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落葉や枝は、ゴミにも資源にもなる?土づくりからはじめる、持続可能な農業とは

  • 2024年3月25日
  • コロカル
農業に必要な資材が高騰

ものの価格がどんどん上がっていくこのご時世。私たち農家にとっても物価高騰は人ごとではありません。肥料、農業用マルチシートや防虫ネットなどの資材からダンボールや袋まで、野菜を育てるため、販売するために使っているほとんどのものの価格があがっています。野菜の販売価格も少しずつ上げさせてもらっていますが、それでは追いつかないほど経費が上がっているのが現状です。

防虫ネットやそれを支えるトンネル支柱、ロープなど、野菜を育てるためにはたくさんの資材が必要。

防虫ネットやそれを支えるトンネル支柱、ロープなど、野菜を育てるためにはたくさんの資材が必要。

さて、このピンチをどう乗り切るか。ここ1年くらいずっと考えてきました。

もともと、平地の少ない中山間地域で、それも離島で、多品目の野菜を育てる農業をどうやったら成り立たせることができるのか、それはこれまでもずっと課題でした。ジンジャーシロップなどの加工品事業や飲食事業の売上などを組み合わせて、なんとかぎりぎり運営していますが、農業事業(野菜の栽培・販売)単体でも持続可能なかたちにしたい、つまりちゃんと利益が出るかたちにすることが目標です。

栽培する野菜の品目を減らして効率化したほうがいいのか、野菜セットの個人宅配というかたちを変えたほうがいいのか、もっと規模を小さくして、夫婦ふたりだけでまわせるようにしたほうがいいのか、いろんなことをずっと考え続けてきました。

ある出荷の日に収穫した野菜たち。20種類近くあるかな。

週に2回、野菜を収穫し、個人のお客さまやお店に発送しています。

 

どういうかたちの農家を目指すのか悩んでいたときに参加させてもらったのが、2023年10月に徳島県神山町で開催された『Farmer’s Meeting』というイベントでした。〈シェ・パニース〉のアリス・ウォータースさんとの出会い、ほかの地域でがんばっている農家さんたちとの出会い、「ファーマーズ・ファースト」という思想、その思想が共有されていた場に参加できたこと。

これは私たちにとって、これからも農家としてがんばっていこうと思わせてくれるすばらしい体験でした。詳細は、小豆島日記vol.328をぜひお読みください。

土づくりについて学ぶ

そして2023年末、もうひとつ出会いがありました。長崎県で〈菌ちゃんふぁーむ〉という農園を営み、約3ヘクタールの農地で有機栽培をされている菌ちゃん先生(吉田俊道さん)が小豆島に来てくださり、講演と畑での実演に参加できる機会がありました。菌ちゃん先生のことは以前から気になっていたので、これは参加するしかない! とワクワクしていました。

〈菌ちゃんふぁーむ〉の菌ちゃん先生(吉田俊道さん)による土づくりについての講演。虫のことから人間の腸の環境のことまで全部つながっていて、本当におもしろかった!

〈菌ちゃんふぁーむ〉の菌ちゃん先生(吉田俊道さん)による土づくりについての講演。虫のことから人間の腸の環境のことまで全部つながっていて、本当におもしろかった!

菌ちゃん先生の農法にはたくさんの方が興味を持っていました。みんなで、畑でうねづくり。

菌ちゃん先生の農法にはたくさんの方が興味を持っていました。みんなで、畑でうねづくり。

どうして黒マルチを使うのか、どうしてマルチに穴をあけるのか、そのひとつひとつに理由があって、それを理解しながら作業。

どうして黒マルチを使うのか、どうしてマルチに穴をあけるのか、そのひとつひとつに理由があって、それを理解しながら作業。

菌ちゃん先生の農法は、畑の土のなかに菌(微生物)を増やして、特に糸状菌(しじょうきん)という菌の活動によって、野菜が健全に育つ土をつくるというもの。

糸状菌は、落葉や雑草、枝、木、竹などの有機物を分解し養分に変えます。分解しながら、糸状菌はどんどん増えていき、ほかの菌たちも増えていきます。多様な菌たちが存在し、野菜と共生する環境こそが、元気な野菜が育つ目指すべき畑です。

