シロガオサキのモップくんをご存知ですか? 霊長類しかいない動物園、日本モンキーセンターでも多くの人に推されているモップくん。その顔つきを見れば、魅了されるのもわかりますよね! 今回は、21歳のお誕生日を記念し、モップくんの魅力と、生誕祭の様子をお届けします。
4月13日、愛知県犬山市にある日本モンキーセンターにて、シロガオサキの「モップくん」のお誕生日記念イベントが開催されました。
日本モンキーセンターは霊長類しかいない動物園。50種以上約700頭と世界最多の霊長類を飼育しており、冬至以降は屋久島に生息するヤクシマザルが焚き火にあたるという珍しい姿が見られることでも知られています。
「サキ」はあまり聞きなじみがないかもしれませんが、南米に生息する新世界サルのなかま。新世界サルは顔が真っ赤な「ウアカリ」、頭に生えるおしりのような毛が特徴的な「ヒゲサキ」など外見が個性的な種ばかりです。シロガオサキはその名の通り、真っ白な顔が特徴。全身が黒い毛で覆われていますが、これはオスのみ。メスは灰色がかった褐色の毛で覆われています。
モップくんが注目を集めるようになったのは、2018年頃に当時の飼育担当者がSNSで頻繁に発信するようになってから。写真や動画に添えられる言葉は、ユーモラスながらも飼育担当ならではの観察ポイントや知識が盛り込まれた知的好奇心をくすぐる内容ばかり。
例えば、種子を主に食べる「種子食者」にも関わらず実の部分を大いに好んだり、野生では木の上で暮らす「樹上生活者」ながら地面に寝転がってお腹を見せてひなたぼっこを楽しんだり、無心で食べていたかと思えば掴んでいた食べ物を突然ノールックでポイっと捨てたりするなど、スタンダードな生態を超越したマイペースな生活ぶりに、夢中になる人が続出。YouTubeの公式チャンネルでライブ配信されるオンラインガイドは、平日にも関わらず100人を優に超えるほどです。
そんなモップくんの14日の誕生日前日に開催された25名限定のイベントチケットは、販売開始から1時間で完売。開催当日はどしゃ降りの雨に見舞われましたが、キャンセルなく全員が参加。じっくりと観察できるようにという園の配慮から、モップくんの放飼場前には雨よけのテントが設置されていました。
21歳を迎えるモップくんの登場を静かに待つ中、飼育担当者が放飼場の木の上に点々と朝食を設置していきます。この日は普段の食事に加えて、誕生日プレゼントとして寄付されたブドウやキウイ、さくらんぼ、ビワなどの豪華なフルーツも。モップくんは飼育担当者が設置していく様子を、上のほうにある室内の小窓からチェックしてました。
一向に止まない雨に、飼育担当者からは「雨なので出てくるかわかりません」という言葉も。誰しもが“今日は出てこないだろう”と諦めていましたが、扉が開けられると早々に登場。喜びの歓声が挙がる中、モップくんはすぐさま食べ物が入れられたバットが置かれた場所へ向かうと、粉ミルクにひたされた食パンを手に取り、ムシャムシャと食べ始めました。
ニホンザルくらいの大きさを想像している人が多い印象ですが、実際の大きさは頭胴長が約40センチ、尾長が約45センチとかなり小柄。モップくんが持つと、ブドウの一粒もかなり大きく見えます。
1頭での生活は競争相手がいないため、食事は実にゆっくり。ときには食べかけのものを放りながら、1つひとつの食材を堪能するように上を向いて何度も咀嚼。野生でも、くるみのようなあまりにも固い殻で覆われたものは食べないようですが、栗や枇杷の種などは鋭くて太い犬歯で器用に剥いて、中を取り出して食べます。
イベントに立ち会うのは、昨年度より園長に就任された下村 実さん。モップくんがただただ朝食を食べる様子をじっくりと観察して感想を語り合う参加者の姿に、「こんなに人気があるとは想像してなかった」と驚きを隠せない様子。そんな会話がなされていても、モップくんは気にする様子もなく食事に集中。
終盤には、上のほうに置かれた大きなビワを口に咥えて木の下のほうまで持ってきたかと思いきや、そのまま室内へ持ち帰り。参加者から「え、テイクアウト?」とツッコミが出るなど、突然の帰宅という予測不可能な行動に笑いが起こりました。
その後の懇親会では、参加者全員に園内にある飲食店「楽猿(らくえん)」お手製のモップくん弁当が。ランチョンマット、そしてお弁当にかけられた熨斗のイラストは同園の飼育員さんが描いたもの。雨の日になったため、この日はお休みだったにも関わらず、急遽、体を振って体についた水気を払うモップくんのイラストを、当日の朝に描き上げてくれたそうです。
懇親会には、前飼育担当者や現在の飼育担当者、別の場所を担当する飼育員も参加。他園で飼育されているシロガオサキについてやほかの霊長類についてなど、動物ファンらしい会話が繰り広げられていました。
懇親会後、お開きとなってからも、モップくんの放飼場の前には多くのファンが。雨足は強いままでしたが、ちょくちょく顔を出すモップくん。お隣のフサオマキザルの放飼場を凝視したり、二足歩行で遠くを見るような仕草をしたりとマイペースに過ごしていました。
誕生日当日の14日には、YouTubeのオンラインガイドでお祝いも。色とりどりのフルーツが飾られた豪華な誕生日プレートの中でも特に目を引くのは、モップくんの顔のフォルムが彫られたパパイヤメロン。前日、前飼育担当者が作ってくれたもののようです。
室内から颯爽と現れたモップくん。鉄の棒に捕まりながら何を食べようか悩むように、プレートをじっくりと見ると、手に取ったのは食パン。その後は殻付きの栗をむいて食べてみたり。どんな違いがあるのかはわかりませんが、ニンジンを歯でちぎってはポイ、ちぎってはポイしながら、気に入ったところだけ口に入れたりと、40分ほど時間をかけて優雅に食べ進めました。
南米に生息する霊長類はまだわからないことが多く、シロガオサキの平均寿命もどれくらいなのかはわかりませんが、21歳は若くはない年齢。モップくんと血縁関係にあるミツオさん(静岡市立日本平動物園)は現在30歳。モップくんもQOL高く、日々健やかに長生きしてほしいものです。
現在、シロガオサキが見られるのは、日本モンキーセンターと東京都恩賜上野動物園、静岡市立日本平動物園。さらに、伊豆シャボテン動物公園では雌雄の展示が始まったとの情報もあります。
珍しく、ユーモラスですが、シロガオサキは野生動物。飼ってみたいと思うのではなく、プロが飼育する動物園での観察、または野生で暮らすシロガオサキがこれからも継続して見られるように環境について考えるなど、適切な距離を持って接していきたいですね。
日本モンキーセンター
所在地 愛知県犬山市犬山官林26
電話番号 0568-61-2327
営業時間 10:00〜17:00
定休日 火・水曜
https://www.j-monkey.jp/
参考資料=『今日のモップくん シロガオサキのモップくん観察記』(blueprint刊)
文・写真=高本亜紀