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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第48回 座談会/温暖化対策の本気度を問う

  • 2008年1月10日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/本気でやろう! 温暖化対策
座談会/温暖化対策の本気度を問う
浅岡 美恵さん(気候ネットワーク代表)
小島 敏郎さん(環境省地球環境審議官)
藤村 宏幸さん(前・株式会社荏原製作所名誉会長、国連大学ゼロエミッションフォーラム会長)
<聞き手>大城 早苗さん(東京大学新領域創成科学大学院修士課程)


→参加メンバー紹介

外部不経済の内部化の仕組みづくり

 

 経済活動や日常生活に起因して排出されるCO2は気象災害をもたらす。いわばこれは「外部不経済」なのですが、そのコストを原因者が負担していない。では、誰が負担しているのか。それは気象災害の被害者が全部負担しているということです。気候変動枠組条約の締約国会議での交渉も原因と結果の因果関係を基本にすれば「大量排出国」対「主として被害を受ける国」という交渉になりますが、現実には途上国側は「責任は先進国。われわれは南」という主張で議論がかみ合いません。先進国側も責任論を避けています。責任論を議論するまでには因果関係は明らかではないということでしょう。
 原因と結果の因果関係を基本とすることは、公害における「汚染者負担の原則(PPP)」で経験しています。
 経済的には「外部不経済への内部化」が必要で、規制、税・課徴金・排出権取引、いずれかの方法で、温室効果ガスの排出にはコストがかかるという仕組みをつくっていかなければなりません。これを一つの国だけではなくて、世界共通の認識にしてグローバルな秩序をつくっていくということが必要だと思います。

フルコストを普及させる

藤村

 私はフルコストの考え方が非常に大切だと思います。しかし、環境に与える負荷をなかなか計算できない。一つの考え方として、例えばダイオキシンを分解する費用や、1kgのCO2を固定化するだけのバイオマスを育成する費用は計算できます。
 LCC(ライフサイクルコスト)にCO2の固定化コストを足したものを、とりあえずフルコストとして計算すれば、一応環境負荷を出さないで済んだということになるわけです。例えば、ウッドプラスチックは環境負荷がゼロ、LCCプラスの環境負荷がゼロという計算になるわけですね。電力もバイオマス発電だとゼロですね。
 われわれがお客さんに出す見積もりはTLCC(トータル・ライフサイクルコスト)で計算しています。TLCCで計算しますと、例えばハイブリッドカーが32.3%、普通車が14%、燃料電池が42.3%、それだけ燃料が少ないのです。そうすると、CO2が当然少ないわけですから、固定化のコストも加味すれば逆にその分を税金で補填すべきです。
 フルコストと環境を考えなかったコストの「差」を市場経済の中に規制や補助金、税という形で入れていかないと、対策のスピードが上がらないと思います。

大城

 「今、日本が何をすべきか」というグローバルなテーマについて、例えば国際貢献、バイオ技術、NGOの連携など、ローカルな視点とグローバルな視点を合わせて、お答えいただきたいと思います。

将来への明確なビジョンと高い優先順位づけ

小島

 2050年に排出量と吸収量をバランスさせる社会を実現させる。50年あれば建物もインフラも入れ替わります。低炭素社会づくりに向けての投資をすべきだと思います。将来への明確なビジョンがあれば企業も投資しやすくなります。
 政治や行政が行うべきことは、明確なビジョンの下に、技術と人材の集中投入をすること、また、民間企業がそうすることができるような条件を整えることです。例えば、米国はケネディ大統領のときにアポロ計画を立てました。「人間を月に送る」という目標を立てて予算を集中的に投入し、技術を高めていった。目標がなければいつまでたってもアメリカ人は月に到達しなかったでしょう。
 これと同様に、低炭素社会をつくるためには、将来への明確なビジョンを示し、その実現に高い優先順位を与え、実際に予算づけや制度をつくり、技術も高めていくことが必要です。日本は、これにより21世紀も高い国際的競争力を保ち、世界に迷惑をかけることなく国民に豊かな生活を保障することができます。
 温暖化は世界的な規模で起こり、タイムラグがありますが、「わからない」と言って安心しているわけにはいきません。人びとが敏感な感性、イマジネーションをもって将来を見直すことが必要だと思います。その上で腹をくくって、低炭素社会づくりに向かって大胆に歩みを進めるということではないでしょうか。

