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連載の〆切に追われる日々から抜け出して抱いた、不安と解放感とは?

  • 2023年12月13日
  • コロカル
連載のペースがゆっくりとなるのをきっかけに気づいたこと

この連載が199回、あと1回で200回となるところまできた。第1回が2015年8月に始まって、8年半の間には次女の出産などさまざまな変化があったけれど、月2回、ほぼコンスタントに記事を書くことができた。コロカルの連載は、原稿を書くというありがたい訓練の場であったし、地域の人々に取材をして、互いに仲よくなる機会となったりもした。

何より湧き上がる思いをアーカイブとして残せたことは、本当に幸せなことだったと思う。

第3子誕生のときに書いたコロカルの記事。

第3子誕生のときに書いたコロカルの記事。

いま、ここで書いておきたいのは、連載の本数が春から減るということ。これまで月に3本原稿の締め切りがあって(コロカルが2本、別媒体の連載が1本)、「締め切り」という名の妖怪が私の前につねに立ちはだかっていて、月末に近くなると苦しめられるという状況になっていた。

多少遅れることはあるが、なんとか期日までに書き上げてきたわけだが、そんな締め切りが春から月1本だけとなることになった。コロカルの編集方針により更新が月2回から1回へと変わり、もう1本別の媒体の連載も3月で終了が決まったのだ。

コロカルと並行して連載していた『The JR Hokkaido』。特急列車で配布される車内誌で、北海道で個性的な活動を続ける人々を紹介。

コロカルと並行して連載していた『The JR Hokkaido』。特急列車で配布される車内誌で、北海道で個性的な活動を続ける人々を紹介。

立て続けに連載が減るという話がきて、最初は不安になった。連載は定期的にお金が振り込まれる、フリーランスとしてはお給料的にありがたい存在。それが2本も減るのだから、その分、どうやって金銭的に挽回すればいいのかなあと思った。

これまでの私だったら、連載がなくなった分、自分でマガジン的なメディアを立ち上げてそれを課金形式にしてみようと考えたと思う。このプランは一瞬頭をよぎったものの、その後、子どもからインフルエンザがうつり、何日か寝込むことなって思考停止の状態となった。

コロカルの連載の締め切りを1週間延ばしてもらい、あとは別媒体の原稿だけを、なんとか月末までに1本仕上げればいいように調整した。熱は2日で下がったが、そのあとは咳が続き、調子が上がらなかった。パソコンに向かっても言葉が浮かばず、仕方がないので、昼寝をしたりして過ごした。原稿の締め切りまであと3日の時点でも結局昼寝をしたり、ちょっと掃除をしたり。そしてあと2日となり、ついにその日がきてしまった。

このとき原稿は半分くらいしか進んでいなくて、さすがにまずいと思い、とにかく最後まで書き切った。最後の締めの言葉は曖昧なままだったが、翌日、締めの言葉がふっと浮かびなんとか原稿が仕上がった。

美流渡は本格的な冬の時期となった。仕事場の窓から見えるのは銀世界。

美流渡は本格的な冬の時期となった。仕事場の窓から見えるのは銀世界。

稲垣えみ子さんの著作を読んで、日々の優先順位について考えた

そして、私は調子が上がらなくて原稿が書けない間、稲垣えみ子さんの新刊『家事か地獄か』を読んで過ごした。稲垣さんは、アフロヘアがトレードマークの元朝日新聞記者で、50歳で会社を退社して変化した暮らしや意識について書いた『魂の退社』などさまざまな著作がある。

以前イベントの仕事でお目にかかって、その後、美流渡を訪ねてくれたこともある。『家事か地獄か』は、人生100年時代、日々、地味な家事を続けることによって、自分の面倒を自分でみる。それによって、なんの不安も持たず幸せを感じながら生きていけるのではないかという、稲垣さんの実体験をもとにしながら提案した本。そのなかで、大筋とは関係ないかもしれないが、稲垣さんの1日の過ごし方に目が止まった。朝5時に起床し、洗濯や掃除をチャッチャッと行ったら、6時30分からヨガをして、そのあと7時から2時間ほどピアノの練習をし、9時から近所のカフェで原稿の執筆などの仕事を始めると書いてあった。

