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コーヒーで旅する日本/九州編|大切なのは素材や器に宿る物語。「タリル珈琲」でモノ・コトの本質に触れる

  • 2022年2月7日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第11回は、福岡県・朝倉市にある「タリル珈琲」。コーヒーを身近なものとして幼少期を過ごし、さまざまな仕事を経て、たどり着いた店主の集大成。コーヒーはもちろん、すべてのメニューやものに選んだ理由がある、ストーリー性を大切にしたカフェの魅力を探る。

Profile|稲永大穰
1984(昭和59)年、福岡県筑前町生まれ。喫茶店を営む両親のもとに生まれ、幼少期から身近にコーヒーがある環境で育つ。高校卒業後、地元の製菓工場に就職。その後、中古車販売の営業職を経て、福岡キャリナリー製菓調理専門学校に入学。在学中にtownsquare coffee roasters(店舗営業は現在、終了)で飲んだスペシャルティコーヒーに感銘を受け、焙煎に興味を抱く。専門学校卒業後、townsquare coffee roastersにて勤務。その後一度は中古車販売の仕事に戻るも、コーヒーの世界で生きていく夢を持ち続け、会社勤務の傍ら、tas coffeeの屋号でイベントなどに出店。2021年3月、妻の美貴さんとともに「タリル珈琲」をオープン。

■自身も好きだった空間が開業を後押し
昨今、コーヒーショップは続々と増えている。しかも、店のオリジナリティを表現する手段として、開業当初から自家焙煎に取り組む店がほとんどだ。その理由には1キロ窯など小型の焙煎機の選択肢が増えていることもあるが、逆にそれが意味するのは“自家焙煎”だけでは他店と差別化するのが難しくなっているということ。ファンを増やしていくには、さらに独自の世界観を表現する必要が出てくると考えると、「タリル珈琲」は良い手本となりそうだ。

2021年3月、福岡県朝倉市にオープンした「タリル珈琲」。住宅街の小さな薬局の2階にあり、入口も建物裏手と目立たない。店の存在を知らなければ、素通りしてしまうような隠れ家的なカフェだ。もともと、ヴィーガンとコーヒーを柱としたカフェがあった広々とした空間で、「タリル珈琲」の店主・稲永さんもその店の雰囲気やこだわりのメニューが好きで、よく訪れていたそう。

「家族でよく来ていた素敵なカフェでしたが、2020年の年末ぐらいに閉店することになって。その当時、私は会社員をしていたのですが、『tas coffee』という屋号でイベントなどに定期的に出店もしていました。妻といつか自分たちの店を持ちたいねと常々話していたこともあり、この空間を借りられるなら好機と考えました」と稲永さん。

タイミング的にはコロナ禍真っ只中。しかも、子供がもう少し大きくなってから店舗を持つことを想定していただけに、悩みに悩んだが、自分たちが理想とする物件との出会いはなかなかあるものじゃないと考えた上で開業を決意したそう。

■目指すのは味わいに奥行き、厚みのあるコーヒー
店舗ではブレンド1種を含む4種のコーヒー豆を用意し、焙煎度合いは大きく浅・中・深煎り。シングルオリジンは2022年1月現在、ハニープロセス(※1)のエチオピア、ウォッシュド(※2)のニカラグア、ウォッシュドのホンジュラスをラインナップしている。

「私が感銘を受けたスペシャルティコーヒーはtownsquare coffee roastersのゲイシャ(※3)。その当時、townsquare coffee roastersにはCOFFEE COUNTYの森さんをはじめ江口さん、suzunari coffeeの匹田さん、福岡市・天神にあるConnect Coffeeの安藤さんらが働いていて、学びの機会に恵まれていました。私は焙煎の技術を身に付けたかったのですが、森さんはカッピングの重要性を説き、『コーヒーの味わいを客観的に点数化できるかが重要。舌を鍛えることでしか、良い焙煎は導き出せない』と教えてくれた。townsquare coffee roastersで一緒に働かせていただいた期間はわずかでしたが、森さんと江口さんがCOFFEE COUNTYを久留米市に開いてから、毎週日曜だけ店頭に立つなどし、親交を深めていきました」と稲永さんは説明。そういった経緯から、現在もCOFFEE COUNTYから生豆を卸してもらっている。

