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京都の桜満開日、1200年分の記録は世界一、100年で2週間早く

  • 2024年4月3日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

京都の桜満開日、1200年分の記録は世界一、100年で2週間早く

 毎年桜が開花する時期になると、人の心をとりこにする美しい眺めとアーモンドのような香りに引き寄せられて、世界中から観光客が京都に押し寄せる。しかし昨今、桜が満開になる時期は1850年と比較して2週間近く早くなっていることが、2022年5月に学術誌「Environmental Research Letters」に発表された論文で示されている。

 気候変動が花を咲かせる植物に与える影響を研究している科学者たちは、その最も重要な基準の一つとして、桜が咲く時期に注目している。「私たちは今、人類がこれまで経験したことのない急激な気候変動に直面しています」と、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の准教授で、植物群落と気候変動を研究しているエリザベス・ウォルコビッチ氏は言う。

 主に化石燃料の燃焼によって地球の気温は大きく上昇し、2023年は歴史上最も暑い年となった。また、年が明けて2024年の1月と2月も、世界の平均気温は過去最高を記録した。

「桜の満開記録は、こうした変化がいかに激しいものであるかをよく示しています」。国際桜満開日予測コンテストを共同主催するウォルコビッチ氏は、人為的な気候変動が春の始まりを早め、京都などで桜の早い開花を促していると指摘する。

「『中世温暖期』や『小氷期』といった過去の気候変動とは比べ物にならない大きな変化です。私たちは、まったく新しい未知の世界に入ろうとしています」

満開日が早くなっている

 大阪公立大学の青野靖之准教授は、1200年以上前までさかのぼって人々が書いた日記や年代記を調べ、花見や満開になった日など、京都の桜に関する記述を集めている。青野氏がまとめた記録は、歴史的な気象データの宝庫であり、ここまで長期に及ぶ植物季節データは他に存在しないだろうと考えられている。

 気象庁によると、京都の桜は2021年に観測史上最も早い開花日を、2023年に最も早い満開日を記録した。「Environmental Research Letters」に発表された論文は、主に人為的な気候変動によって春の訪れが早まっており、1930年代以降、京都で桜が満開になる時期がおよそ11日早まったと結論付けている。

 論文によると、温室効果ガスの排出量を中程度に抑えたとしても、京都の桜の満開は2100年までにあともう1週間ほど早くなるだろうという。一部の人々は、警戒感を持ってこれを受け止めるべきだと感じている。

次ページ:早まるとなぜ問題?

 米カリフォルニア大学バークレー校の気候変動科学者で森林生態学者のパトリック・ゴンザレス氏は、「人間による過剰な炭素排出の影響が目に見えてわかるのが、この桜の満開時期です」と話す。また、最悪の排出シナリオでは、将来的に開花時期がさらに早まるだろうという。「気候変動の最も深刻な影響を防ぐために、真剣に炭素排出の削減に取り組む必要があることを、この論文は強く示唆しています」

桜の時期が早まるとなぜ問題なのか

 春の始まりが早くなり、その結果花の開きも早くなると、花粉媒介者の活動時期と花の咲く時期がずれるなど、生態系の乱れにつながる恐れがある。また、花が咲くと急な寒さの戻りに弱くなり、樹木自体にも負担がかかる。

 気候変動が桜に与える影響を見れば、リンゴやモモなどの作物がなる木にも同じことが起こっていると推測できると、米コロンビア大学の准教授で植物生理学者のルイス・ジスカ氏は指摘する。

 冬の温暖化が夏よりも速いペースで進めば、冬の間に樹木が低い気温にさらされる期間が短くなり、春になっても花が咲かなくなる恐れもある。

 桜の木は、気温が5℃以下の日が1カ月続かなければ、暖かくなったときに満開に咲くことができない。非営利団体「クライメートセントラル」が米国立気象局のデータを分析したところ、米国で桜の名所となっているワシントンD.C.では、1970年から2023年の間に春の平均気温が2℃上昇したことが明らかになった。米国立公園局によると、2017年には晩霜のため桜の花の約半分が散ってしまったという。

「満開の時期は今後さらに早くなるかもしれません。冬がなくなって桜の花が全く咲かなくなる日も、それほど遠くないかもしれません」と、ジスカ氏は言う。

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