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今夏フェス中止200件超。専門メディア代表が語る「生存のカギはハイブリッド化」

  • 2020年8月1日
  • Walkerplus

今や日本の夏に欠かせない存在となった音楽フェス。近年順調に成長を続け、各方面への経済波及効果を生み出してきたフェス市場だが、新型コロナウイルスの影響により大きな変化を迎えつつある。誰もが想像していなかった“フェスの無い夏”となる今年、業界やアーティストにもたらされる変化や影響、そしてウィズコロナ時代における、フェスの楽しみ方や在り方はどうなっていくのか。国内最大級の音楽フェス情報サイト「Festival Life」の代表を務める津田昌太朗さんに、現状や国内外の業界動向、今後について話を聞いた。

■市場規模300億円に迫る勢い!好調に推移を続けてきたフェス市場

2019年6月にぴあ総研が発表したデータによると、2018年の音楽フェスの動員数は前年比減の272万人となったものの、平均単価の上昇により、市場規模は前年比増の294億円に。市場規模300億円に迫る勢いで、年々拡大を続けていた。

「いわゆる4大フェス(※)と呼ばれる大規模なものからローカルフェスまで、さまざまなタイプが存在し、開催地域との結びつきが強いものも多い。いずれも野外、もしくは大人数が収容できる屋内でのライブが中心となるため、そういった環境や施設が整っている会場に行くまでの“交通”、複数日程や夜まで開催されるものに参加する際の“宿泊”、会場やその周辺での“飲食”など、多方面への経済効果があります」

※=「フジロックフェスティバル」(新潟)、「サマーソニック」(千葉・大阪)、「ライジング・サン・ロック・フェスティバル」(北海道)、「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」(茨城)の4つを指す。

また昨今では、地域活性化の視点からフェスを支援しようとする行政や自治体の動きもあり、行政主催や行政の協力を得たものも存在するのだという。地方を舞台にした新興フェスの実例として、2019年7月に福井県で開催された、県内初の本格野外フェス「ワンパークフェスティバル」がある。延べ1万人の観客が訪れ、その経済効果は約6億4000万円にも上ると発表された。

「定量的な面だけでなく、『福井でのライブは数年ぶり』『初めて福井に来た』といったアーティストのMCも現地で多く聞かれ、単独公演は難しい場所でも、フェスでならライブを行い、新たなファン層を開拓できるというような効果も感じられました」

■“フジロック”以降、各地で多彩なフェスが誕生。客層やニーズは多様化

そもそもの音楽フェスの先駆けと言われているのが、1997年に初開催された「フジロックフェスティバル」だ。一時的な東京開催を経て、新潟県・苗場スキー場に会場を移してからは右肩上がりに来場者数が増加。“アウトドア”や“環境配慮”といった文脈とともに、現在に続く日本のフェス文化が形成されたと考えられ、“フジロック”の後を追うように各地で特色あるフェスが次々と誕生した。

「“新しい音楽に出会う場所”という根幹的な価値を維持しつつも、フェスが一般化するにつれ、“フェスのレジャー化”という言葉も聞くようになりました。黎明期にはコアな音楽ファンが集まる場所でしたが、コアファンからライトファンまでもが楽しめる場所へと次第に変化していったように思います」

家族にフォーカスを当てたフェスやインバウンド需要に応えたものなど、一概にフェスと言ってもそれぞれに異なる進化を遂げ、その役割や観客の客層・ニーズは多様化している。もちろん観客だけでなく、アーティストにとってもフェスの存在はとてつもなく大きい。特に、グッズ販売や新規ファン獲得の面で重要視され、作品のリリース時期を始めとする年間スケジュールを、フェス中心に組むアーティストも多いのだそう。

「海外でも同傾向で、世界的に注目が高まるフェスへの出演前後には作品のリリースが相次ぐ。そこをプロモーションの場所と捉え、新作の初披露、アーティスト同士のコラボ作品の披露が行われる場合も多いですね。また、ブレイクの登竜門という側面も大きく、過去には“フジロック”のルーキーステージには、くるりやサンボマスター、最近だとKing Gnuといったアーティストも出演しました」

