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移住してから働き方はどう変わった?北海道に移住した3人の編集者による座談会

  • 2024年2月7日
  • コロカル

北海道岩見沢市で暮らしている、編集者の來嶋路子さんの「うちへおいでよ! みんなでつくるエコビレッジ」が連載200回を突破した特別企画として、北海道へ移住した3人の編集者の座談会を実施!

前編では、移住のきっかけや物件事情、雪かき、光熱費などについて話しました。後編の今回は、冬の備蓄や働き方の変化などについて話が広がっていきました。

座談会の参加者

來嶋路子「うちへおいでよ! みんなでつくるエコビレッジ」著者。東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。

來嶋路子「うちへおいでよ! みんなでつくるエコビレッジ」著者。東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。

井出千種弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。コロカルで「弟子屈の森から」を連載。

井出千種弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。コロカルで「弟子屈の森から」を連載。

小林百合子1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人からなる山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)、『山小屋の灯』(山と溪谷社)など。2023年に北海道の弟子屈町へ移住。

小林百合子1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人からなる山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)、『山小屋の灯』(山と溪谷社)など。2023年に北海道の弟子屈町へ移住。

冬の備蓄と周辺買い物事情

—— みなさん冬の間はあまり外に出ないというお話もされていましたが、冬の備蓄はどうされているんですか。

來嶋: 弟子屈はお店までどのくらいあるんですか?

井出: 私の家から1番近いコンビニは車で15〜20分ぐらいですかね。小林さんもそんな感じだよね。

小林: 私もそうですね。あとは井出さんの教えを受けて、コープさっぽろを頼みました。なので、家の外に出なくても大丈夫。

來嶋: 「トドック」!

小林: そう、「トドック」!

—— トドック? なんですか?

小林: 自宅に食品や日用品を宅配してくれるサービスです。井出さんに、「すみやかに登録せよ」といわれて、登録しました。来週届きます。

來嶋: 田舎ならではですけど、ご近所からいろいろもらったりしますよね。

井出: お野菜とか?

來嶋: 玉ねぎ2年分ぐらいあるんですよね。

小林: 超ほしい! あ、食でいえば先輩に聞きたいことがあって。近くにパン屋さんがないけどどうしてもおいしいパンが食べたくて。そういう、買えないけど食べたいものがあるとき、つくったりしていますか?

來嶋: パンは近くで買えないので、ホームベーカリーを買いました。岩見沢って小麦の産地でもあるので、自分でつくっています。そのほうがむしろおいしい。

小林: そうなんだー! 私もこれまでとは違う食文化のなかで、どうしようかってすごい考えて、いよいよパンを焼きはじめたんですけど。

井出: 私も焼きはじめたよ。でも、すぐに焼かなくなったけど(笑)。

小林: やばい! 私も焼かなくなるな、それは(笑)。私、スタバのチョコスコーンや551蓬莱の豚まんが大好きなんですけど、食べたすぎてつくり続けていたら、かなり近づいてきました。

來嶋: すごい! 東京の友人が泊まりにくると、自分で焼いたパンと、もらったブルーベリージャム、よつ葉の発酵バターを朝ごはんに出すんです。私からすればなんてことない朝食なんだけど、「ホテル並みだね」って喜んでくれて。素材がいいから。

小林: 素材もそうだし、情熱が違いますよね。心の底から食べたいと思って試行錯誤してつくったものだから。

來嶋: 完熟したブルーベリーをそのままバクバク食べると、「あれ、今まで食べてきたものってなんだったんだろう」みたいな。

木によって味が違うブルーベリー。

木によって味が違うブルーベリー。

小林: いいな。ブルーベリーができるんですね。

井出: 小林さんちのすぐそばに畑があるよ、春になったら摘みに行けるよ。

小林: え、教えてほしいです。

來嶋: 木によって甘さが違うから、一番甘い木を探すんです。

小林: 楽しみー!

