発掘! 33年前から「フィクションを書く」宣言をしていた――担当編集に聞く作家・髙見澤俊彦の“凄さ”

  • 2025年4月16日
  • CREA WEB

デビュー作『音叉』第2作『秘める恋、守る愛』篇


『秘める恋、守る愛』(文藝春秋)/写真=平松市聖

 編集者の方々を巻き込んでの「髙見澤俊彦作品はココが面白い」トーク、前半は『特撮家族』でヒートアップしたが、髙見澤さんのデビュー作は2018年の『音叉』、第2弾は2020年の『秘める恋、守る愛』である。こちらも聞かねばなるまい。

「デビュー作の『音叉』が青春小説で、ご自身の体験に近いものでした。毎回違うものを書いていきたいということで、2作目の『秘める恋、守る愛』は、恋愛小説。この作品は、家族小説という側面もありますね」(担当Hさん)

『音叉』は確かにTHE ALFEEの軌跡と重なる部分も多い。彼らが青春を送った高度成長期の東京が舞台。刺激的な洋楽に心震わせ、学生運動に揺れた、バンド「ジュブナイル」のデビューまでの道のりが描かれている。読めばTHE ALFEEだけでなく、1970年代そのものに興味が湧く。あの時代特有の疾走感と熱っぽさがブワッサーッと襲いくる!

『秘める恋、守る愛』は、髙見澤式ドイツロマンチック紀行。長く連れ添った夫婦が、ドイツに留学した娘を迎えにドイツに行くのだが、それぞれの過去と想いが交錯するのである。描かれるドイツの風景も美しいが、私がさすがと思ったのは、「メリーアン」を作った方だけあり、登場する女性陣の色気が文章からムンムン伝わること! それだけではない。出てくるドイツ料理が全部おいしそう。食いしん坊は読むべきである。クーッ、ボイルドビーフ、白わさびで食べたい。本場のドイツビール飲みたーい! 恋愛と食とは相性がいい、とこの小説を読んで気づかされる。

「単行本にまとめる際、『音叉』の時は、手を入れることはほとんどなかったんですけど、『秘める恋、守る愛』は、連載ではひとまとまりに繋がっていた物語を、7日間の旅ということで、1日ごとに章を分けるという再構成を行いました」

 とHさんが話してくれたエピソードも興味深い。私は文庫版しか読んでいないが、連載バージョンも読んでみたい。この物語、二度おいしい気がする!

連載中! 『イモータル・ブレイン』篇

 現在、『オール讀物』で連載されている『イモータル・ブレイン』は、歴史大作。ある一人の男が実は、日本史を大きく左右した、さまざまな暗殺事件の記憶を持ったまま転生を繰り返す――という壮大な話である。舞台は、戦国の世と令和を行き来する。悪魔召喚まで出てきて、「確かに、日本史のあの事件って、人間の行動の範疇を超えたところがあるよね」というツボをガッツリ突いてくるのだ。

 Mさんが「クリストファー・ノーランっぽいですよね」と言う。確かに確かに!

「毎回、難しいことにチャレンジしようという気迫がすごいですね。ことに『イモータル・ブレイン』は、歴史小説とSF、両方の難しさがあり、すごく丁寧に執筆されているようです。髙見澤さんは、修正をされるたび、原稿のファイル名の数字を更新されていくのですが、『イモータル・ブレイン』は最初、冒頭部分を見せていただいた時に『原稿17』だったのが、完成稿になった時点では『原稿71』になっていました」(担当Iさん)

 ななな71! あの忙しさで、それだけ直す時間がどこにあるのだろう。しかもすごい修正エピソードは、原稿だけではなかった。

「小説とは別に、髙見澤さんは、『神様について語ろう』という対談コラムも連載されているのですが、実はこれ、昨年の4月、締め切りまでにどうしても小説が書けないとギブアップの連絡が来たことで始まったコラムなんです。その時『ページに穴が空いたら申し訳ないから』と、神田明神禰宜の岸川雅範さんとの対談をやりましょうと髙見澤さんからご提案をいただいた。そんな作家さん、まずいないですよね。コンサートなどでは先々の予定がきっちり決まっていて、しかも大勢のスタッフの皆さんとお仕事をされているから、『迷惑をかけないように』と、代替案を考える習慣がついているのかもと、そんなことを思いました」(担当Iさん)

 さすがのリスクマネジメント……!

33年前からしていた「小説を書く」宣言!