さらに、くるり主催の「京都音楽博覧会」や氣志團主催の「氣志團万博」を始め、アーティスト自身が開催するフェスも年々数を増やし、人気を博している。アーティストにとってのフェスとは、プロモーションや収益面、知名度向上におけるメリットが大きいと同時に、音源や単独公演以外でファンとのコミュニケーションを楽しむことができる場所でもあるのだ。

■200件を超えるフェスが中止・延期に。一方で、オンラインを活用した取り組みも

そして今年、新型コロナウイルス感染拡大により、200を超えるフェスが中止もしくは延期に。特に国内フェスシーンの原点であり、数多くのフェスに影響を与えてきた“フジロック”の2021年への延期発表は、業界やファンの間だけでなく、社会全体に強烈なインパクトを残した。主催者やアーティストにとって困難な状況が続く一方で、現状を打破するための新たなアイデアも現れ始めている。

「既存のフェスがオンラインでオリジナルコンテンツを提供したり、感染拡大以降に新たなライブ配信型のフェスが立ち上がったりと、さまざまな動きがありました。オンラインだけでなく、密じゃない状態での小規模フェスや、車の中で完結できるドライブインフェスが企画されるなど、この状況下でも少しずつ前に進み始めています。秋には『サマーソニック』の代替フェスである『スーパーソニック』や人気の都市型フェス『グリーンルームフェスティバル』の開催が予定されており、実際に開催できるのか、開催する場合はどのような形になるのか、業界内外から注目されています」
※「グリーンルームフェスティバル」は、8月1日に中止を発表

そのほかにも、「サマーソニック」が過去のヘッドライナー映像を無料公開する、「メトロポリタン・ロック・フェスティバル」が過去映像を11時間にわたって生放送するなど、大規模フェスも次々に対応策を講じた。7月31日には、「フジロック・フェスティバル」が当初開催予定だった8月21日(金)~23日(日)の3日間にわたって、過去のアーティストパフォーマンスを中心に編成した特別番組をYouTubeにて配信することを発表。オンラインを活用したものや来場者を制限して行うもの、さらには、リアル×オンラインの“ハイブリッド開催”を打ち出したものも。業界全体で模索しながら、コロナ禍における新たなフェスの形ができつつあるようだ。

また、クラウドファンディングやグッズ販売を通じたファンからのサポートや、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会3団体によるライブエンタメ従事者支援基金「Music Cross Aid」、日本ミュージックフェスティバル協会が主宰する「フェス救済ファンド」「ミュージックフェス救済募金」といった取り組みなど、内外からの支援の輪も広がっているという。

■今後伸びしろが大きい日本でのオンライン配信。国民性とマッチする部分も

しかし、オンラインフェスを始めとする代替策で従来と近しい収益・効果を生むには、「まだ時間がかかる」と津田さんは予想する。無料でもハイクオリティのライブ映像がたくさん観られる時代だからこそ、映像以外の付加価値、例えばグッズや飲食なども組み合わせた、リアルタイムでの体験を演出していくことが重要になってくるだろう。

「オンラインという特性上、アーティスト自身でも配信できるわけで、それがフェスである意味を考えていくとともに、アーティストにより多くを還元できる形を構築していかなければいけない。フェス自体がコンセプトやメッセージを発信して、アーティストがそれに共感する、もしくはフェス自体に世界観があって、それをオンラインで再現するというように、フェス側に“編集力”や“制作力”が求められるかもしれません」

そんななか、ひとつのターニングポイントになり得るかもしれないと注目を集めたのが、7月末に開催されたベルギーのデジタルフェス「トゥモローランド」だ。フェス自体にテーマがあり、ステージングやプレイ、装飾物でそのテーマを表現。ひとつの作品として、フェスの世界観をパッケージングして売るという、斬新な試みが行われた。

「オンライン配信の分野に関しては、日本にはまだまだ伸びしろがあり、配信+グッズ販売などの形でマネタイズが成功する可能性があります。また日本は、海外フェスのストリーミング視聴者数が多いとも言われている。普段からオリンピックやスポーツの深夜・早朝開催の試合をリアルタイムで観戦する人が多いことからも、日本人は世界のどこかで起きていることに対して、『時空を超えて遊びに行くこと・楽しむことが好き』『そういったことに抵抗の少ない』国民なのかもしれないですね」

