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コーヒーで旅する日本/九州編|ツタに覆われた長門・仙崎のロースタリーカフェ「Cafe Struggle」。20年営みを続け見えた変わらないこと、変えるべきこと

  • 2024年1月29日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第88回は山口県長門市にある「Cafe Struggle」。もともとは「廣田珈琲店」の名で開業したロースタリーカフェだ。長門市で生まれ育ち、さまざまな仕事を経験してきた店主の廣田吉斉さんは30歳のときに初めて飲食店で働き、接客・サービス業が自身が続けていきたい仕事だと実感。働いたのがカフェバーであったことから自然とコーヒーに興味を抱き、手網焙煎機を購入。趣味で焙煎を始め、ますますコーヒーにハマっていった。

廣田さんは「コーヒーについて専門的にどこかで勉強したわけではないので、ほぼ独学ですね。いろいろな自家焙煎店を巡り、自分が目指す味わいの方向性を見つけ、それに近づけてきたという感じ。だからうちのコーヒーは個性があるとか、フレーバーがすごく特徴的でといったような、特別押し出すことはそこまでないんですよ」と控えめに話す。

ただ、店を開いたのは2004年(平成16年)。今年で20周年を迎えるというから、その歴史は長い。長く店を続けてこられているのは、それだけ多くのファンに愛されてきたということだ。廣田さん自身が多く語ることはないが、確かなこだわり、ポリシーを端々に感じられる「Cafe Struggle」。その魅力に迫る。

Profile|廣田吉斉(ひろた・よしあき)さん
山口県長門市生まれ。高校を卒業後、故郷を離れ、山口市内などでさまざまな仕事を経験。30歳から5年間、カフェバーで働いたこと、山口市内で出合ったおいしいモカに感銘を受け、趣味で焙煎を始める。2004年(平成16年)、長門市に「廣田珈琲店」をオープン。開業から13年を経て、環境や心境の変化もあり、屋号を「Cafe Struggle」に変更。今に至る。

■もがきながら、楽しみながら
長門市の観光名所の一つになっている金子みすゞ記念館のほど近く、ツタに覆われた倉庫のような建物に小さく掲げられた木製看板。うっすらと「廣田珈琲店」と見て取れるのは、以前の屋号だ。現在は「Cafe Struggle」に改名。まずは廣田さんに屋号の意味、なぜ改名したのかなどを聞いてみた。

「もともと菓子作りが好きだった妹と2人で店を始めたんです。自家焙煎コーヒーと自家製スイーツが柱という、まぁ普通のカフェですよね。ただ妹が結婚し、ずっと店に立ってもらうということができなくなり、スイーツの種類も少し減りました。正直、屋号を変える必要はなかったのですが、飽きやすい私の性格もあり、ちょっと環境面から変えてみようかなって。Struggleというのは“悪戦苦闘”や“もがく”といった意味がある俗語で、いろいろ自分が好きなことを試行錯誤しながらでもやっていけたらという思いが少しだけ。ただ、本当に特に大きな意味はないんですよ」

そう廣田さんは話すが、店内に現在は使われていないラ・マルゾッコのエスプレッソマシンが無造作に置かれ、代わりにカウンター内に据えていたのは、メタリックなボディ、2本のレバーが印象的な小さなエスプレッソマシン。あまり見たことがないマシンだ。

「ここ最近、どれだけエスプレッソをおいしくできるかということを考えていて。このマシンはBOSCOというイタリア製のエスプレッソマシンで、オートメーションではなく、人力で圧力をかけて抽出する仕組みなんです。このマシンに変えたからといって劇的に味わいが変わるわけではないのですが、自分自身が変化を楽しむという意味もあって導入を決めました。それに以前使っていたマシンに比べると電気代が半分ぐらい安くなった。光熱費削減の意味も込めて」と笑う。

そういった話を聞くにつれ、廣田さんはとても控えめな性格に見えるが、常になにかおもしろいことを探しているように感じる。2023年末に中古でちょうどいいサイズの発酵機も手に入れたことから、フォカッチャを手作りし、イタリアンスタイルのサンドイッチを新たにメニューに加える予定だという。

■コーヒーで尖る必要はない
一方で創業時から変わらないのは焙煎環境。フジローヤルの半熱風式5キロを独立したときから使用しており、定番ブレンド3種、シングルオリジン7〜9種を常時用意している。驚くのがその価格の手ごろさ。200グラム900円という豆も複数あり、しかも店頭などでは一切謳っていないもののすべてスペシャルティ規格の生豆を使っているという。

「原料費が上がってきているので値上げせざる得ない種類も出てくるとは思いますが、定期的に通ってくださる地元の常連さんもいてくださるので、できる限りお求めやすい価格で、というのは常に意識しています」と廣田さん。

豆のラインナップはまろやかブレンド、みすゞ通りブレンド、くじらブレンドを筆頭に、グアテマラ、コロンビア、ブラジル、マンデリン、エチオピア・モカ、珍しい産地だとドミニカなどもある。焙煎度合いは飲みやすさを重視して中煎りが大半。生産処理もウォッシュトの生豆を選ぶことが多いそう。その理由は個性を前面に押し出したくないから。もちろん“あえて”だ。この生豆のセレクトの仕方、万人が飲みやすい中煎りがメインという焙煎度合いは廣田さんの人柄をよく表していると感じた。

■ツタに覆われたノスタルジックな空間
自分自身もカフェ経営を楽しむという意味で適度な変化は大切にしつつ、普遍性が大事な部分は変えずに20年にわたり店を続けてきた廣田さん。店がある仙崎地区は長門市内では観光地として知られるエリアで、道の駅センザキッチン、金子みすゞ記念館、少し足を伸ばせば青海島など、観光客が訪れるスポットがたくさん。

その中で「Cafe Struggle」は異色の佇まいのカフェとして知られる。建物はもともと農協の事務所で、店内壁面に残された埋め込み式の金庫が印象的。廣田さんが店を開いた20年前は「ここで店ができるのか?」と躊躇するほど暗い雰囲気で、周囲からも反対されたというが、「実家から近いし、昔から過ごした馴染みある場所だから」という理由でここで開業。

ただ今や唯一無二の空間のカフェとして広く知られるようになった。ツタに覆われた倉庫を思わせる建物、レトロな店内のしつらえ、そして廣田さんが大切にしてきたコーヒー。長門市を訪れた際は「Cafe Struggle」でしか味わえないカフェ時間をぜひ体験してほしい。

■廣田さんレコメンドのコーヒーショップは「徳山コーヒーボーイ」
「山口県に複数の店舗を展開する人気ロースタリー『徳山コーヒーボーイ』。代表の河内山さんには開業時にさまざまなアドバイスをいただいたり、私にとってコーヒーの師匠的な存在。今も近くに来た際は店に立ち寄ってくださったり、大変お世話になっている方です」 (廣田さん)

【Cafe Struggleのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式5キロ
●抽出/エスプレッソマシン(BOSCO Sorrento)、ハンドドリップ(Melitta アロマフィルター)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/200グラム900円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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