しばらく手を入れてなかった畑。セイタカアワダチソウなどのかたい雑草は炭素分が多く、糸状菌のエサとして良い。

しばらく手を入れてなかった畑。セイタカアワダチソウなどのかたい雑草は炭素分が多く、糸状菌のエサとして良い。

落葉や枝などは身近にあるものを生かせるのはとてもうれしい。

落葉や枝などは身近にあるものを生かせるのはとてもうれしい。

私たちがやるべきことは、畑に肥料をいれることではなく、土をつくってくれる菌たちが活動しやすい環境を整えてあげること。畑に雑草や枝などの糸状菌のエサとなる有機物を入れ、適度な湿り気を保ち、水はけと通気性をよくすることです。

菌たちの分解活動が活発な健康な土で育った野菜には虫がつきにくいそう。虫たちは弱くて分解しやすそうな野菜を選んで食べているから。

肥料を買わなくていい。防虫ネットを買わなくていい。野菜を植え変えるたびにトラクターで耕うんしなくてもいい。

これで元気な野菜を育てることができるなら、もうやるしかないでしょ!私たちの畑のまわりは山。菌たちのエサである有機物であふれています。

刈られた草を片づけ、そして菌たちのエサを大量に確保。一石二鳥。

刈られた草を片づけ、そして菌たちのエサを大量に確保。一石二鳥。

平地の少ない小豆島では斜面の畑が多く、トラクターをいれるのは危険なので、なるべく耕うんの回数を減らしたい。

平地の少ない小豆島では斜面の畑が多く、トラクターをいれるのは危険なので、なるべく耕うんの回数を減らしたい。

ゴミにも資源にもなる落葉や枝

2024年の年明けからさっそく実験的にふたつの畑で菌ちゃん先生のやり方で土づくりを始めてみました。実際にやってみると、大変なこともいろいろ見えてきます。菌ちゃん農法は、水はけと通気性をよくするために高さ45センチほどの畝をつくるのですが、これがとても重労働。畑に雨水が溜まらないように、溝を掘ってスムーズに排水できるようにする必要もあり、理想通りにつくりあげるには、なかなかのパワーが必要です。

かたい雑草でも粉砕しながら刈ることができる〈ハンマーナイフモア〉という機械を使って、雑草を刈り取ります。

水はけをよくするために高い畝をつくるのですが、土を持ち上げるのはとても重労働。この日はみんなくたくたでした。

そこまで広くない畑でも、畝をたて、木や竹を運び入れる作業は時間がかかります。

 

準備を終えて、あとは菌たちによる有機物の分解と、菌たちが増えていくのを2〜3か月待ちます。夏野菜の植えつけから始めたいと思っています。

山に囲まれた中山間地域だからこそできる農業のかたち。高いお金をかけて遠くから肥料や資材を仕入れるよりも、身近な山にある資源を生かすことができたら、経営的にも、環境的にもうれしい。そしてそれはこの美しい農村を手入れし、維持することにもつながる。いいことばかりだ。

トライ&エラーを繰り返し、小豆島という場所でHOMEMAKERSが行う農業のかたちをつくりあげていきたい。野菜を育てる人も、野菜を食べる人も、野菜が育つ大地も、幸せにできる農家でありたい。

見方によってゴミにもなるし、資源にもなる落葉や枝。今の私たちにとっては野菜を育てるための大切な資源。

見方によってゴミにもなるし、資源にもなる落葉や枝。今の私たちにとっては野菜を育てるための大切な資源。

writer profile

Hikari Mimura

三村ひかり

みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島のなかでもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。https://homemakers.jp/

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