森: 再生可能エネルギーの導入を拡大するために蓄電池が利用されている例がありますね。
矢部: およそ2年前、九州で太陽光発電の系統連系の申し込みが急増するという事態が起きました。発電量と電力消費量が完全に一致していないといけないというのが電気の特性で、消費量に対して昼間の発電が極端に多くなると安定して発電所を運用することができません。そこで、緊急的に蓄電池を置けばもう少し太陽光発電を増やしても問題がなくなるということで、実際にどれくらい増やせるかを調べようという緊急実証が行われました。
矢部: こちらの九州の実証事業で使われているのは、エネルギー密度の高いNAS電池なので、一桁ぶん多くエネルギーを貯められます。
森: そもそも、太陽光や風力の発電が増えると巨大な電池が必要になるのはなぜでしょうか。
矢部: 電気は、工場やビジネス街では昼間、住宅の多い場所では夜に多く使われます。太陽光発電は、天気が急変した時には、発電する電力が大きく変動して、電気の需要と供給が合わず安定的な運用ができなくなる場合があります。一方で、太陽光発電で昼間に電気を作りすぎると、その分需要が減ったのと同様の事態になってしまい、やはり安定的な運用ができなくなります。供給過多になった場合や、太陽光発電の出力変動を吸収するために、今後は、巨大な電池が必要であると言われています。
森: そして、太陽光発電で昼間に貯めた電気をいったん電池に貯めておくというのは、すでに現実になっていると。
矢部:そうです。
矢部: しかし、種子島では去年と一昨年、太陽光発電の出力抑制が行われました。離島である種子島は、九州本島とは別の小さな電力系統になっていて、そこに太陽光発電がたくさんあります。冷房も暖房も使わないゴールデンウィークは発電量に対して需要がとても少なくなりますが、需要と供給のバランスをとるには、火力発電がある程度動いている必要があります。そこで、太陽光発電の出力を制御して、需給バランスを保つ必要があるのです。
森: 需給のバランスが崩れると、火力発電などの他の発電方法も使えなくなってしまうのですか。
矢部: そうです。種子島の場合はディーゼル発電なのですが、安定供給のためには何台かを必ず動かさなくてはならないという条件があります。気象は急に変わる可能性もあるので、実際の天気の状況を見ながら、必要最小限の出力抑制が行われたそうです。
森: 出力抑制とは、具体的には系統から太陽光発電を切り離すということですか。
矢部: そうです。やり方はいろいろありますが、一番旧式の方法は、太陽光で発電している施設に「明日は止めてください」と電話をかけることです。
森: 電気は生み出しているけれど、どこにも行き場がない。それはもったいないので電池に貯めようということですね。この状況は日本全国で起きているのですか?
矢部: 関東・関西・中部は、需要も大きく、大規模な太陽光発電を置く土地も相対的には少ないので、出力抑制に関してはあまり切迫していません。ただそれ以外、特に九州・北海道・東北の3地域は特に切迫しています。
矢部: 太陽光発電を地域ごとで見ると、九州はとても増えています。ただ最近は、出力抑制が始まるということで、銀行がお金を貸さなくなっているという事情があります。海外ではたくさんの太陽光発電企業が倒産しています。日本でも赤字を出している企業があり、導入にブレーキがかかっている状態です。全体で見ると東北と九州で太陽光発電がとても増えましたが、両方ともある時期からあまり増えていないのは、この出力抑制が原因なのかもしれません。
森: これだけ太陽光発電が増えたのは固定価格買取制度の影響もありますか?
矢部: そうですね。太陽光発電を置いた方が儲かるという仕組みで、バブルのような状況もあったのかもしれません。また、中国産の太陽光パネルは安いので、日本のパネル製造会社はそういう意味でも厳しい局面を迎えているのかなという気がします。バッテリーが安くなれば、もうちょっと太陽光発電が増えるのかなと思いますね。