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コーヒーで旅する日本/関西編|台湾産コーヒー復権の立役者。「GOODMAN ROASTER Kyoto」が伝える“幻のコーヒー”の進化と真価

  • 2023年12月19日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第72回は、京都市の「GOODMAN ROASTER Kyoto」。台湾で創業し、2019年に日本初の姉妹店としてオープン。ロースタリー激戦区・京都でも注目を集めるユニークな一軒だ。店主の伊藤さんは、現地の農園で台湾産コーヒーに出合って以来、本格的にコーヒーの世界へ。自らが衝撃を受けたその味の、復活と普及を目指して現地に移住し、一時は幻と言われたコーヒーの存在を再び広めた立役者の一人。進境著しい現地のコーヒーシーンを体感してきた、伊藤さんが提案する台湾コーヒーの魅力と、これからにかける期待とは。

Profile|伊藤篤臣(いとう・あつおみ)
1981年(昭和56年)、東京都生まれ。スターバックスコーヒーでの勤務を経て、各地の伝統的な産物を中心としたセレクトショップ・藤巻商店に転身。店長を務めていたときに、台湾産コーヒーの存在を知り、現地の農園を訪れると共にコーヒー本来の味の魅力に開眼。以来、独学でコーヒーの知識・技術を深めながら、台湾コーヒーの復権を目指して現地の農園をたびたび訪問。2010年から台湾に移住して、現地で普及宣伝を行うAlisan Projectを展開。2014年、台北で「GOODMAN ROASTER」を創業し、現地で2店をオープンしたあと、2019年、京都に日本初の姉妹店「GOODMAN ROASTER Kyoto」を開業。

■阿里山の風景と共に刻まれたコーヒーの原体験
年々広がりつつある新たなコーヒーの産地の中でも、注目を集めている国の1つが台湾。近年、急速に品質向上を果たし、いまやそのユニークな風味で存在感を増している台湾のコーヒーを広く知らしめた立役者の一人が、誰であろう店主の伊藤さん。一時は“幻の”とも言われたコーヒーの復権、その始まりは15年ほど前に遡る。

当時、スターバックスコーヒーを経て、伝統産物を中心に扱うセレクトショップ・藤巻商店に勤務していた伊藤さんが台湾を訪れたのは、まったくの偶然から。「スターバックス時代の同僚に“台湾でもコーヒーが採れる”という話を聞いて、仕事にも役立つかと思い、個人的に台湾の阿里山にあるコーヒー農園を訪れたんです。初めての経験でしたが、周りに山々が連なる農園の壮大な光景に心打たれました。そんな自然の真っ只中で飲んだコーヒーは、お茶やパイン、ライチ、マンゴーといった土地本来の風味が伝わってきて。それまで、深煎りのコーヒーを飲みつけていたこともあり、対極にある浅煎りのコーヒーの魅力に存分に取りつかれました」と振り返る。街なかの店ではなく、山懐の農園の中で味わった一杯は、忘れがたいコーヒーの原体験として今も心に刻まれている。

台湾での鮮烈な出合いを経たことで、帰国後、「この味をもっと広めたい」と、猛烈な勢いでコーヒーに関する知識、技術を学び始めた伊藤さん。実際にコーヒーを扱うスキルの不足を埋めるべく、東京のスペシャルティコーヒー専門店の店主と交流を広げ、カッピングに参加するなど、独学でコーヒーへの造詣を深めていった。その過程で知り得たことの1つが、台湾のコーヒー栽培が、実は1825年の日本統治時代に始められたという歴史。当時の農業政策の一環としてコーヒー栽培が進められ、明治時代には、日本に宣伝・普及するための台湾喫茶店が登場し、時の皇室にも献上されたという。戦後、コーヒーノキはほとんどすべて伐採され、一時は途絶えたかに見えたが、2000年代に入ると農園の若手後継者が“幻のコーヒー”復活へ向けて動き始める。伊藤さんが台湾を訪れたのは、ちょうど現地の機運が高まり出した頃。日本との縁の深さを知ったことも、台湾のコーヒーに傾倒した理由の1つだ。

■復活した“幻のコーヒー”を台湾から日本へ
とはいえ、当時の阿里山は高級茶の産地として有名でも、生産に手間暇のかかるコーヒーの栽培はわずかに残るのみ。自らが感動したコーヒーを、このまま埋もれさせないために、その後も何度となく台湾に足を運び、ついには2010年、家族と共に台湾に移住した伊藤さんは、かつての名産地・阿里山のコーヒーを復活させるプロジェクトを現地で立ち上げる。

当初は何の伝手もなく中国語もわからなかったが、旅行代理店の現地人社員の協力を得て、阿里山に点在するすべての農園に足を運んだ。生産量とクオリティの向上に取り組むと共に、2011年からは現地でポップアップストアを展開し、台湾産コーヒーの存在を広めていった。とはいえ、「このときが、一番苦しい時期でもありました」と伊藤さん。「当時は台湾の人であっても、誰も自国のコーヒーに興味がなかったんです。それでも人気のセレクトショップや空港にも置いてもらえるようになり、お土産として徐々に広がっていきました。時期的に、サードウェーブの世界的な広がりにも後押しされたのは大きかったですね」

