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コーヒーで旅する日本/東海編|精度の高いカッピング技術を武器に、コーヒーの魅力を啓蒙。「山田珈琲」

  • 2022年12月28日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第2回は、岐阜県岐阜市にある「山田珈琲」。店主の山田英二さんは、スペシャルティコーヒーの概念が生まれてコーヒー業界に大きな変化が起こった1990年代後半から2000年代にかけての黎明期に、第一線を駆け抜けた人物のひとりだ。高品質コーヒーを知ったことで、山田さんの関心は品質を図るためのカッピングという技術へと向かった。そして2004年、「高品質コーヒーの世界を知ってからずっと目標にしていた」という日本人初の国際審査員に。自らの道を切り開きながら激動の時代を駆け抜けた山田さんが、目標を達成した先に見据える未来とは。これまでのコーヒー人生の軌跡を辿りながら、山田さんにとっての「コーヒー」という存在について伺った。

Profile|山田英二(やまだ・えいじ)
1967(昭和42)年、岐阜県岐阜市生まれ。コーヒーに興味を持ったのは、東京でひとり暮らしをしていた時に先輩が淹れてくれた一杯がきっかけ。1996年、地元である岐阜市で「珈琲の七福」を開店。1999年、東京のコーヒー展示会で高品質コーヒーを知る。2002年、アメリカのコーヒー展示会に参加し、カッピングの技術習得を開始。2004年、WBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)国際審査員に日本人として初めて合格。2005年には、COE(カップ・オブ・エクセレンス)の国際審査員に初招聘された。2008年、店名を「山田珈琲」に変更。

■コーヒーのおいしさはどこからくるのか
岐阜市の中心部を流れる清流長良川から北上すること約1.2キロ。主要道路である国道256号線の裏通りに店を構える「山田珈琲」では、高品質な生豆を仕入れて焙煎し、販売している。店主の山田英二さんにとっての原点は、東京で飲んだ一杯のコーヒー。「小さいころから喫茶店に行く機会は多く、コーヒーは嫌いではありませんでしたが、先輩の家に泊まった翌朝に飲んだコーヒーは私にとってかけがえのない体験でした。わざわざ豆を挽いて淹れてくれたもてなしの心、コーヒーそのものの香りに、安らぎを感じたのです。私の心に、『コーヒーとはホッとしたい時に飲むもの、ほかに代わるもののない飲み物』だと刻まれた瞬間です」。それから数年が経ち、生まれ故郷の岐阜に戻ってコーヒー店を開業。自家焙煎のコーヒーを提供する「珈琲の七福」としてスタートを切った。

「当時は、仕入れた生豆を小型焙煎機で焙煎し、1杯ずつ抽出して提供していました。ところが、同じように焙煎しても納得いく味にならない時があるのです。原因がわからず思い悩んでいた1999年、東京のコーヒー展示会で『国連コーヒー』のブースに立ち寄りました。自分がこれまで扱ってきたコーヒーとの違いにショックを受けるとともに、『探していた答えはこれだ!』と思いました」。それは、高品質コーヒーとの初めての出合い。国連が5つのコーヒー生産国に技術指導して生産された、高品質な「国連コーヒー」を紹介する「国連グルメコーヒー開発プロジェクト」の一環だった。アジア初披露となった場に偶然にも居合わせたことは、まさに運命と言えるだろう。

■何をするにもカッピングが重要
「コーヒーのおいしさの一因は素材の品質にある」と確信したものの、どうすれば高品質コーヒーを入手できるのか悩む山田さんは、SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)の展示会へ参加するためにアメリカへ飛んだ。そして、現地でさまざまなセミナーを受け、カッピングという技術があることを知った。「焙煎でも、ブレンドでも、抽出でも、カッピングによる品質チェックが重要だったのです。何をもって高品質とするのか。例えばフレーバー、例えばロースト。実にさまざまな指針があり、これをしっかりと見極めることは必要不可欠です。見極められなければ、高品質な素材を仕入れることなど到底できません」と、カッピングの重要性を語る山田さん。アメリカでの学びを得て、品質を客観的に評価する国際審査員を目標に据えたのは当然の流れだった。