■リアル×オンラインの“ハイブリッド開催”。映像+付加価値などで収益化を目指す

5月25日に緊急事態宣言の全面解除が発表され、商業施設やテーマパーク、飲食店やライブハウスなどの営業が再びスタートした。3密を避けた新しい生活様式が日常で実践されるようになった今、関係者すべての健康と安全を確保した上で、フェスやライブを開催・運営することは可能なのだろうか。

「当面の間は、オンラインフェス、そしてリアル×オンラインの両軸で考えていかなければならないと思います。これまではリアル開催のチケット収入込みで収支が成り立ってきたフェスがほとんどであり、人数や規模を制限した形だと成立しないというのが現状。しかしリアルで開催する限りは、ステージ設営や出演費なども従来と同様に発生するため、それを少ない人数によるチケット収入とオンライン配信による収入でまかなっていくことになります」

感染が収束していけば、リアルの規模を徐々に回復させ、その上でオンラインを活用してパイを広げていくという形も想定できるが、残念ながら先行きは見えない。この状況が続くなら、多くのフェスがさらなる苦境に立たされることとなるだろう。

「実際に世界最大級規模の『グラストンベリー・フェスティバル 』でさえ、来年リアルでの開催ができないと収支的にかなり厳しく、フェス自体の存続に関わってくるとコメントを出しています。“縮小版リアル+オンライン”という形がしばらく続くなら、賛否両論はあれど、『プレミアムな体験として高価格帯のチケットを販売するリアル』と、『裾野を広げるため手に取りやすい価格で参加できるオンライン』の“ハイブリッド開催”も行われるかもしれないですね」


■フェスが社会のためにできることを模索。行政・企業と連帯した仕組み作り

リアルの場で生の音楽を楽しむこと、そしてそれぞれのフェスが持つバックグラウンドや文化といった音楽以外での楽しみと出会えるのが代えがたい醍醐味であり、それをオンラインだけで再現しようとするのは難しい。しかし、「こういったタイミングだからこそ、フェスが社会に提案できることも増えてくるはず」と津田さんは話す。

「例えば、地域のお祭りやイベントはほとんどが中止になっています。そういったなかで、オンライン配信や規模を縮小した新しいフェスが、日進月歩で作られている。そのノウハウをほかのイベント主催者や行政にオープンソースとして提供することで、新しい時代の新しいイベントの形を、地域社会とともに模索していくことができるのではないかと考えています」

当たり前だった日常が一変してしまった今。日本が世界に誇るフェス文化を守り、その存在価値を示すためにも、これまで以上に行政や地域との連携が求められる。“音楽を楽しむ場”だけではない役割、社会的・文化的貢献度や経済効果といったさまざまな角度からフェスを捉え、その必要性を問い直すことが必要なのかもしれない。

「国や地方自治体から大まかな指針は出てくるかもしれないが、誰も体験したことがない状況なので、現場に立っている人たち自身が新しい基準を作っていくこと、それがさまざまな現場に展開していくことに期待したいです。今後は、フェスやイベントへの協賛企業も減っていくかもしれません。経済的な側面だけでなく、文化的な側面、さらには地域活性化といった面からも企業と協力し合うような動きが起こればと願っています」

音楽を媒介にして人々へ感動を与え、アーティストや業界に正しく還元し、地域を潤す。コロナ禍においてフェスがその真価を発揮するためには、ガイドラインや収益モデルの策定といった新たな仕組み作りが必要となり、まだまだ課題は山積みだ。音楽ファンとアーティスト、業界内外、さらには企業や行政とも連帯を図り、日本の夏に欠かせないフェス文化を取り戻すために、一丸となって立ち上がることが求められているのかもしれない。

取材・文/佐藤理沙子

※開催日程等は7月31日時点での情報です。取材日以降のフェス開催状況については、変更になっている場合があります。
※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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