なぜ鳥は春の朝に大きく、美しく鳴くのか、季節限定の大合唱

  • 2025年5月4日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

なぜ鳥は春の朝に大きく、美しく鳴くのか、季節限定の大合唱

 春になると、この季節にしか聞くことのできない爽やかな歌声が響いてくる。夜が明ける少し前、一斉に鳴く鳥たちのにぎやかな声は、オーケストラが奏でる音楽のようだ。鳥たちのこの早朝の大合唱は夜明けのコーラスという意味で「ドーンコーラス」と呼ばれ、特別な現象とされている。

 それにはいくつかの理由がある。春はいつもより多くの鳥が、いつもより頻繁にさえずり、しかもエネルギーをほとばしらせるかのように大きな声で鳴くからだ。ドーンコーラスにインスピレーションを受けた詩や音楽も数多くある。

「鳥のさえずりは春の訪れを告げます」と、米国鳥類保護協会の鳥類学者ジョーダン・E・ラター氏は言う。長く寒い冬が終わると、「突如たくさんの美しい鳥たちが姿を現して鳴き始めるのですからね」

 ドーンコーラスが起こるのは1年でも重要な時期だ。この時期にさかんに鳴く鳥の大半が繁殖期を迎えており、相手を見つけるために(オスの方がより多く歌うものの)オスもメスも鳴いているのだ。

「個々としても集団としても鳥の歌が量的に大きく増えます。鳥の声が大きくなるのは、声を確実に聞いてもらうためです」と、ラター氏は言う。「自分が繁殖相手としてふさわしいと判断してもらうためにも、仲間と競い合い、より大きな声を出す必要もあります」

 この時期、オスは自分の優位性を示し縄張りを主張するためにも鳴く。「同じ種のオスたち、さらには別の種の鳥たちや天敵に対し、『ここは自分の家だ』と伝えるために鳴いているのです」とラター氏は説明する。

なぜ「夜明け」なのか?

 では、なぜ鳥は早朝によく鳴くのか? 「これは今も謎のままです」と話すのは米コーネル大学鳥類学研究所の鳥類学者マイク・ウェブスター氏だ。「なぜ夜明けなのかについては、さまざまな説があり、意見の一致は得られていません」

 仮説の1つに、夜明けは鳴き声が遠くに届く気象条件がそろっているためではないかというのがある。

「一般的に言って、音は空気の温度が低く、密度が高い方が速く伝わります。また湿度が高い方が音はクリアに(そして若干速く)伝わるため、距離による減衰が少なくなります」と、鳥のさえずりを神経科学の観点から研究する米ウィリアムズ大学の教授ヘザー・ウィリアムズ氏は言う。

 氏によると風もまた音の伝達を妨げる。「夜明けの頃は空気の温度が低く、地表面での風が少なくなります。さらに湿度が高ければ、音はあまり減衰することなく、より遠くへよりクリアに伝わります」

次ページ:鳴き始める時間は種によって違う

 朝になると、オスたちは自分の存在と縄張りをライバルたちに改めて知らせるために鳴くとも考えらえている。

 鳥たちがドーンコーラスに加わるタイミングは種によって違う。「日の出前のどの時間に鳴き始め、どのくらい鳴いているかは種によって異なります」と、ウェブスター氏は言う。日の出の45分前に始める種もいれば、30分前に始める種もおり、その時間は実に正確だと氏は言う。

 またウェブスター氏によると、ドーンコーラスのときだけに歌う歌を持っている種もいる。

 鳥たちの大合唱は、砂漠から森林や草原に至るまで、鳴鳥がすむ環境であればどこでも起こる。たとえば北米では、ドーンコーラスをする代表的な鳥としてアメリカムシクイ、ツグミ、モズモドキ、ムクドリモドキ、アトリ、タイランチョウなどがいる。

 しかし多種が一斉に鳴く中、鳥たちは仲間の声をどうやって認識しているのだろうか。「鳥たちは自分と同じ種の声を聞き分けることができます」と、ウェブスター氏は言う。「たくさんの種の鳥が鳴く中では仲間の声を聞き取るのが難しくなりますが、それでも仲間の声は分かるのです」

ドーンコーラスを聞こう

 ドーンコーラスを聞くのは楽しい体験だ。また、鳥の保護に取り組んでいる科学者にとっては大きな助けとなる。「鳥の声を聞けば鳥の健康状態や生態系の健全性がよく分かります」とウェブスター氏は言う。

 科学者たちはドーンコーラスを録音し、そこにすんでいる鳥の種や群れの様子を理解するのに役立てている。「どの鳥がドーンコーラスに参加しているかは生態系の健全性を判断する基準となります」

 ドーンコーラスは誰でも聞くことができる。春の間は早起きして、コーヒーを持って自然の中に出かけ(自分の家の庭でもいい)、静かに耳を傾けてみてはどうだろうか。

「鳥の鳴き声を区別できなくても構いません。ただ聞いて楽しめばいいのです」とラター氏は言う。「それは地球から聞こえてくるすばらしい自然の音楽なのです」

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