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九谷焼若手作家8人がそれぞれの感性でプロデュースした、石川県能美市の宿泊施設

  • 2023年7月20日
  • コロカル
九谷焼の要素と九谷の里の風景が彩る8つの部屋

石川県の南部に位置する能美市は、毎年春の大型連休には九谷茶碗まつりが開かれるなど伝統工芸、九谷焼のまちとして知られます。

〈ウェルネスハウス SARAI〉

その能美市内でも、緑豊かな和田山エリアにある〈ウェルネスハウス SARAI〉 はホテルやレストラン、カフェ、スパ、研修室などを擁する複合施設です。2022年から約1年をかけて8つある客室を能美市出身・在住、または市にゆかりある若手の九谷作家8名に各部屋を自由にプロデュースしてほしいと依頼してリニューアル。他にはない九谷焼をコンセプトとした”九谷ステイ”ができる宿泊施設が誕生しました。

8つの部屋は、どれも九谷焼らしいモチーフや色遣い、能美市の自然や史跡、また作家の作風が反映されていて、個性豊かです。

能美市の風景と九谷焼の特徴を掛け合わせた8人の作家たち

牟田陽日の「眠りの島」

牟田陽日の「眠りの島」

東京出身で能美市在住の牟田陽日がプロデュースした洋室は「眠りの島」。眠りに落ちる前の独りの時間を、波に囲まれた孤島の情景に表しています。

室内では九谷焼を構成するいくつかの要素の中から、「絵」と「物体」と「器」を抽出して展開しています。「絵」の表現として、壁紙に孤島と波、鯨の情景が描かれました。海を思わせる夜光貝のランプは、九谷の磁土で出来た岩をイメージした「物体」の上に置かれています。「器」は部屋の絵に合わせた柄のマグカップです。

山近泰の「五彩アニマル’z」

山近泰の「五彩アニマル’z」

動物のモチーフを描くことが多い山近泰が担当した洋室は「五彩アニマル’z」。

石川県を代表する観光スポット、いしかわ動物園がある能美市。それを象徴するかのように、壁面全体に動物のモチーフをダイナミックに配置しています。九谷五彩である、青、黄、紺青、紫、赤を使い、家族愛の象徴である象、ブッタの教えの中で「一つの事を成し遂げる」と言われる犀(さい)などが、幻想的に描かれています。

架谷庸子の「里やまの弧」

架谷庸子の「里やまの弧」

若手の赤絵作家として高く評価される架谷庸子は「里やまの弧」として和室を担当。

平地の合間をぬって垣間見られる能美市の原風景とも呼べる古墳群がモチーフ。さまざまな小紋を赤絵細描で彩る「やま小紋」として展開しています。やまの稜線には後光のような金の縁取りを施し、その間から太陽が昇るように精密な赤絵細描のレリーフを際立たせた作品となっています。

山岸青矢の「静爽の奏」

山岸青矢の「静爽の奏」

九谷焼の名門、山岸家の三代目でもある山岸青矢は「静爽の奏」として洋室をプロデュース。

室内は、九谷焼の白磁とアクリルを組み合わせた白と青の世界。工芸と建築の融合をテーマにしています。また壁面作品にライトを組み込み、モダンかつスタイリッシュで上品な空間に仕上げました。部屋には木蓮のカップが置かれていて、山岸自身が子どもの頃に和田山で見かけた木蓮の咲く風景が切り取られています。

中田雅巳の「光と線と影」

中田雅巳の「光と線と影」

国内外の展示会に多数出展し、数々の受賞歴もある中田雅巳は「光と線と影」として洋室を手掛けました。

作品に刻み込まれた線「SEN」と、作家がこの部屋を作る上で1つのテーマとして考えていた「光と影」が融合した部屋です。

壁に取り付けられた6つのオブジェは、ランプによる人の作り出した光、高い位置にある窓から差し込む自然の光によって照らされます。光によって、線と影が変化し、空間で融合することを心地よく感じられるように意図されています。

井上雅子の「龍」

井上雅子の「龍」

金背景に黒の描き落としを施した作品を多く手がける井上雅子は「龍」をモチーフにして、和室をプロデュース。

古くから山岳信仰の対象として能美市で親しまれる霊峰白山と、この土地の自然の力強さをテーマに床の間が彩られています。雲間から現れる龍は、襖絵や天井画でみられる歴史的な雲竜図を参照しながら、その一部を陶板にて制作。模様は「掻き落とし」と呼ばれる技法で、表面を削ることで描き出されています。

上出惠悟の「和田山丘陵」

上出惠悟の「和田山丘陵」

東京藝術大学で油画を専攻した上出惠悟は1879年創業の九谷焼窯元、上出長右衛門窯の後継者です。「和田山丘陵」として和室の部屋を手掛けました。

北陸を代表する能美市古墳群の副葬品である六鈴鏡、鈴付銅釧、四神四獣鏡を越前の麻紙に墨で描きました。時を越えて出土したそれらの物品と狢(ムジナ)の穴を見て、埋葬と埋蔵文化について考えると共に古代人の想いに触れています。

早助千晴の「月齢」

早助千晴の「月齢」

早助千晴が手がけた洋室は、「月齢」。早助は作品に必ず九谷五彩のひとつ「紺青」を取り入れ、青を基調とした細描で、幻想世界の表現を目指し制作しています。

「月齢」では、青を基調とした模様と月の満ち欠けを表した絵付をそのまま壁紙に施しました。壁にはしっかりと描き込んだ磁器のレリーフを設置。細密に描かれたパターンは早助の代名詞とも言える表現ですが、淡い色彩で描くことで柔らかく空間全体を包み込んでいます。

エントランスやレストランでも九谷焼の世界を堪能

エントランスやレストランでも九谷焼の世界を堪能

牟田陽日が手がけた圧巻の壁画。一つ一つのモチーフを覗き込みたくなります

牟田陽日が手がけた圧巻の壁画。一つ一つのモチーフを覗き込みたくなります

エントランスには牟田陽日が手掛けた壁画が完成。花鳥や獣、山水、器といった色彩豊かな九谷焼の世界で、訪れる人を出迎えます。

レストラン内観。宿泊者向けの朝食は1320円、夕食は5000円(いずれも税込)。

レストラン内観。宿泊者向けの朝食は1320円、夕食は5000円(いずれも税込)。

レストランでは、地元の食材を使った料理を九谷焼の器で提供し、カフェでは九谷焼の大皿も展示されているなど、施設全体で九谷焼と触れる機会が設けられています。

注目の若手作家たちがプロデュースし、九谷焼伝統の色合いや表現を作家の個性をインスタレーションのように五感で味わえる九谷ステイ。伝統工芸に触れられる宿泊先として利用してみてはいかがでしょうか?

information

能美市ふるさと交流研修センター ウェルネスハウス SARAI

住所:石川県能美市石子町ハ147番地1

tel:0761-57-1212

客室数:8室

1泊料金:4950円〜

Web:ウェルネスハウス SARAI公式サイト

*価格はすべて税込です。

writer profile

Saori Nozaki

野崎さおり

のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。

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