海では主に月の引力による潮汐力のはたらきにより、海面が盛り上がる満潮と、反対に低くなる干潮という現象が起こる。満潮時には海面下に没するが、干潮時には干上がって出現する平らな浅場を干潟という。干潟は、河川や沿岸流により運ばれてきた砂や泥が、河口や海岸などに長い時間をかけて堆積してできる。泥には多くの栄養塩類や有機物が含まれており、アサリなどの二枚貝やゴカイ類、カニなどの甲殻類、魚類をはじめ、さまざまな生物が生息している。また、それらをエサとする水鳥の越冬地や中継地にもなる。
干潟や浅瀬は水生生物の産卵の場や稚魚などの育成の場となっており、「生命のゆりかご」と呼ばれることもある。さらに、水中の有機物を分解して海水を浄化したり、二酸化炭素(CO2)を吸収して酸素を供給したりする役割も果たしている。干潟には大きく分けて、河口から海岸線や沖合へと広がる前浜干潟、河口の周辺にできる河口干潟、河口や海から湾状域にできる潟湖干潟の3種類がある。潮の満ち引きによって形成されるため、潮位差が少ない日本海側などにはあまりなく、約9割が本州の太平洋側や九州に存在する。
環境省が選定した日本の重要湿地としては、北海道の根室湾干潟・野付湾、宮城県の蒲生干潟、東京湾の盤洲干潟・富津干潟・三番瀬・谷津干潟、神奈川県の入江干潟、愛知県と三重県にはさまれた藤前干潟、愛知県の汐川干潟、福岡県の曽根干潟・和白干潟・今津干潟、熊本県の不知火干潟・荒尾干潟、沖縄県の具志干潟・与根干潟などがある。このうち、谷津、藤前、荒尾が、国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録されている。また、福岡・佐賀・長崎・熊本の4県にまたがる有明海には、荒尾をはじめ多くの干潟が存在する。
日本では第二次世界大戦後の高度経済成長期に、沿岸域で埋立などの開発が盛んに行われた。このため、7万5000ha以上あった干潟は半世紀ほどで5万ヘクタールに縮小してしまった。東京湾や伊勢湾などの内湾域には、かつて広大な干潟が広がっていたが多くが失われた。現在もたくさんの干潟が消失の危機にひんしているが、干潟の価値を見直し、保全や再生に力を入れる動きが盛んになっている。埋立計画がもち上がったものの、最終的に保全された藤前干潟はその好例だ。また、東京の大井人工干潟や葛西海浜公園など、全国で100カ所近い人工干潟がつくりだされている。
干潟の再生は、きれいな砂で海の底をおおったり、大規模な造成事業を行ったりするだけではない。さまざまな生物相を保全、再生して生態系を豊かにすることが、干潟が本来もつ機能を高め、海洋環境の保全につながる。こうした理由から、干潟を含めた河口や沿岸域で、水生生物の保全や藻場の再生を目指す取り組みが活発化している。