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浜を読む ~砂浜という環境の多様性~<前編>

  • 2022年8月23日
  • NACS-J
 日本は、海に囲まれた島国ですが、砂浜の自然についてはあまり研究が進んでおらず、わからないことが多くあります。一方、世界ではいろいろとユニークな研究が行われています。

 そこで、最先端の砂浜研究の紹介を交えながら、砂浜の自然とはいったいどんな環境なのか、シリーズで紹介していきます。 hama1
▲図1 大きな開放感を与えてくれる広々とした砂浜。鹿児島県薩摩半島の西岸に広がる吹上浜

 土砂が堆積してできた堆積物海岸のうち、砂と呼ばれる大きさの堆積物で覆われた海岸が砂浜です。堆積物は大きさによって、大きい方から礫(れき;粒子の直径2mm以上)、砂(0.063~2mm)、泥(0.063mm以下)と大きく3つのカテゴリーに分けられます。このうち砂サイズの堆積物で覆われる海岸が、厳密な意味での砂浜となります。しかし、同じ場所の砂浜でも礫や泥が混ざることは普通なので、実際には、礫や泥が混じりながらも砂を主成分とする海岸を砂浜と考えればいいでしょう。なお、礫あるいは泥が主成分である海岸は、それぞれ礫浜(図2)、泥浜と呼ばれます。

 砂浜の砂はもともとそこにあったものではなく、多くは、河川が侵食した陸地、波が削り取った崖が、細かく砕かれて土砂となり、それが沿岸の流れに乗って運ばれ、堆積したものです。こうして運ばれた砂はずっとそこにとどまり続けるわけではなく、ある時は削られ、また再び堆積するということが繰り返されます。固い岩盤で覆われた海岸とは異なるこのような柔軟性が、砂浜の最大の特徴といえます。ですから、砂浜生態系の命とも呼ぶべきこの柔軟性をもたらす、砂、波や流れ、地形との関わりを知ることは大切なのです。しかし、人間視点からすれば柔軟性ほど厄介なものはなく、砂浜の柔軟性を生かすか殺すか、砂浜の管理のあり方をめぐる大きなせめぎ合いが繰り広げられてきました。
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▲図2 礫浜。宮崎県都農町。砂よりも粒の大きな礫(れき)が主成分になっている


砂浜の分布


 地球全体の海岸線距離163万km(World Research Institute)のうち、氷結しない海岸線に占める砂浜の割合は、研究によって10%から75%まで大きな開きはありますが、だいたい30%程度だと考えられています(Luijendijk et al 2018)。数値的なことははっきりしなくても、GoogleEarthのような衛星画像を見れば、地球のどこに砂浜が分布するのか知ることができます。例えば、米国の東岸からフロリダ半島を経てメキシコ湾岸一帯は、バリア島(barrier island)というリボン状の細長い島地形の砂浜で縁取られています。南米東岸のブラジル南部やウルグアイ、オーストラリア南岸、アフリカ西岸、北海南岸などにも長大な砂浜が見られます。

 海岸統計(国土交通省水管理・国土保全局 編, 令和3年度版)によれば、日本全国の海岸線35,293kmのうち、14%にあたる4,951kmが砂浜です。砂浜は日本全国どの海岸にもみられますが、20kmを越えるような長大な砂浜が存在するのは、太平洋、日本海、オホーツク海、東シナ海など外海に直接面した地域に限られます。茨城県(46.2%)、鳥取県(43%)、静岡県(41.1%)をはじめ福島県、鹿児島県、石川県、山形県、千葉県、宮崎県、青森県、沖縄県、富山県は、県の海岸線距離の20%以上が砂浜で占められています。逆に、内湾に面した大阪府、熊本県、東京都、佐賀県、広島県、岡山県は4%以下にすぎません。


砂浜断面の区分


 砂浜の地形を見るときには、地図のように上からだけではなく、’断面を見る’と特徴がよくわかってきます(図3)。断面の見方には大きく2つあり、一つは基盤となっている砂に、もう一つは浜に寄せる波に着目したものです。
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▲図3 砂浜断面の地形の模式図。砂浜の地形を見るときには、‘断面を見る’と特徴がよくわかってくる

 まず、砂の視点でみると、干潮時の汀線から満潮時の汀線までの区域を前浜(foreshore)、そこから砂丘や崖の基部までを後浜(backshore)といいます。後浜の背後には海岸砂丘(coastal dune)が広がりますが、海岸段丘や海食崖など崖となっている海岸もあります。海側に目を転じると、前浜の先には波が砕ける外浜(inshore)が広がります。砂浜は、見えている部分だけでなく海の中まで続いているのです。海岸の生き物の生息場所としての区分で使われる潮間帯は前浜、潮上帯は後浜、潮下帯は外浜に、それぞれ該当します。浜(beach)という語がありますが、海水が届かない部分だけ(つまり後浜)、後浜と前浜を合わせた部分、あるいは砂浜全体を漠然と表します。

 次に、波の視点でみれば、沖から入ってきた波が砕ける領域はサーフゾーン(surf zone)と呼ばれます。波が砕ける場所の海底部分は砂が堆積して周囲より浅くなっていますが、そのような砂の堆積地形を沿岸砂州(coastal bar)といいます。サーフゾーンを抜けた波は最後に岸に到達しますが、波が寄せては返す、まさに海と陸の接点部分を遡上波帯(swash zone)(図3、4)といいます。遡上波帯は、波の上げ下げという10秒前後の短い周期で、冠水と露出が繰り返される場所です。
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▲図4 遡上波帯。鏡の面のようになっている部分が遡上波帯(矢印の範囲)。鹿児島県吹上浜


文・写真:須田有輔/元水産大学校校長

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