法律などの社会の決まりを遵守する(きちんと守る)ことを英語でコンプライアンスという。20世紀後半に入り、企業活動が社会経済の大きな部分を占めるようになった。これに伴い、企業に対して事業活動などにおけるコンプライアンスの徹底を求める社会的要請も強くなった。コンプライアンスの向上は、企業同士が公正で自由な競争を行うために重要だ。公正取引委員会が2009年3月に行った調査結果によると、東証一部上場企業の中から回答があった1041社のうち、98%の会社がコンプライアンスに関するマニュアルを整備している。
環境関連の条約や法制度などの社会的な決まりを守ることを、とくに「環境コンプライアンス」という。環境コンプライアンスは、環境に関する国際規格のISO14001における法的な要求事項であるだけでなく、企業の社会的責任(CSR)の一環としてその徹底が求められている。また、法令などを守るだけでなく、その背景にある理念や精神を大切にすることも含まれる。たとえば、製品をつくるために工場から汚染物質を排出する企業が、大気汚染防止法や地方自治体の条例に基づく基準を守るための設備投資を行うのは当然のことで、生産に伴う排出物質自体をゼロに近づけるなど、それ以上の取り組みが求められるようになっている。
わが国では、経済産業省と環境省が共同でまとめた「公害防止ガイドライン」の中で、全社的環境管理コンプライアンスの重要性がうたわれている。全社的環境管理コンプライアンスとは、社長をはじめとする経営者から事務員や作業員などの社員に至るすべての人が、環境対応型の公害防止対策に取り組むことだ。事業者は、工場などの現場と本社の環境管理部門の両方で環境コンプライアンスの実践に取り組むことが求められる。また、社員教育や利害関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションも重要だ。
同ガイドラインは全社的環境管理コンプライアンスを実現するための行動指針として、次の5つをあげている。1) 方針の明確化、2) 組織の構築、3) 予防的取組、4) 事後的取組、5) 関係者との連携。このうち「予防的取組」とは、環境汚染や公害発生時にとるべき対処方針をあらかじめ明確化して社員に知らせておくとともに、工場や現場での汚染発生を未然に防止する取り組みであり、きわめて重要なものだ。近年、有害物質による土壌汚染の発覚や産廃の不法投棄、古紙の含有率を偽る「エコ偽装」などが社会問題化しており、環境コンプライアンスに対する企業の姿勢が問われている。