トキは、コウノトリ目・トキ科に属し、体長約70cm、翼を広げると130cmほどになる大型の鳥だ。全身が「とき（朱鷺）色」と呼ばれるオレンジ色がかった薄い赤色をしていて、顔はより赤く皮膚が露出しており、脚も赤い。長くて曲がったくちばしは黒く、先だけ赤い。かつてはロシア、アムール地方、中国、朝鮮半島、日本に分布し、江戸時代まで、北海道から九州に至る日本全域にいた。トキの学名である「Nipponia nippon」は、江戸時代末期に日本にいた医師のシーボルトが、母国オランダに送った標本の中にトキがあり、それをもとに分類されたことから付けられたもの。しかし、明治時代に乱獲されて激減したため、保護鳥に指定されて狩猟されることはなくなったが、大正時代にはほぼ絶滅の状態になった。1934年に新潟の佐渡で見つかり天然記念物に指定されたが、時すでに遅く、各地で生き残っていたトキは絶滅の一途をたどった。
その後、特別天然記念物や国際保護鳥に指定されたが、1981年、新潟県佐渡にいた最後の５羽が飼育・繁殖のために捕獲され、日本から野生のトキは絶滅した。日本のトキ保護の歩みを見ると、1967年に新潟県が建設した「新潟県佐渡トキ保護センター」（旧トキ保護センター）で３羽のトキが飼育され、国による保護増殖事業が行われ、1981年に捕獲された５羽も含めた日本産の個体同士による交配（ペアリング）が試みられた。また、1985年から日中協力による増殖事業も開始。1993年に新しい佐渡トキ保護センターが開設され、多くのつがいからヒナが育ち、自然繁殖にも成功した。また、1993年には種の保存法による国内希少野生動植物に指定された。一方で、1995年に日本産オスの「ミドリ」が世を去り、1968年の捕獲以来飼育されていた日本産メスの「キン」も2003年10月に死亡して日本産のトキはいなくなった。
日本におけるトキの総個体数は、2007年７月現在で107羽。トキの野生復帰には、繁殖するための森林や、巣をかけるための大木、そしてえさ場となる湿地や小さな河川が必要だ。しかし、トキが野生絶滅した1981年より以降、国などが繁殖地や生息地の確保に力を入れてこなかった。しかし、環境省はトキの野生復帰を進めるため、2003年に「佐渡地域環境再生ビジョン」（トキ野生復帰・環境再生ビジョン）を策定。「トキが生息できる自然環境づくり」を掲げ、2015年頃までに約60羽のトキを野生化するという目標を設定した。同省ではこれを実現するため、2005年から、新潟県と協力して佐渡市で約14億4000万円をかけてトキの野生順化施設の建設を進め、2007年３月に完成した。同施設は、トキの野生復帰を実現するため、約20haの敷地内に飼育施設と管理施設を建設。えさ場やねぐら、営巣木などの環境を整え、飼育下のトキが自然状態で自立して生きていけるよう、えさ採りや営巣、繁殖、飛行、天敵回避などの訓練を行うのが目的だ。また、周辺には放鳥後のトキが戻ってくることを想定した整備も施されている。
同施設の建設に合わせて、環境省、農林水産省、林野庁、国土交通省は連携して、「トキの野生復帰のための生息環境の整備方策策定調査」を2004年度から実施し、2005年11月に調査結果を公表した。トキの生息環境の保全と再生を進めるために、佐渡島で河川、湿地、水田、水路、営巣木、ねぐら木などについて、望ましい生息環境の整備方策を検討したものだ。具体的には、農水省はドジョウ、カエルなどトキのえさとなる生物を増やすため、水田内に水路などを整備し、林野庁はアカマツ保全対策と多様性に配慮した間伐を実施して、トキの営巣木を確保する。また、環境省は湿地と草地でビオトープを整備してえさ場を確保し、国交省は河川内の浅場などを確保するとしている。同調査の結果は整備マニュアルと報告書としてまとめられ、その成果は各省が所管する公共事業などに反映されることになっている。
国は今後、2008年度に試験放鳥を行い、2015年までに小佐渡東部に目標である約60羽のトキを野生化し、定着させる考えだ。また、トキの天敵対策なども行われている。一方、2007年11月に「トキ野生復帰日中国際シンポジウム」が新潟県で開催された。同シンポは、日本と中国の相互協力のもとで進められている、トキの保護活動の成果や野生復帰の取り組みを紹介するために、内外の官民関係者が協力して行ったもので、中国やヨーロッパで進められているトキの野生復帰事業プロジェクトの紹介や、新潟県佐渡島のトキと、兵庫県豊岡市のコウノトリの野生復帰の取り組みの報告などが行われた。