1992年9月号「サンタクロース」(文藝春秋)より。

 担当編集の皆さんのお話から見える小説家・髙見澤さんは、熱意と「初々しさ」でいっぱいである。

「『特撮家族』のオーディブルも、ご自身で朗読するなど、新しいことに率先して挑戦されています。音楽で大きなことを成し遂げられている方ですが、小説が『余技』という感じはまったくありません。自分は一人の作家であり、この世界では新人だという謙虚さを感じます」(担当Hさん)

「そういえば、この間見つけた、30年以上前の雑誌、『サンタクロース』の連載記事にも、髙見澤さんは小説への思いを書いていたんですよ」(担当Mさん)

『サンタクロース』とは、1991年から1年余り、文藝春秋から刊行されていたエンターテインメント雑誌である。そのなかで、1992年9月号に掲載された連載コラム『アルフィー音楽アカデミー』で髙見澤さんが担当したページに、こんな小見出しがあったのだ。「いつか必ず自分でフィクションを書きたい」――。

「『作家のデビューに年齢は関係ない』という力強い言葉を誰かが言っていたように、50歳でも60歳でもデビューする人はいる。自分が感じてきたものを出せるような何かが自分のなかで爆発すれば、バーンといけるかなとは思っている。冗談じゃなく、きっといつかはやるつもりなんだ」

 今から33年前の記事だ。

 文庫版『音叉』のあとがきにも、こんなくだりがあった。

「小説家は自分の少年期=ジュブナイルからの夢であった。少年期の夢を還暦過ぎで叶えたからには、長く温めた分だけ、テーマは無限にあるはずだ」

 夢を追い続けた長い長い時間が、物語になっていく。

 初めて『特撮家族』を読んだ時、私は、右往左往する美咲や健太や結衣に、笑って心配して勇気をもらって、幽霊として彼らを見守る洋介に父を重ねて泣いた。

 そして同時に、なぜか、昔大好きだった小説家をブワッと思い出した。赤川次郎や吉本ばなな、氷室冴子、原田宗典、新井素子の新刊が出るのを、本屋をうろつき待っていたあの頃。SF、昭和文豪、少女小説といったバラバラのジャンルがひしめき合う本棚を、眺めているだけでも幸せだったあの頃。改めて読み返したい!

 本当に不思議。髙見澤俊彦の小説は、それ自体が素晴らしいだけでなく、私の人生を彩ってくれた作家を次々と思い出させる。「好き」が詰まっている作品は、他の「好き」も復活させるのだ。

 さて、最後に、髙見澤作品すべてに共通する魅力。その物語から音楽が聞こえてくることである。

 ロックあり、昭和歌謡あり、フォークあり。景色や時代が見えるものばかりだ。今回は、3作品に登場する楽曲をご紹介。このリストを見て(聴いて)、ストーリーを想像するのも粋な入口だ。レッド・ツェッペリンの「天国への階段」が3作品すべてに出てくるのも熱い。

 そして余計なお世話ながら、小説を読み、私が勝手に思い浮かべたTHE ALFEEの楽曲もリストに入れておいた。「これもぴったりだぞ!」という曲があれば、共有するのも楽しそう。物語と音楽の組み合わせはいくつあってもいい!

 音になり、文字になり、流れてくる夢のパワーで、花粉症なんて吹っ飛ばせ。この春、新たな世界が広がりますように。

 最後に、『特撮家族』の主人公・美咲の決め台詞を、元気と勇気の合言葉として叫びたい。

 さあ、皆さんご一緒に。

「ファイトマン、全力!」

髙見澤俊彦3作品 プレイリスト


2018年7月13日発売『音叉』(文藝春秋)

「心の旅」チューリップ
「コミュニケイション・ブレイクダウン」レッド・ツェッペリン
「天国への階段」レッド・ツェッペリン
「狂気」ピンク・フロイド
「イーライズ・カミング」スリー・ドッグ・ナイト
「アイランズ」キング・クリムゾン
「原子心母」ピンク・フロイド
「サテンの夜」ムーディー・ブルース
「安息の日々」ユーライア・ヒープ
「対自核」ユーライア・ヒープ
「ワイルドで行こう!」ステッペンウルフ
「エピタフ」キング・クリムゾン
「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」エルトン・ジョン
「イマジン」ジョン・レノン
「雨だれ」フレデリック・ショパン
「剣の舞」アラム・ハチャトゥリアン
「グッバイ・ジェーン」スレイド
「誓い」スタイリスティックス
「マンボ・サン」T・レックス
「リリー・マルレーン」マレーネ・ディートリッヒ
「Musician」THE ALFEE


2020年4月17日発売『秘める恋、守る愛』(文藝春秋)

「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ(涙あふれて)」ザ・ローリング・ストーンズ
「ステイング・パワー」クイーン
「天国への階段」レッド・ツェッペリン
「君は完璧さ」カルリチャー・クラブ
「ローエングリン」リヒャルト・ワーグナー
「カーマは気まぐれ」カルチャー・クラブ
「スタート・ミー・アップ」ザ・ローリング・ストーンズ
「メリーアン」THE ALFEE
「恋人達のペイヴメント」THE ALFEE


2023年4月5日発売『特撮家族』(文藝春秋)

「イン・ザ・ムード」グレン・ミラー
「精霊流し」グレープ
「どうにもとまらない」山本リンダ
「ジョニィへの伝言」ペドロ&カプリシャス
「天国への階段」レッド・ツェッペリン
「迷い道」渡辺真知子
「宇宙大戦争マーチ」東宝「宇宙大戦争」
「ロマンスが舞い降りて来た夜」THE ALFEE
「FLOWER REVOLUTION」THE ALFEE

文=田中 稲

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