環境中に存在する微量の化学物質に接することにより、神経系や免疫系の異常などさまざまな健康影響や体調異常が引き起こされることがある。このような健康影響について、国際的には多種化学物質過敏状態(MCS:Multiple Chemical Sensitivity)と呼ばれているが、日本では化学物質過敏症として呼ばれることが多い。この、いわゆる化学物質過敏症は、日常生活の中で特定の化学物質に長期間接触し続けることで、体内の耐性の限界を越えてしまい発症するといわれる。建材などに含まれる揮発性有機化学物質などによる室内空気汚染や、大気汚染、食品中の残留農薬など多くの原因物質があると考えられる。主な症状としては、自律神経失調症のほか、不眠、うつ、皮膚炎、ぜん息など、多岐にわたり、症状を訴える人は近年急速に増加している。しかし、化学物質への感受性は個人差が大きく、同じ環境下にあっても発症する人としない人がおり、発症のメカニズムには不明な点が多く、治療方法も確立していない。また、化学物質過敏症の存在自体を否定する学説もある。環境省では1997年に研究班を設置して疫学研究を実施し、「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究」報告書を2004年に公表。その中で、「いわゆる化学物質過敏症の中には、化学物質以外の原因(ダニやカビ、心因等)による病態が含まれていることが推察」されるとし、動物実験の結果から、「微量(指針値以上)の化学物質の曝露により何らかの影響を有する未解明の病態(MCS:本態性化学物質過敏状態)の存在を否定し得なかった」と指摘。関係各省と連携、協力して、指針値を超えるような化学物質の曝露による未解明の病態(MCS)の研究を中心に、病態解明のための基礎的研究や、実生活における曝露状況の把握のための調査を実施するとしている。また、同省は2005年度から、化学物質環境実態調査の一環として、化学物質過敏症との関連が指摘されている化学物質の一般環境中の極微量分析法の開発を進めている。しかし、NGO/NPOなどの市民団体や症状をもつ人からは、化学物質過敏症への一層強い取り組みを求める声が上がっている。