近年、とくに東南アジア、アフリカなどの野生動植物種の多くが、自然破壊などによって、絶滅の危機に直面している。その生物が希少になれば高値で取引されるため、野生生物本体や、それを素材とした剥製や薬品などの製品が、世界各国で売買されている。このような現状を打開しようと1973年、アメリカのワシントンで「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」が採択され、開催された町の名前を取って「ワシントン条約」あるいは、英語正式名称の頭文字をとって「CITES」と呼ばれるようになった。日本は1980年11月に60カ国目の締約国になった。
「ワシントン条約」は、野生動植物の国際取引の規制を、輸出国と輸入国が協力して実施することによって、絶滅の恐れのある野生動植物の採取・捕獲を抑制しようとするものだ。
この条約では、国同士の取引を制限する必要がある野生動植物種のリスト(「附属書」と呼ばれる)がついており、「附属書I」「附属書II」「附属書III」の3つに分かれている。3つの附属書に記載された野生動植物種は、それぞれ取引されるにあたってどのような制限を受けるかが決められている。
「附属書I」にリストアップされた野生生物は、今すぐにでも絶滅する危険性がある生物で、ジャイアントパンダ、トラ、ゴリラ、タンチョウなど約900種である。これらの野生生物は学術的な研究については輸入国と輸出国の政府の許可書があれば認められるが、それ以外の輸出入は禁止されている。ただし、飼育繁殖されていたものに関しては例外的に認められる場合もある。
「附属書II」の野生動物は、国際的な取引を規制しないと将来絶滅の恐れのあるもので、取引はできるが輸出入には輸出国の政府の発行する許可書が必要となる。タテガミオオカミ、カバ、野生のサボテン、野生のランなど3万2500種。
「附属書III」はその生き物がその国で生息するために、国際的な協力が必要な野生生物で、ボツワナのアードウルフ、カナダのセイウチ、ガーナのコガモなど約300種。この場合も輸出入には輸出国の政府の発行する許可書が必要となる。附属書にリストアップされた生き物については生きている状態だけではなく、皮や肉、骨などの素材取引も制限されることになる。