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16歳の老犬「先が短い」と聞き、介護をするため仕事を辞めて実家へ 制作は「もういないということを受容するための大切な作業だった」【著者に聞いた】

  • 2024年4月28日
  • Walkerplus

「いつも家族の中心にいて、ほほえみをくれた実家の大型犬。ある日、先が短いと知らされて――」一人暮らしをしていた漫画家つづ井さんのもとに知らせが入り、老犬と過ごすために仕事を辞めて実家へ帰った。老犬を介護し、最期を看取るまでの温かい日々を描く「老犬とつづ井」(文藝春秋)を紹介するとともに、つづ井さんに本作に秘めた想いを聞いた。

■「こんなにお互いの気持ちがわからないいきものと暮らすことができるんだ」愛犬が教えてくれたこと
老犬の最期を看取るまで介護をしたつづ井さん。本作のなかで「私にできることは全部させてもらえた」と語る。後悔はなかったものの、それでも看取ってからしばらくは拭いても拭いても止まらない涙が出る日々は続いたという。

――今回、飼い犬のことを漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。

実家の犬(以下Aと呼びます)が老犬になって、その介護をするために仕事を辞めて地元に帰りました。おじいちゃんになったAとの生活は、それまでの若くて元気だった彼との日々とは違って、うっすらもの悲しくてとても穏やかで、私にとってとても大切な時間になりました。Aを看取ってから、あの毎日を私の大好きな絵日記という形で残しておきたいなと考えていたところ、編集さんに声をかけてもらい「老犬とつづ井」を描くことになりました。

――本作を描くうえで気を付けたことがあれば教えてください。

一つ目は、「私がAの気持ちを代弁しないこと」です。こちらの勝手でAに人間的な情緒を過度に押し付けて、たとえば自分の心を慰めるためとか絵日記の体裁を整えるためとか、そういう目的でAに都合よく喋らせることのないようにしました。二つ目は「感傷的になりすぎないこと」です。Aがいない悲しみに浸りきって、自分で読み返して悲しいだけの絵日記にはしたくないなと思っていました。どちらもやりすぎると事実と離れてしまう気がしたので、なるべくその時の感情や出来事そのままに、フラットに描けるよう気をつけました。

――描く前と後で何か気持ちの変化はありましたか。

あとがきにも書いたことなのですが、絵日記にするにあたってAのことを細かに思い出したり写真を見返したり、家族とAの話をしたりするたびに、だんだんAについて考えるときの自分の気持ちが、悲しいだけではなくなっていく感覚がありました。この絵日記を描くことは私にとって、Aがもういないということを受容するための大切な作業だったなと今となっては感じています。本当に描けてよかったと思っています。

――気持ちが通じあっているエピソードがたくさんあって、とても温かい気持ちになりました。つづ井さんにとって、Aはどんな存在でしたか。

むしろ「こんなにお互いの気持ちがわからないいきものと暮らすことができるんだ」というおもしろさを教えてくれた存在だと思っています。相手の心をそのままのぞけない以上、同じ言葉を使う人間が相手だとしても言えることだと思うのですが、自分とは何もかも違う存在と同じ時間を過ごす喜びというか、そこでまれに心が通じたような気がした瞬間の大切さとか、そういうことをAとの生活から学んだと思います。

――今回、漫画で描かれなかったエピソードはありますか。

老犬介護の話とはなっていますが、終末期の痛々しいAの姿は描きませんでした。描き残したいところはそこではなかったし、どうしても感傷的になってしまうと思ったので、もっと楽しかった老犬との日々をたくさん描かせていただきました。

――読者の皆さんへメッセージをお願いします。

既に読んでくださった方、ありがとうございます!楽しんでいただけていたらうれしいです。なかには、まだ自分はこの本が読めないなって感じている方もいるだろうと思います。今すぐではなくでも、この本が必要な方に、必要なタイミングで届いたら嬉しいなと思っています。私にはこの本が必要でした。ありがとうございました!

つづ井さんが「Aの気持ちは代弁しないようにした」とインタビューで答えたように、言葉は交わせなくてもAは人間の言葉を理解していたようで、それが表情や態度から伝わってくる。いっしょに過ごしてきた家族だからわかる、積み重ねてきた日々のエピソードが綴られている――。「裸一貫!つづ井さん」や「腐女子のつづ井さん」とはまたひと味違うテイストのエッセイで、静かに心が温かくなる一冊だ。

取材協力:つづ井(@wacchoichoi)

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