意識は制度に規定される

浅岡

 社会的に影響力の大きい人が早く動き、重い責任を担うのはいつの時代も一緒で、そういう意味で大規模排出事業者に税や排出権取引など排出削減が価値をもつ仕組みを受け入れていただくことは不可避だと思っています。行政や政治には、それを制度化する役割、責任を自覚して欲しい。私たちNGOも参加していきます。消費者は最終的なコストの引受者であり、環境税の考え方を受け入れていかなければなりません。
 国民の意識、ライフスタイルを変えていくことは必要ですが、「1人1日1kg、365日1億2,000万人」の国民運動は問題です。「大変ですよ」という掛け声としてはともかく、家庭生活の実態に合っていません。家計からの排出は全体の2割程度で、大幅削減には製品の買い替えなどの機会が重要なのです。
 私たちは昨年、2020年に民生で90年比で30%減らすにはどうすべきかということを考えて、「2020年30%削減対策」を提言しました。効率が良い製品に買い替えても大型に買い替えれば排出量が増える。総量としてエネルギー消費の少ない製品を事業者に開発してもらい、税などを活用して消費者がそれを選択しやすくする。省エネ住宅に住めるようにする。省エネ生活の心がけはもちろんです。
 このような検討をしたのですが、太陽光発電で削減量の3分の1を賄わないと2020年に30%は減らせない。2050年に排出量を半減させるためには、住宅対策は今すぐ始める必要がある。機器は10年程度で更新されますが、その時期は家庭によって違います。
 5,000万世帯、1億2,000万人の市民を対象にするのは大変ですが、2〜3割の世帯で行動されるようになれば社会が大きく変わるのは間違いない。そのためにはどうしたらいいか。「環境家計簿をつけてください」だけでは足りなくて、具体的に個々の家庭がどんな家に住み、どんな機器を使っているかをもとに、実情に応じた相談、助言、診断と取り組みへの支援策が重要です。
 京都で「ウッドマイレージCO2」というプロジェクトをやっています。木材輸送コストの温暖化対策と同時に、地域の木材循環を良くしようとするものです。京都府内産の木林を認証し、それを使って建てた家を別途認証する。それを活用したときに、少しですけれど補助金が出ます。住宅に活用する取り組みは始まったところですが、昨年は45軒ありました。それだけでも、施主はもとより、設計士さんや建築屋さんのマインドが変わりますね。仕組みとして動かしていくことの重要性を感じました。

バイオマスを産業化させる

藤村

  バイオマスニッポンが2006年に改定されました。バイオマスを資源として化石燃料に置き換えていこうとするものです。想像ですけど、2050年頃に20%ぐらいの置き換えができるのではないか。
 それと省エネ、省資源、リサイクルの分野では、技術的な効率アップはかなり進んでいます。私たちの作っている冷凍機も45%も省エネの機器の開発が進んでいます。おそらく倍ぐらいの効率でいろんなものが進んでいると思いますので、50年というのは、やり方の問題はありますが、かなり可能性はあると思います。
 南北格差が環境問題で大きいわけです。バイオマスというのは資源が豊富な地域の産業ですからバイオマス産業をいかに育てるか、これは環境問題として格差・雇用問題に大きなウエイトを占めます。
 全人類の消費エネルギーが410ヘキサジュールで、バイオマスは資源量としてはその6倍以上あります。ですから、バイオマスの保存の問題、砂漠やストレスに強いバイオマスの育成、遺伝子組み換えなど技術としては進んできています。それらを組み合わせると全人類の消費エネルギーレベルにまでいく可能性が非常に強い。
 ただ、バイオマスはエネルギー密度が低いですから、集める、収穫するなどの技術的なブラッシュアップがまだされていません。今まではエネルギー密度の濃いものばかりやっていましたから、技術開発を早急にやれば、バイオマスは非常に大きな産業に育てられます。だから途上国に財政援助もすることを考えれば非常に貢献しやすい分野であると考えています。
 バイオマス産業は、小さい装置があって、そこから集めてきて大きい装置で処理する。だから、そういうシステムの実験をこれから進めなくてはいけない。幸いに、世界に先駆けて策定したバイオマスニッポンでは、2012年に全国500ヵ所にバイオマスタウンをつくる計画です。私は希望をもっています。

大城

  次世代の当事者である若者がどのように考えて、どう行動していくのか。若者の価値観と行動が社会を変えていくと信じているのですが、そのためには今の若者たちは何をすべきなのか、何を期待されますか。

浅岡

  いつの時代も大きな問題を抱えていました。問題のない時代も国もきっとないでしょう。今、世界共通の問題として、温暖化問題があります。共通なだけに世界中の人たちが協力し、克服していくことが期待されるし、それなくして解決できないと思っています。影響も対応もグローバルな時代の挑戦はやりがいもあると思います。

小島

  現在に生きていながら将来を見通すことができる、あるいは、日本に住んでいながら世界を見ることができる、こういう力が、気候変動問題には必要です。今は、昔と違っていろんな情報が入ってきます。情報が多くて思考停止になっては困りますが、情報を生かして人間の能力をもっと高めていく。科学技術が発展して人間性が失われるのではなく、人間の感性も磨かれていく。若い人には、それを期待したいですね。

藤村

  私は昨日のNHKの番組で、幕張を元気にしようという若者たちの取り組みを見て元気づけられました。われわれは竹やり持って暴れたんだけど、今の学生は先を見る感性が強いんでぜひ大いに発展していただきたい。

大城

 私は若者が今持っている問題意識をちゃんと集約して、声を届けること、まちを歩いている「関係ない」と思っている人たちと関われるようなアクションの仕方を提供していくことを、戦略的にやっていきたいと思います。学生の中で環境や、それらのことを考えて動けるリーダーが揃ってきていて、それをもっと広げていけるチャンスだと思っています。洞爺湖でのG8サミットに向けてどうするのか、この1年をしっかりやっていきたいと思っているので、いろいろご教示いただけたらうれしいです。ありがとうございました。

 

(2007年6月26日東京都内にて)

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