ネコ科の動物のうち、ライオンやトラのことはみなよく知っている。だが、イエネコとほぼ同じ大きさで、中南米に生息するタイガーキャット(ジャガーネコ)についてはどうだろう?
実を言うと、専門家もあまりよくわかっていなかった。これまで正式にタイガーキャットとして認められていたのは、ノーザンタイガーキャット(Leopardus tigrinus)とサザンタイガーキャット(L. guttulus)の2種だけだった。ノーザンタイガーキャットはさらに、3種の亜種に分かれている。いずれも見た目は似ているが、1月29日付けの学術誌「Scientific Reports」に、さらに新種のクラウドタイガーキャット(L. pardinoides)を発見したという論文が発表された。これによって、タイガーキャットは全部で3種に増えることになる。
新種発見の物語が始まったのは、14年ほど前にさかのぼる。ブラジル、マラニョン州立大学の非常勤教授で論文の筆頭著者であるタデウ・デ・オリベイラ氏はある日、タイガーキャットの知識をすべて覆すようなメールを受け取った。
「日付けも覚えています。2010年6月22日のことでした」
メールの送り主は、エクアドルでメガネグマの研究をしていたレベッカ・ザグ氏だった。氏が設置した自動撮影カメラの写真に、長い尾を持ち、体中に斑点のある小さなネコ科の動物が写っていた。デ・オリベイラ氏がそれまで見たことのない柄のタイガーキャットだった。
「その姿に目を奪われてしまいました」
研究チームは、博物館や自動撮影カメラの画像など1400本の記録を調べ、大きさ、形、色のパターンを比較し、さらにそれぞれの種がどこに生息しているかを特定した。そして遺伝子分析の結果、クラウドタイガーキャットが新種であることを確認した。
しかし、新種発見というおめでたいニュースとともに、タイガーキャットが直面している厳しい現実も明らかになった。すべての種の生息地が、それまで考えられていたよりもずっと減っていたのだ。
「元々の生息地の50%以上が失われてしまいました。警告の赤信号が点滅している状態です」
タイガーキャットは、オセロット、マーゲイ、アンデスネコ、コロコロ、コドコドなどと同じオセロット属の仲間だ。クラウドタイガーキャットが加わったことで、オセロット属は全部で9種になった。
どれも見た目がよく似ているが、それぞれの種は独自の進化を遂げてきたことが、研究で明らかになっている。
例えば、遺伝子分析によって、クラウドタイガーキャットは他の2種のタイガーキャットから200万年以上前に枝分かれしたことがわかった。また、研究チームは生きているタイガーキャットを扱ってみて、「全く予想していなかった」説明のつかない身体的特徴を発見した。他の2種には乳首が2対あるのに対して、クラウドタイガーキャットには1対しかない。
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さらに、種によって生息地がはっきりと分かれていることも判明した。クラウドタイガーキャットは中米とアンデス山脈だけに生息し、ノーザンタイガーキャットは南米北部に位置するギアナ高地のサバンナとブラジル中央部から北東部にかけて、サザンタイガーキャットはブラジル大西洋岸の低地に広がる森林に生息している。
そのため論文では、ノーザンタイガーキャットをサバンナタイガーキャット、サザンタイガーキャットをアトランティックフォレストタイガーキャットと改名することを提案している。
「見た目はとても良く似ていますが、3種は別々に進化してきたのです」と、ブラジル、リオグランデ・ド・スル・カトリック大学の保全遺伝学者で論文の共著者のエドゥアルド・エイジリク氏は言う。
「長い時間をかけて、生態系のなかで独自の適応や生態を積み重ね、独自の役割を担ってきました。森の小動物を捕食するなど重要な役目を果たしている彼らを保護することはとても大切です。それに、世界でも珍しい種分化を遂げた動物でもあります」
正式に新種と認められるには時間がかかるが、今回の研究は高い評価を得ている。
米フロリダ大学の名誉教授で『世界の美しい野生ネコ』の共著者であるメル・サンクイスト氏は、メールで次のように述べた。
「研究は、最新の方法を用いています。何よりも印象深いのは、論文執筆者のリストを見ると、全員がタイガーキャットの分布する国の専門家ばかりだということです。これは、めったに見ることのできない協力関係です」。サンクイスト氏は、今回の研究には参加していない。
40人を超える小型ネコ科動物の専門家の参加についてデ・オリベイラ氏は、意図的にそのようにしたもので、魅力的なタイガーキャットの未来のためにも必要だったと語る。
全ての地域で、タイガーキャットは農業や開発によって生息地を失うという喫緊の脅威にさらされている。また、犬ジステンパーウイルスなどの病原体が、飼育動物から感染する恐れもある。アフリカのチーターと同様に、ほとんどのタイガーキャットが保護区の外に生息しているのも残念なことだと、デ・オリベイラ氏は言う。
現在、ノーザンタイガーキャットとサザンタイガーキャットは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで危急種(vulnerable)に指定されている。しかし、どちらの生息域も従来の半分以下に縮小していることが明らかになった今、危機の評価がもう一段引き上げられることは確実だろうと、デ・オリベイラ氏は考えている。また、クラウドタイガーキャットも同じようにレッドリスト入りするだろうと話す。
「タイガーキャットの話をするたびに、感情的になってしまいます」と言うデ・オリベイラ氏は、「タイガーキャット保護イニシアチブ」を立ち上げ、地域で飼育されている動物にジステンパーなどのワクチンを接種するための支援をしている。さらに、ペット取引から保護されたタイガーキャットのリハビリを行って野生に戻すなど、様々な活動に取り組んでいる。