苦労を重ねつつ、現地でのプロジェクト活動を続けること3年、2014年に台北に「GOODMAN ROASTER」の1号店をオープン。自家焙煎での豆の販売を始め、台湾のコーヒーを現地で広める拠点を作ったあと、満を持して2019年に日本1号店を京都に開店する。一見、意外なロケーションに思えるが「東京は地元である分、知り合いに頼ってしまいそうで、まったく知らない土地でやりたかったというのが理由の1つ。また、台湾の方は京都が好きで人気観光地でもあるので、旅行で来られる方も多いと思って」と伊藤さん。台湾からのいわば逆輸入の形で誕生した店は、ロースター激戦区の京都でもほかにはない個性で支持を得ている。

店で提供するのは、看板の阿里山コーヒー2種と、各国のシングルオリジン3~4種。一口に阿里山といっても、長大な山脈を成すことから農園も数多い。伊藤さんが扱うのは、原住民・ヤムイ族の農園で完全オーガニック栽培された豆。ナチュラル、ウォッシュド共に、48~72時間のアナエロビックプロセスを経ているのが特徴だ。「いろんな産地のコーヒーと飲み比べて、台湾のコーヒーの個性を評価してもらうという意図もあります。また、日本では台湾のコーヒーの特別感を出したかったので、提供スタイルを変えています」と、阿里山コーヒーは、台湾の茶藝よろしく急須と茶器で供するのが、京都店ならではの趣向だ。

ナチュラルは、紅茶やシナモンを思わせる芳香、ダークチェリーのような甘味が相まって、後味の芳醇な香気が印象的。片やウォッシュドは、烏龍茶にも似たみずみずしい清涼感、さわやかな果実味が清々しい。小さな茶器でちびちび飲むことで、余韻はさらに後を引き、すいすいと杯が進むのが心地よい。台湾では、この形で出している店はないそうだが、「現地の友人たちと茶器でコーヒーを飲んだ時間が楽しくて、その印象が鮮明に残っていたんです」という思い出が特別な一杯に込められている。

■進境著しい台湾コーヒーシーンに膨らむ期待
開店直後にコロナ禍に見舞われるという不運はあったが、逆に台湾では自国のコーヒーにフォーカスするきっかけになり、現地での支持は高まったのだとか。現在、京都店は、海外からの観光客が集う定番の一軒としてにぎわっているが、「意外に台湾からの方が少ないので、もっと多くの方に来てもらいたいですね」と期待を込める。伊藤さんが、台湾のコーヒーに出合ってから15年。いまや栽培品種もゲイシャやティピカ、SL-34など幅が広がり、スペシャルティグレードの豆も登場。今年から、台湾のカップオブエクセレンス(COE)もスタートするまでにクオリティは向上した。

「農園や生産者も増えて、COEオークションができるほどに質量ともに高まった。台湾のロースターの競技会では、ギーセン15キロ焙煎機が優勝賞品になっている。自分もほしいくらいですが(笑)。それほど、参加者と運営側の熱意がスゴイ。進化のスピードが目覚ましく、台湾国内でも技術レベルは急速に上がっていて、あと5年もすれば世界のレベルに追いつくはず」と伊藤さん。失われかけた台湾のコーヒーを復活し、新たなブランドとして世界に広めた功績は現地で高い評価を得ている。

一杯のコーヒーから始まった開拓精神は、仕事のうえでの師である藤巻商店・藤巻さんによる薫陶も大きい。「“日の当たらないものでも、少し場所をずらすだけで脚光が当たるようになる”というのは、台湾コーヒーに当てはまること。より広くブランディングできるかどうか、まだまだこれからです」と伊藤さん。折しも、現在、台湾ではハイブリッド交配で全く新しい品種の開発が進んでいるとか。「もし実現されれば、新しい名前を持つ品種になります。これはインパクトが大きい」と期待を寄せる。台湾はお茶のイメージがいまだ強いが、“台湾と言えばコーヒー”といわれる時代の到来は、思うより近いかもしれない。

■伊藤さんレコメンドのコーヒーショップは「COYOTE coffee」
次回、紹介するのは、京都市の「COYOTE coffee」。「京都に来てから知り合った店主の門川さんは、いい意味で“コーヒークレイジー”と呼びたい方。エルサルバドルのコーヒー専門店というコンセプトもユニークで、産地にもたびたび訪れていて、出で立ちも現地の農園からやってきたような雰囲気。うちと同じく、1つのオリジンにフォーカスするお店として、親近感を覚える存在です」(伊藤さん)

【GOODMAN ROASTER Kyotoのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~中煎り
●テイクアウト/ あり(600円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン5種、200グラム1620円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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