稲垣えみ子著『家事か地獄か』(マガジンハウス)。

稲垣えみ子著『家事か地獄か』(マガジンハウス)。

私も起床は5時。そのあと家事などをやって仕事場に行くのは7時くらい。そこから原稿執筆などを始めていたのだが、稲垣さんの暮らしを見て「そうか、仕事の前にヨガをしたり、別のことをやるのもありだよなぁ」と、急に思ったのだ。風邪で思いっきり昼寝をしたけれど、なんとか原稿も間に合ったこともあり、時間の使い方はもっと自由でいいのではないかと考えるようになった。

そこで、12月に入ってからは、仕事場に着いたらまず20分ほどヨガをやって、そのあと冬にやりたいと思っていた縄文土器づくりをやって、9時くらいから仕事を始めるようにしてみた。また、それ以外にも、10分くらい散歩に出かけたり、バンドメンバーであるアフリカ太鼓の30分ほどの練習も、仕事の間に挟んでみたりした。

縄文土器の再現制作。これまでもトライしてきたが、今回は高さ60センチくらいの大きいものをつくろうと考えている。

縄文土器の再現制作。これまでもトライしてきたが、今回は高さ60センチくらいの大きいものをつくろうと考えている。

週に1回のペースでアフリカ太鼓のワークショップが地域で開催されている。12月3日には、日本のジャンベの第一人者・奈良大介さんがゲストで登場し、みんなで音を合わせた。

週に1回のペースでアフリカ太鼓のワークショップが地域で開催されている。12月3日には、日本のジャンベの第一人者・奈良大介さんがゲストで登場し、みんなで音を合わせた。

締め切りの奴隷にならず、好きなことをやったっていいんだ

まだ月の締め切りが減っているわけじゃないけれど、今月の仕事は比較的おだやかなこともあり、いろんなことの優先順位を変えてみて、いま1週間ほどが経過した。いつも仕事場に行くときに感じるちょっと重苦しい気持ちがなくなって、ワクワク感が高まっていることに気がついた。あるひとつのことをやっているときに、ときどき「本当は別のことをやらなくちゃいけないのに」という意識が出てきてつらくなることがある。優先順位の筆頭を仕事に設定しなくなったら、そんな意識が出てこないことがわかった。仕事場に行っても、今日は締め切りの奴隷にならず、好きなことをやったっていいんだという解放感を得られるようになったのだ。

散歩をしていると、日差しに照らされて輝く植物の姿にうっとりする。

散歩をしていると、日差しに照らされて輝く植物の姿にうっとりする。

「ついうっかり、いつもの思考の癖で、自分でマガジン的なメディアを立ち上げて、自分で締め切りをつくりだしてしまうところだった! 危ない、危ない」とひとりごとを言った。

やりたいと思っていたことを仕事の間に挟むと、つい夕方以降にも仕事が終わらなくて、長引いてしまうこともあるのだが、「自分の時間は無限にあるから大丈夫!」という、不思議な余裕のようなものがいま感じられている。連載が減ってしまうことは残念なことではあるけれど、締め切りの妖怪に日々襲われるリスクを考えたら、ゆったりしているのは悪いことじゃないと、だんだん思えるようになった。

クリスマスシーズンになるとつくりたくてウズウズするリース。秋の間にドライしておいた植物でつくってみた。

クリスマスシーズンになるとつくりたくてウズウズするリース。秋の間にドライしておいた植物でつくってみた。

金銭的な課題は解決したわけじゃないけれど、朝と夕方にヨガをやってスッキリした気持ちになって、やりたいと思っていたのにできていなかったことに手が回るようになって、この感じ、いいのかもと思っている。

200回に向けて、何かまとめのような記事を書けたらと思ったけれど、なんだか特にまとまっていなくて、すみません!来月から月1回の連載の更新を、今まで以上に心を込めてやりたいと思います。200回以降も、みなさんよろしくお願いいたします!

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/

https://www.facebook.com/michikuru

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