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宮田裕章が読み解く2023年。第1回は「Googleトレンドから見えた2023年のイノベーションは『デジタルマネー』」

  • 2024年1月18日
  • GetNavi web

2023年はどんな年だったか?──この特集では、GetNaviチームが収集した「数字」を根拠に読み解いていく。データを基に考察を行う「データサイエンス」が専門の宮田裕章氏に、様々なジャンルのヒット商品を縦断的に分析してもらった。GetNavi webではGetNavi1月号掲載のインタビューから、さらにボリュームアップした完全版として、全3回に分けてお届けします。第1回のテーマは「Googleトレンドを読む」です。

※こちらは「GetNavi」 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
宮田裕章●みやた・ひろあき…1978年生まれ。慶應義塾大学医学部教授、データサイエンティスト。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。同時に世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。Instagram

 

【宮田裕章さん撮り下ろし写真】

 

 

顧客を自社のサービスに集める「囲い込み」戦略

2023年、日本だけでなく世界中が振り回された(笑)トピックスとして「『Twitter』が『X』に改称された」ということが挙げられるでしょう。この決断に踏み切ったイーロン・マスクの狙いは、これから提供するさまざまなサービスを「X」という名の下に統合することだと考えられています。

 

実はこの「さまざまなサービスを統合して提供」というのが、これからのビジネスの大きなテーマとなっているのです。その鍵となるのが「スーパーアプリ(※1)」「デジタルマネー」「ポイント」の3つ。

 

自社のスーパーアプリで提供しているサービスの決済(支払い)に、自社で提供しているデジタルマネーを使用させ、それによって自社のポイントが得られるようにします。

 

デジタルマネーでの決済は情報を記録できるので、顧客の情報をビッグデータとして蓄積・参照できるようになります。顧客は得たポイントを再び同じスーパーアプリでのサービスに消費するため、企業側は自社のサービスを利用してもらいやすくなります。そしてポイントの消費情報もビッグデータとして蓄積できるわけです。

 

この囲い込みを「ポイント経済圏」と呼ぶことがあります。楽天市場と楽天ポイントなどを中心とした「楽天経済圏」がよく知られていますね。

 

「ショッピングアプリでの購入履歴」や「SNSでの発言」、「ニュースの閲覧履歴」などはビッグデータとして蓄積され、ショッピングアプリのオススメ製品やニュースの広告に反映されることがあります。その結果、顧客の好みにあった製品やサービスが表示されることになり、提供する側と顧客の双方にとってメリットがあるわけです。

※1 スーパーアプリ…スマホアプリのジャンルの1つで、さまざまな機能を統合したアプリのこと。「メッセージ送受信」「通話」「デジタルマネー」「金融(銀行や証券)」「コンテンツ(映像・音楽・書籍)」などが1つのアプリから利用できる。

↑「Twitter」が「X」に名称変更し、「ツイート」も「ポスト」に。メディアなど各所では「X(旧Twitter)」といった表記もよく見られた

 

さまざまな企業が経済圏のシェア獲得を競う

この「経済圏」を提供している企業やグループは現在いくつか存在し、優位性の違いはあるものの、いまだに決定的な地位を取得している企業はありません。

 

もっとも有名なのが「楽天」でしょう。楽天ポイントを軸に、楽天市場・楽天銀行・楽天モバイル・楽天でんきなど、多岐にわたるサービスを提供しています。楽天市場や楽天カードという強力なBtoCサービスを持ち「楽天経済圏」と呼ばれる強力な囲い込み戦略を実施してきましたが、携帯電話では参入障壁に苦しんでいます。そして12月からは、強みだったポイント戦略を大幅に変更したことで話題になりました。

 

ソフトバンクは「ヤフー!」「ペイペイ」「LINE」の統合により、スーパーアプリの実現を目指す姿勢を明確にしています。グループ全体で大きな損失があったため機会損失も発生していますが、これまでずっと仕掛けてきた戦略が実るかどうかというところです。

 

意外に見逃せないのが「メルカリ」。SDGsの推進により「中古売買」のイメージが爆上がりして、メルカリは新しいコミュニティとして誇れる場になっているのです。デジタルマネー「メルペイ」という決済手段も提供しているため、スーパーアプリ化することも十分考えられます。

 

他にも、2024年春には「Vポイント」と「Tポイント」が統合され、新しい「Vポイント」になります。知名度が高く顧客データも豊富なTポイントとの統合で、新しいポイント経済圏が生まれることでしょう。

 

海外に目を向けると、中国では「Alipay」や「WeChat」などが有力視されています。このように統合されたサービス提供システムに、イーロン・マスク率いる「X」も参入しようとしているということです。彼が自分の思うスーパーアプリ、経済圏を構築できるかはわかりませんが、彼が成功しても失敗しても、デジタルマネーが世界を変えていくというフェイズがやってくることだけは間違いありません。

 

デジタルマネーによる膨大なデータから新しいサービスが生まれ顧客に還元される

デジタルマネーによる決済は、顧客にもメリットをもたらします。先にお話ししたように、デジタルマネーの特長は決済情報を記録できるということ。そうして集まった情報を他のビッグデータとつなげ、新しいビジネスモデルを作るというチャレンジが始まっています。そこから生まれたサービスで、顧客にさまざまな価値を還元していくことができるのです。「ポイント」も、そうして生まれた象徴的なビジネスモデルといえるでしょう。

 

この、ビッグデータによって既存の枠を超えたビジネスモデルを作り、顧客に還元していくという流れが今後も加速していくのは間違いありません。

 

 

撮影/映美 取材・文/湯浅顕人 ヘアメイク/新井裕梨

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