そして、カッピングを真剣に学ぶ山田さんにチャンスが訪れる。2004年、WBC国際審査員になるための試験を受けることになったのだ。アメリカやヨーロッパといったコーヒー先進国の先鋭に混じって、日本人でただ一人、合格を勝ち取った山田さん。念願だった国際審査員に、日本人として初めて選出された。そして、2005年からはCOEの国際審査員も務めるようになる。COEは、その年最高のコーヒーを選ぶ、世界で最も影響力のある品評会。高品質コーヒーの最前線に立ち、客観的な評価技術を磨き続けた。

■啓蒙することもミッションの一つ
1990年代後半から2000年代は、コーヒー業界にとって非常に大きな変革期だった。生産国の技術革新、消費者のコーヒーに対する認識の変化が同時多発的に巻き起こり、新しい価値基準が形作られていくなかで、最前線に立ち続けた山田さん。「当時はずっと、品質を追うことに精一杯だったような気がします。貴重な経験を通して得たものを、これからは多くの人に伝えていきたいですね」と、今は啓蒙することもミッションの一つと捉えている。2008年に店名を「山田珈琲」に変更し、2014年には約1年をかけて現在のスタイルにリニューアルをした。

まずは手の届く身近な範囲から。コーヒーという飲み物のよさを伝えるためには、追い続けてきた品質と、磨いてきたカッピングの技術が大きな意味を持つ。「焙煎する豆を判断するために、生産国、処理方法、品種、豆の形状の4つをチェックします。これらのポイントのかけ合わせによって、焙煎プランを決めるのです。そして、毎日の焙煎は、焼く前の生豆の温度が非常に重要。これによって、焙煎の基準となる温度が決まります」。焙煎後の豆は、カッピングして仕上がりをチェック。狙ったとおりの香りや味を引き出せているかどうかを確認する。

さらに、「カッピングはプロダクト(製品)を作るだけではなく、農園をも創造していくすごい技なんですよ」と話す山田さん。例えば、カッピングしてもフレーバーが感じられない時は、何に起因しているのかを探ってフィードバック。このためにはもちろん、生産現場を熟知している必要がある。コーヒーチェリーが一杯のコーヒーになるまでの過程を表す「From Seed to Cup」という言葉があるが、このすべての工程での品質チェックや問題の洗い出しにおいて、カッピングが重要な役割を担っている。

■コーヒーとはスーパーサブである
「最近、『コーヒーってなんだろう?』とよく考えるのです。私の場合、最初は『ホッとするもの』でした。この感覚は一体何なのか。ホッとするコーヒーの香りや味わいには、多くの人を惹きつけて、コミュニティを形成する力があるんじゃないかと思うようになりました。中心になくてもサブで支えてくれるもの、いつでもそばにいてほしいもの。だから、あるとホッとする。この安心感は、スポーツでいうところのスーパーサブに近いんじゃないかな」。コーヒー豆の販売のみを行う店内にソファやテーブルを配置しているのも、そんな『ホッとする』コーヒー体験を提供したいという思いから。「カフェ感覚で、試飲のコーヒーを飲みながら何時間もゆっくり過ごす方もいらっしゃいますよ」と笑う山田さんの姿は、充実感に満ち溢れていた。

■山田さんレコメンドのコーヒーショップは「スギコーヒーロースティング」
「愛知県高浜市にある『スギコーヒーロースティング』の杉浦さんは、高品質コーヒーの黎明期をともに駆け抜けた仲間のひとり。素材の特長ひとつひとつに合わせた、丁寧な焙煎をしています。実は、WBC国際審査員の試験を受けるために、杉浦さんのエスプレッソマシンをお借りして練習していたご縁もあります。練習用の豆を持って何度も高浜まで通ったことは、今でもいい思い出です。当時、本当に快くお店に置いてあるマシンを使わせてくださり、練習をさせてもらえたことを感謝しています。ありがとうございました!」(山田さん)


【山田珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバット「UG22」半熱風式22キロ
●抽出/マシンドリップ(試飲用のみ)
●焙煎度合い/中浅煎り~中深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/100グラム615円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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