な支持を得た。彼らのこの取り組みはローカルオーガニックムーブメントを多いに後押しするという効果も併せ持ったのである。


「今」と「これから」の狭間で

グラント・ウッドの作品
1930年代のアメリカンゴシック画家グラント・ウッドの作品
 先日ファーマーズマーケット(ダウンタウンで毎週催される朝市と夜市)に立ち寄った時、そこには2人の顔写真が表紙に載ったローカルマガジン(前ページ冒頭の写真)を至るところで目にした。それは1930年代の有名なアメリカンゴシック画家グラント・ウッドの作品をもじったもので、現代の小規模農家が1930年代の不景気時代の農家のあり方にとてもよく似て来ていることを示唆していた。
 リチャードさんはこう説明する。「昔と比べるとマーケットの様子こそ違うが、生産者たる私たち小規模農家は1930年代となんら変わることのない作業をしているんだ。地元コロラドの農業を愛し、ただ質の良い食べ物を育てる。昔との違いはただ1つ、小規模農家はもはやメインストリームで活動しているのではなく、ニッチで生きているということ…」
 「いいえ、ニッチじゃないわ。未来そのものよ!」シャノンさんの希望に満ちた笑顔が眩しい。
 2回の世界大戦後、アメリカの農業は社会が求める便利性重視という風潮に影響され続けて来た。大型スーパーマーケットに行けば、そこで消費者はなんでも一遍に手に入れることが出来るようになった。しかし、今、消費者の関心は「誰がその作物を作っているのか」ということにまたシフトしてきている。それが安心できる商品なのか。私たちが心から知りたいのはただこの一点なのだ。「未来は過去に辿り着き、そしてまた未来へと繰り返される」リチャードさんはそう語る。


「未来」へ

 Abbondanzaファームや他の小規模農家はこのシフトが更に今後続いて行くだろうと見ている。「トーマス・オープンスペース・プロジェクト」は未来へのキープロジェクトになるだろう。

ファーマーズマーケットで
ファーマーズマーケットで手塩にかけた野菜と
 Abbondanzaファームは、今、3年間のプロジェクトを輝かしい成功とともに終えようとしている。しかし彼らの真価が問われるのはこれからだ。今後彼らは政府の補助なしに、プロジェクトを継続していかなければいけない。もし彼らがこの先も成果を収め、定着するならば、他の自治体も先を争って同プロジェクトを導入するだろう。この流れは、現在アメリカを牛耳っているモノカルチャー(単一の農作物を生産する農業形態)を採用する大規模農家が独占しているマーケットを小規模農家が「奪還」する可能性をも含んでいる。
 「“奪還”のビジョンは、市を巻き込んだこのプロジェクトが軌道に乗ったところで、最大限市民利益に寄与するということだね」2人のこの構想はまさに「win-win」の構造。行政側にも小規模農家にも、そしてそこで暮らす市民にも好ましい未来を提供できそうだ。今日、“トーマス・オープンスペース・プロジェクト”は、今まで市が行って来たどんな政策よりも人々に親しまれ愛されている。



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