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【動画】棚氷の崖から落ちるコウテイペンギンのひなたち、初

  • 2024年4月16日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

【動画】棚氷の崖から落ちるコウテイペンギンのひなたち、初

 まるで最初に湖に飛び込む勇気のある人を待ちながら、崖の上に群がる10代の若者のように、生後数カ月のコウテイペンギン数百羽が、高さ約15メートルの南極の棚氷の上に集まっている。

 空腹に駆られたひなたちは、崖の縁をのぞき込み、まるでこの高さから南極の海に飛び込んでも大丈夫かどうかを考えているかのようだ。

 そして、1羽のひなが飛び込んだ。

 傍観していたひなの中には、首を伸ばしてそのひなが真下の氷の海に落下し、水しぶきを上げる様子を見つめる者もいる。数秒後、ひなは水面に浮上し、新鮮な魚やオキアミ、イカを求めて泳ぎ出した。他のひなたちも徐々に後を追いはじめ、空中ではなく水中を移動するための翼をはためかせながら、次々と飛び込んでいく。

 ナショナル ジオグラフィックとディズニープラスが2025年4月の「アースデイ」に放送予定のドキュメンタリーシリーズ『ペンギンの秘密(Secrets of the Penguins)』の制作スタッフたちは、2024年1月に西南極のウェッデル海の端にあるアトカ湾で、ドローンを使ってこの非常に珍しい光景をとらえた。科学者によると、コウテイペンギンのひながこのような高い崖から飛び降りる様子を映像でとらえたのは初めてだという。

「映像に収めたなんて信じられません」と、ニュージーランド、カンタベリー大学の保全生物学者であるミシェル・ラルー氏は言う。ラルー氏はひなの飛び込みを見ていないが、産卵からひなの巣立ちまでのコウテイペンギンの行動を3年間にわたって記録した撮影隊の相談役として、アトカ湾を訪れていた。

 通常、コウテイペンギン(Aptenodytes forsteri)は陸にしっかりと張り付いた棚氷の上ではなく、解け出してバラバラに浮かぶ海氷の上で繁殖する。しかし最近、棚氷の上で繁殖する集団が出てきた。科学者たちは、この変化は気候変動によって海氷が解ける時期がますます早まっていることと関連しているのではないかと考えている。

 国際自然保護連合(IUCN)は、地球上に生息するコウテイペンギンの全個体数を約50万羽と推定している。気候変動の影響を主な理由として、IUCNはコウテイペンギンを「近危急種(near threatened)」に指定している。

 2024年1月上旬、南半球の夏が終わる最後の数週間に、ラルー氏が棚氷の上で育てられたと考えているひなの一群が、崖に向かって北上しながらよたよたと歩いているところを撮影隊は発見した。撮影隊は、ひなたちがどこに向かっているのか気になり、俯瞰的に見るためにドローンを飛ばした。次第に、多くのひながこの群れに加わり、最終的に崖の上には200〜300羽が立っていた。

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飛び降りなければならない

 ジェラルド・クーイマン氏は、南極でコウテイペンギンを50年以上研究してきた海洋生理学者だが、このようなできごとを目撃したのは1回だけ、それも30年以上前だと言う。

「海氷から氷山に向かって地吹雪がなだらかに雪を積もらせ、巣立ちをむかえたひなの群れがその斜面を登って氷山の上に登っていった」と、クーイマン氏は2023年11月に出版された著書『Journeys with Emperors(コウテイペンギンとの旅)』にそのときの様子を書いている。

「ひなたちは、海氷が寄せては返す高さ約20メートルの崖で立ち止まった」。2日ほどの間に、2000羽近くのひながその崖に集まった。

「ついに、ひなたちは崖から飛び降り始めた」と、米カリフォルニア州スクリップス海洋学研究所の海洋生命工学・生物医学センターの名誉教授であるクーイマン氏は著書の中で述べている。

「ジャンプしたり跳んだりするのではなく、ただ一歩踏み出して真っ逆さまに落ちていく。時には大きな音を立てて水面にぶつかる前に、2回宙返りすることもあった」

 これは珍しい現象だと、人工衛星からペンギンを監視している科学者たちは言う。アトカ湾のコウテイペンギンのコロニー(集団繁殖地)を数年間、衛星画像で調査してきた英国南極観測局(BAS)の科学者ピーター・フレットウェル氏は、その崖に向かって北上するコウテイペンギンの足跡を時々見かけている。フレットウェル氏は、1月のひなたちは「根本的に間違った方向に行った」1、2羽の気まぐれなおとなの後を追ったのではないかと推測している。

 コウテイペンギンの幼鳥は通常、海氷から海に飛び込んで巣立つ。高さは1メートル未満だ。

 一方、映像に収められたひなたちは、海に入るには厄介な場所にいると気づきながらも、おそらく非常に空腹だったのだろうと、科学者たちは言う。親鳥はすでに海に出ており、自分たちで魚を捕る時期だというメッセージをひなに送っていた。そして、ひなたちは、産毛に代わって、滑らかで防水性のある成鳥の羽が生えそろうのを待ちながら、じっと座っていたのだ。

「この崖っぷちに来ると、『よし、海が見える。あそこに入らなきゃ』となるのでしょう」とラルー氏は言う。「楽しそうなジャンプには見えないけれど、飛び込むしかないだろうと」

適応力のある鳥

 科学者たちは、崖からの飛び込みが、南極を温暖化させる気候変動と直接関係しているとは考えていない。しかし、フレットウェル氏は、南極大陸の海氷が減少し続けることで、より多くのコウテイペンギンが棚氷で繁殖せざるを得なくなり、その結果、将来的にこのような行動がより一般的になる可能性があると言う。

 科学者たちは、2016年以降の南極の海氷の急激な減少が、コウテイペンギンの長期的な生存に悲惨な影響を及ぼす可能性を懸念している。

「今世紀末までにすべてが失われる可能性があると推測しています」とフレットウェル氏は言う。「気候変動がこのまま進み続けるなら、種が消滅してしまうかもしれないと考えると、胸が張り裂けそうです」

 ラルー氏は、コウテイペンギンの適応能力に希望を持ち続けており、今回撮影された高所からの飛び降りは、コウテイペンギンのたくましさの証だと考えている。

「彼らには信じられないほどの適応力があります」とラルー氏は言う。「コウテイペンギンは何百万年も生き延びてきて、環境の変化をたくさん経験してきました。問題は、コウテイペンギンが現在起きている変化にどれだけ素早く対応できるか、そしてどこまで追い詰められても耐えられるかです」

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