北海道移住後の働き方の変化

小林: そうだ、お仕事のことも聞きたくて。私はまだ移住してきたばかりなので、東京への出稼ぎ期間を設けて仕事をしているんですけど、出版社に顔を出さなくなると、仕事がこなくなるかもって恐怖心があるんです。東京にいたとき以上に、仕事を詰めこんじゃうのはよくないなと思いつつ。

來嶋: それはよくないですね。

小林: そう。すごくいいところに住んでるのに、気持ちがすさむんです。

來嶋: わかる。“東京時間”で生きていたとき、こっちに知り合いができないし、より孤独感がつのって、「私なんでここにいるんだろう」って空回りしてしまったことがありました。

小林: だから、そうじゃないふうにしようと思っても、目の前でどんどん灯油が減っていくのを見ると、ここはガマンしなければいけないのかとか、逡巡しているんですけど。なにか違ったかたちで仕事をつくっていかなきゃいけないのかなと考えています。

來嶋: 私のなかで視界が開けた感じがしたのは、地域の「みる・とーぶマップ」をつくったときです。この地域にはマップがなかったので、私が似顔絵を描いて地域の仲間のみんなでつくりました。市の補助金で6年くらい更新できていて。自分にとってはいつもの仕事の延長線でやったことだったんですが、こうやって喜ばれたのがうれしかったんです。

「みる・とーぶマップ」。

「みる・とーぶマップ」。

來嶋: 市民活動などでも告知が必要ですけど、地元の人たちはそういうことに慣れていないから、ここでは農家のスキルを持っているより、編集のスキルを持っているほうが自分の生かしどころがあるかなとも、今は思うんですよね。

小林: そうかあ。私も早く東京の仕事を整理して、心の平穏を手に入れよう。

北海道移住してよかったこと

—— いろいろと悩みの渦中にいたり、大変なことがあったりしますが、北海道移住してよかったことは?

來嶋: 「お金がないと生きていけないわけじゃない」ってわかったことですね。野菜をつくったり、山菜を採ってきたりして食べられるし。

野草や山菜を摘んできて食べるという來嶋さん。

野草や山菜を摘んできて食べるという來嶋さん。

井出: うん、たしかに。

來嶋: 東京にいたら子どもの進路の選択肢がありすぎたけど、今は選択肢が限られているから大学のときだけ踏ん張ればいいって思えるんです。移住しなかったら子ども3人なんて育てられなかっただろうな。化学物質過敏症なのか、柔軟剤のにおいとか排気ガスが苦手なんですが、そういうのから解放されて、自然の近くにいられることが心身の健康に重要でした。

井出: 私は「自然のなかで暮らしたい」ってぼんやりとした考えで北海道に移住しましたけど、花の名前や木の種類とか、知らなかったことを、まるで小学生のように日々学べているんですよね。東京に住んでいたら知らなかったことをいっぱい勉強しているのが楽しい。知りたいことがいっぱいできて、違う世界が広がってきて、想像がつかない展開になってきているのが、自分でもおもしろいなって。

小林: 私はまだ移住1年生ですけど、雪かきにパンづくり、薪割りと、できることが毎日ひとつずつ増えていく実感があるんです。40歳を過ぎて、「新しいことができるようになった」なんてことがあるのはうれしいし、命や生活に直結するレベルのことじゃないですか。

雪かきも日常になりつつある。

雪かきも日常になりつつある。

小林: 私は自己肯定感が低くて、都会では権力にしたがうタイプだったんですけど、最近は東京でいろいろ偉そうなこといわれても、「でもこいつ薪割りもできないくせに」みたいに、価値基準がすごく変わってきました(笑)。

井出: それいいね(笑)。

小林: 人間にとって大事なことは、生きる力なんだって軸ができたので、つまらないことをいう人のことがあまり気にならなくなったのは、すごくよかったです。

井出: 北海道に移住して、いろんな人に取材して思ったのは、「ものがないときはつくる」っていうこと。東京ってすぐ手に入るから買っちゃうんだけど、ないものをつくるっていうのが北海道の人だなってすごい感じてるんですよね。家とかもね、みんな自分でつくってるからね。

小林: この間、井出さんのパートナーがうちで階段を直していってくれたんですよ。リフォーム屋さんに見積もりをとったら100万円くらいだったんですけど、「こんなのちょちょいのちょいで簡単だよ」って。ありがとうございます!