店で導入している焙煎機はIHを熱源としたBULLET R1。店舗の規模や環境、焙煎する豆の量などを鑑みて選んだマシンで、実際に使用しているロースタリーの率直な意見なども参考に決めたそう。「納品されたのが2021年11月と、半年も使っていないため、まだまだ特性をつかめていないのが正直なところ。ただ、生豆のポテンシャルを損なわずに焙煎するという意味では、とても良いマシンだと感じています」と稲永さん。

その言葉通り、どの豆も香りが華やかで、フレーバーが際立っている。なによりすっきりとした飲み口は、日常的に楽しむのに適している印象だ。一方で現状に満足せず、より生豆が持つ複雑味を表現するために、味わいの奥行き、厚みを意識した焙煎を模索していきたいと意気込む。焙煎機の特性をつかむにつれ、今後ますます味わいは昇華していきそうだ。

■地域に根ざすカフェに
「タリル珈琲」は屋号に“珈琲”と付くものの、コーヒーだけが柱ではない。メニューはコーヒー以外に、朝倉産の無農薬レモン使用のレモネード(500円)、レモンスカッシュ(550円)、九州産生姜のジンジャーエール(550円)、筑前町むぎわらファームのニンジンと朝倉市の林農園のナシを使う梨とにんじんのジュース(600円)など、自家製シロップをベースにしたオリジナルのドリンクも豊富に取りそろえる。

さらに、フードも鹿児島県鹿屋市にある、ふくどめ小牧場で育てた豚を原料としたソーセージやハムを使う、パンと季節のサラダランチ(1600円)など、こだわりは随所に。すべて手作りのスイーツも常時5種程度と多彩だ。

稲永さんは「この場所は、朝倉市内でも栄えているエリアではないですし、コーヒーだけを求めて来店されるシーンは少ないと考えました。地元のお客さまに日常的にご利用いただくには、カフェとして魅力的である必要があります。まずはご来店いただき、どんな店なのか知っていただく。いろいろなメニューを用意することでリピートにつなげる。お店の味わいに興味を持っていただけたら、ご自宅用にコーヒー豆を買っていただく。そんな感じでお客さまに親しんでいただき、少しずつ地域に根付いていけたらと思っています」と話す。

器にもこだわりが光る。三重県伊賀市で作陶する城進氏の鉄絵マグカップ、大分県別府市在住の亀田大介氏が手掛けたラテ用カップなど、一杯のコーヒーをより特別なものにする厳選したプロダクトを使用する。ちなみにラテ用カップはとある茶舗での偶然の出会いから、直接作家にコンタクトを取り、作ってもらったそう。すべてのメニューや商品を通してストーリー性を感じることができる。これこそが、「タリル珈琲」ならではのオリジナリティ。
朝倉市は農業が盛んで、のんびりとした時間が流れる田園地。休日などにドライブがてら立ち寄り、日頃の喧騒を忘れるひと時を過ごすのにもピッタリだ。

■稲永さんレコメンドのコーヒーショップは「Connect Coffee」
次回、紹介するのは福岡県・福岡市にある「Connect Coffee」。
「『Connect Coffee』の店主、安藤さんはtownsquare coffee roasters時代の先輩で、日本屈指のラテアーティストとして有名。とても勉強熱心で、エスプレッソの抽出に関して技術、知識ともにピカイチです。開業にあたり、私自身、さまざまなアドバイスをいただきました。バリスタとしてはもちろん、人として尊敬できる方です」(稲永さん)

【タリル珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/BULLET R1
●抽出/エスプレッソマシン(LA MARZOCCO Linea mini)、ハンドドリップ(Kalita ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/シングルオリジン3種、ブレンド1種、100グラム800円、200グラム1500円、400グラム2700円、500グラム3190円

※1…コーヒーの実を天日干しにする前に果肉を削る方法で、ナチュラルとウォッシュドの中間と言われる。残す果肉の量により、ブラックハニー、レッドハニーなど名称は変わる
※2…コーヒーの実の果肉を機械で取り除き、発酵。さらに、その後の水洗過程で残りの付着物を除き、乾燥させる方法
※3…栽培が難しく、希少なコーヒー豆として知られるトップ品種。華やかで独特なフレーバーを持つ。パナマ産が有名だが、現在はエチオピアや中米各国で栽培されている




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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