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浜を読む ~砂浜という環境の多様性~<後編>

  • 2022年8月30日
  • NACS-J
 日本は、海に囲まれた島国ですが、砂浜の自然についてはあまり研究が進んでおらず、わからないことが多くあります。一方、世界ではいろいろとユニークな研究が行われています。

 そこで、最先端の砂浜研究の紹介を交えながら、砂浜の自然とはいったいどんな環境なのか、シリーズで紹介していきます。

特徴的な地形


 目が肥えてくると、砂浜の地形がさらにいろいろな要素から成り立っていることがわかります。それらの要素がすべての砂浜に見られるわけではありませんが、生きものの生息場所(ハビタット)としての砂浜を考える上で知っておきたいものです。

リッジとラネル(ridge-runnel)
 潮が引いた時に海面上に露出する砂州状の隆起(リッジ)と、その岸側に残る浅水域(ラネル)です(図5)。沿岸砂州は潮が引いても露出しないことでリッジと区別できます。ラネルには小魚が取り残され、砂浜の潮だまりのような働きをしています。
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▲図5 リッジとラネル。潮が引いた時にあらわれる岸と平行に伸びる砂州がリッジ、その手前の浅水域がラネル。ラネルは砂浜の潮だまりのような働きをしている。鹿児島県吹上浜


バーム(berm)
 後浜に形成される、波で押し上げられた砂礫が堆積してできた平坦な地形です。海側は段差となっています(図6)
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▲図6 バーム。バームの前端は段差になっており、平常時は波がそこを越えることはない。バーム上には植生が広がっている。福岡県三里松原


浜崖(beach scarp)
 波で削り取られて一時的にできた段差です。前浜部分にできるもの(図7左)や砂丘の基部にできるもの(図7右)があります。後者をとくに砂丘浜崖(dune scarp)と呼ぶことがあります。
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▲図7 浜崖(はまがけ)。前浜の浜崖(左)と砂丘基部の浜崖(右)。鹿児島県吹上浜


ハンモック(hummock)
 後浜にまばらに生える海浜植物のまわりに、風で飛ばされた砂が堆積してできた小さな隆起です(図8)。何も障害物がなければ、後浜の砂は嵐の時の波や風で削り取られてしまいますが、植物が存在することで砂が維持され、さらには砂丘の発達を後押しします。海浜植物は砂浜の維持にとって欠かせないものなのです。
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▲図8 ハンモック。海浜植物の周りに砂が堆積している。宮崎県富田浜


砂丘間湿地(interdunal wetland)
 複数列の砂丘が存在する場所にみられる、砂丘列と砂丘列の間の湿地状の低地です(図9)。砂丘といえば、乾燥した砂の丘にしか見えないかもしれませんが、地下水面に近い砂丘の窪地は砂丘間湿地として独特なハビタットになっています。
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▲図9 砂丘間湿地。この湿地は最近太陽光発電所が建設されたため消失した。鹿児島県吹上浜


カスプ(cusp)
 上から見て、汀線部が湾入した地形で、湾と岬が繰り返して連なります(図10)。湾の幅は数メートル程度の小さなものから数十mに達するものまであります。カスプでは、岬にぶつかった波が両側に分かれて湾に進み、湾で合わさった海水が今度はサーフゾーンに向かって流れ出ます。この流れの先端部には、サーフゾーンの他の場所より多くの生物が集まることが知られています。
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▲図10 カスプ。波長10 mほどのカスプが連なる。山口県二位ノ浜


砂浜タイプ


 砂浜の姿は、波や流れなど水の働きと砂との間の物理的な相互作用によって決まってきます(陸上では風の作用が加わります)。海岸地形と地形形成にかかわるプロセスを合わせたものをモルフォダイナミクスと呼ぶのですが(Jackson and Short eds 2020)、砂浜生態系の研究で古くから利用されている砂浜の特徴を表すタイプ分けは、このモルフォダイナミクスに基づいて分けられています(例えば、Costa et al 2022; Short and Wright 1983; Brown and McLachlan 1990; McLachlan et al 2018)。

 砂浜タイプは大きくは、反射型砂浜、中間型砂浜、逸散型砂浜の大きく3つに分けられます(図11)。砂浜タイプの見分けができると、そこに暮らす生物や生態のことを考える上でとても役立ちます。
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▲図11 砂浜タイプの模式図。砂浜生態系の研究では、砂浜の特徴を表すタイプ分けが利用されてきた。砂浜タイプの見分けができると、そこに暮らす生物や生態のことを考える上でとても役立つ


反射型砂浜(reflective beach)
 反射型砂浜は、海岸の勾配が急で汀線際まで水深が深いため、波は砕けることなく岸まで到達し、勢いをもったまま浜を駆け上がります(図12)。サーフゾーンは不明瞭です。堆積物の大きさは3タイプの中で最も粗く、礫も混じります。
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▲図12 反射型砂浜。砕けた波が勢いよく前浜を駆け上がっている。鹿児島県吹上浜


 このタイプの砂浜には、汀線のすぐ先にステップ(step)と呼ばれる段差が見られることがあります。海が静穏なときは岸近くでも波が立ちませんが、荒れるとステップの部分で一気に波高が高まり、砕けます。図13はオホーツク海に面した紋別市の砂浜です。左の写真は静穏な状況ですが、汀線とボートの間には段差1 mほどのステップがあるので、うっかり海の中に入れば、突然深みにはまりたいへんなことになります。右は同じ場所のうねりが入る状況です。沖には白波が立ってはおらず、一見荒れていないように見えますが、うねりが入り、ステップの上で一気に砕けています。不用意に波打ち際に立っていれば波に巻かれ、戻る波の勢いで海に引きずり込まれる危険があります。波打ち際の調査は十分に気をつけましょう。
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▲図13 静穏時(左)と暴浪時(右)の反射型砂浜。ボートと調査員の間に段差1 mほどのステップがある。北海道紋別市。