井出: とんでもない!

小林: そういうことにもいちいち感動します。私すぐ見積もり取ろうとしちゃうから。

來嶋: 家が建てられるようになると、もうだいぶ余裕が出てきますよね。

井出: そうですよね。

來嶋: 衣と食まではいけるからあと住もいけたら、最強な気持ちになりそう。

小林: 移住1年生としては、まずはいろんな人に話してみることが大事だなと気づきました。都会に住んでいると、誰かに相談することなくAmazonで注文しちゃうんだけど、この間、家のインターフォンを直しにきてくれた電気会社の人に、「薪が足りないかも」って話したら、「電線工事のときに邪魔な木を切るから、今度出たら持ってきてあげる」って言って、なんと翌日に巨大なトラックで大木が運ばれてきたんです(笑)。こんな世界があるんだと思って、感動しました。

薪ストーブを使うためには薪が必須!

薪ストーブを使うためには薪が必須!

來嶋: みんないい人で、割と大がかりな親切をしてくれるんですよね。

小林: そうなんですよ。でもね、まさか大木の状態で届くと思っていないから(笑)、古道具屋のおじさんに「これどうすればいいのかな」って写真を送ったら、チェーンソーを持ってきてくれて。スピード感がすごくないですか。人助けの精神は、やっぱり厳しい土地だからなんですかね。いちいち感動するんですよ。

來嶋: 新しく移住してきた人に対して、すごくナチュラルに受け入れてくれる感じは、北海道の人の特有の精神性なんですかね。もともと開拓をしようと移り住んできた人たちだからなのか、移住者にもやさしい気がします。

井出: 私もそう思います。帯広でも感じたし、弟子屈でもそう。親しみを持ってくれて、溶け込みやすい。

小林: きっと、全部が全部そうじゃないですよね。これ、北海道のおすすめポイント。

來嶋: 本当。すごく助けられる。

北海道移住を考えている人にアドバイス

—— 最後に、移住を考えている人にアドバイスはありますか。

井出: 私は、田舎暮らしに憧れて実現した典型的な例なんですよね。最初は、東京の仕事をもらいながらフリーエディターでもやろうと思っていたんですが、東京時代の親友から「知り合いもいないで移住したら、やっていけないと思うよ」っていわれてドキッとして就職したんです。それで土地になじめたし、つながりができていったので、まずは移住先の社会に溶け込むことからはじめたのはよかったです。

小林: 絶対そう! 私、井出さんがいなかったら今こうして生きていないと思う。

來嶋: 私は、今51歳なんですけど、過疎地では若手なんです。なのにいろいろ手伝ってもらって、よくしてもらうばっかりで。今年の冬は、せめてゴミ捨て場の雪かきだけはやろうと思っています。移住したら、地域のためにできることを考えるのも大事なんじゃないかな。

小林: 私はまだこの移住が成功したのかどうか、ちょっと正しいかどうかはわからないんですが(笑)。移住前は、「いつかは」とか、「もうちょっと貯金が貯まったら」、「キャリアを積んだら」って思っていたんですけど、それってきりがないので、動いてみるのは大事だと思います。

—— ありがとうございます!

來嶋: いやぁ、今日は久々の同業者との会話で、とてもエンジョイしました。編集ならではのことってニッチな話だから、誰にもいえないじゃないすか。だからそういう話もできたんで、本当によく潤いました。ありがとうございます。せっかく編集者が3人いるので、なにかやりたいですね。

小林: いいですね! なにかつくりましょう!

井出: ぜひぜひ!

writer profile

chihiro Kurimoto

栗本千尋

くりもと・ちひろ●青森県八戸市出身。旅行会社勤務→編集プロダクション→映像会社のOLを経て2011年よりフリーライターに。主な執筆媒体はマガジンハウス『BRUTUS』『CasaBRUTUS』『Hanako』など。2020年にUターンしました。

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