中間型砂浜(intermediate beach)
 海岸の勾配や堆積物粒子の大きさは、反射型と逸散型の中間的な状態です。岸のすぐ沖には明瞭な沿岸砂州が存在し、波はその上で砕けることにより波エネルギーを失います。サーフゾーンは明瞭です(図14)。
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▲図14 下げ潮時の中間型砂浜。一直線状に白波が立っている場所の海底に沿岸砂州がある。不明瞭であるがその沖にも一列の沿岸砂州があり、部分的に波が砕けている。岸側にはリッジとラネルが現れている。鹿児島県吹上浜


逸散型砂浜(dissipative beach)
 海岸の勾配は緩く、沖から繰り返し砕けることで波のエネルギーが失われるので、岸に到達する波は勢いを失っています。明瞭なサーフゾーンが形成されます(図15)。堆積物の大きさは最も細かくなります。干潮時の前浜部分は干潟のように平坦になります。
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▲図15 散逸型砂浜。鹿児島県吹上浜


 同じ海岸内であっても、これらのタイプは砂の輸送状態や海岸線の形状の関係で連続的に変化することがあります。例えば、鹿児島県の薩摩半島の西岸に広がる吹上浜は、長さ30kmにも及ぶ日本有数の長大な砂浜ですが、北部は反射的、南部は逸散的な特徴をもちます。1kmほどの小さな砂浜ですが、山口県西部、下関市の土井ヶ浜も、一端は反射的、もう一端は逸散的です。

 波浪だけではなく、潮差(干満差)の大きな海岸では潮汐の影響も現れ、この3タイプの区分だけでは収まらなくなります。そこで、McLachlan et al(2018)は潮汐と波浪の影響を組み込んだ新たなタイプ分けを提案しました(表1)。
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表1.波浪と潮汐の影響を考慮した砂浜タイプの区分。McLachlan et al(2018)を元にして作成。(相対潮差(RTR)=平均大潮時潮差/砕波波高)

 これによれば、まず、波浪と潮汐のどちらが支配的な要因になっているかによって波浪支配型(WD型)、波浪・潮汐混合型(TM型)、潮汐支配型(TD型)の3タイプに分けられます。WD型とTM型は波高、サーフゾーンの発達程度、満潮時の海岸勾配、干潮時の潮間帯の広がりなどによってさらに細分され、合わせて7つのタイプに分けられます。

 潮汐に支配されるTD型は、潮汐支配/干潟型とも呼ばれ、干潮時の潮間帯は干潟になります。例えば、先の吹上浜の南端部には、大潮の干潮時に幅400mにも達する干潟が現れます(図16)。干潟といえば静穏な内湾や河口域だけに形成されるものだと思われがちですが、外海に面した波の荒い砂浜にもできるのです。
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▲図16 逸散型砂浜に現れる干潟。鹿児島県吹上浜

 どのタイプであっても固定的なものではなく、波浪条件によって変化することがあることには注意する必要があります。詳細は別の機会にふれることにしますが、砂浜タイプが異なれば、同じ海岸内であっても棲む生物の種類が異なってきます。ですから、目の前に広がる砂浜がどのタイプに当てはまるのかを知ることは、砂浜ハビタットの形成メカニズム、さらにはそこに生活する生物の生態を考える上でたいへん役立つのです。

地下エスチュアリ


 以上紹介してきた地表の特徴とは別に、最近、砂浜の地下水に高い関心が注がれるようになってきました。地下水は直接目にすることができないので、砂浜では話題にさえならないことが多いですが、地下水を通して鉄・窒素・リンなどの栄養塩、炭素、バリウムやストロンチウムなどの放射性同位体、メタンや二酸化炭素などの温暖化ガスなど多くの物質が海に流れ込むことで、砂浜は重要な陸-海連続体として機能しています(Rocha et al 2021)。

 潮が引き始めた砂浜を見ると、満潮時の汀線より下方の砂面に地下水が滲み出す様子を見ることができます。砂浜の地下水は、陸起源の淡水と海から砂層に進入した海水が混ざり合ったものです。

 滲み出した地下水は小さな流れとなり、次第に合流し、やがて海に流れ出ます(図17)。まるで、山地で滲み出した地下水が渓流、河川と姿を変え、海に流れ出るのと同じような光景です。地表の淡水-海水の混合域をエスチュアリと呼ぶことにならって、砂浜の地下の混合領域は地下エスチュアリ(subterranean estuary)と呼ばれるようになりました(Bishop et al 2017; Duque et al 2020; Moore 1999; Moore and Joye 2021; Robinson et al 2018; Rocha et al 2021)。 しかし、どうしても地表の普通のエスチュアリと混乱するので、別の名称も提案されています。日本語に直訳すると地下混合・反応フィールド(subterranean mixing and reaction fields: SMRF)となります(Duque et al 2020)。

 河川が沿岸域の生態系にとって重要な役割を果たしていることはよく知られていますが、砂浜ではそれに加えて地下水の存在にも目を向ける必要があります。
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▲図17 砂浜で見られる地下水の流出。流出部(a);砂浜の同じ高さの至る所から滲み出す(b);時には小さな水路となり(c)、最後は海に流れ出る(d)。鹿児島県吹上浜


文・写真:須田有輔/元水産大学校校長

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