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リニア中央新幹線静岡工区の現状(後編)

  • 2022年3月29日
  • NACS-J
前編はこちら)

土砂災害の恐れが高い2つの発生土置き場と非常口


 椹島から車でさらに30分ほど走った燕沢には、高さ70m、延長約1㎞に渡ってトンネル工事による発生土のほとんどが置かれる計画となっています。この場所は大井川沿いの数少ない平坦な地形で、カラマツの植林にウラジロモミが混交している森林です。この段丘状の地形は、数千年前に対岸の上千枚沢源頭部が大規模に深層崩壊し土石流が流下して、大井川を堰き止め、その後、川の侵食により離水した地形です。

 深層崩壊によって形成された燕沢の安全性について、JR東海は今後大規模崩壊が発生しても下流への影響はないとしています。しかし、上千枚沢の周辺にはいくつもの崩壊跡地が白くくっきりと確認できます。

 この燕沢発生土置き場の下流には南限域にあたるドロノキの立派な河畔林がありました。しかし2019年の台風19号の際にほとんどが消滅してしまいました。ドロノキをはじめとしたヤナギ類は攪乱依存性の高い樹種です。一時的に森林が無くなっても場所を変えながら新たな裸地に定着することにより群落を維持します。逆に攪乱の頻度や強度が減少してしまい安定した立地になってしまうと、ドロノキ群落は維持が難しくなります。すぐ上流に巨大な構造物が作られるということは、大井川の流れや攪乱体制が変わり、ドロノキ群落の維持が厳しくなることが懸念されます。
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▲燕沢発生土置き場。発生土が積まれる高さ70mというのは20階建てマンションにも相当する
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▲準備が進む燕沢発生土置き場
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▲燕沢発生土置き場の林相

 また燕沢以外の主な発生土置き場として、椹島下流の藤島沢という場所があります。この場所にはヒ素など自然由来の基準値を超えた重金属を含んだ発生土が置かれる計画です。JR東海は大井川から比高20mの段丘上にあり、二重の遮水シートで覆うため100年に1度の災害へ対応可能としています。しかし、周囲には崩壊地が多く、大井川の侵食も激しいことから、有害な発生土が下流域に流出することが懸念されます。

 燕沢のすぐ上流に一つ目の非常口の千石非常口が予定されています。現在はフェンスに囲われた状態ですが、付近にはコンクリートプラントが完成しておりいつでも工事開始可能な状態です。
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▲藤島沢発生土置き場
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▲千石ヤード

 もう一つの非常口は燕沢から車で10分の二軒小屋からさらに道も細くなった悪路を20分ほど進んだ先の西俣非常口です。この西俣非常口までは静岡市街地から車で5時間近くかかります。工事の際の事故やリニア運行時に乗客が避難した場合、救助には相当の時間を要する場所です。西俣非常口付近は広く資材置き場として整地されていますが、2019年の台風19号の際に地盤が流出してしまいました。その後、再整地をしてヤードとして準備がされています。対岸には大きな崩壊地があり、現場にいる間にも土砂が土煙をあげながら落ちていました。
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▲西俣非常口への林道
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▲広く整地された西俣ヤード
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▲西俣ヤード対岸の崩壊

リニア工事の静岡工区の現状


 トンネル本体工事は未着手である一方で、林道の舗装化や発生土置き場の整備、宿舎の建設などは着々と進んでいます。大井川の谷間には工事の音や資材を運ぶヘリコプターの音が鳴り響き、土煙が舞っています。大井川源流域は古くから林業が行われていたとは言え、南アルプスに育まれてきた豊かな自然環境への工事による影響が懸念されます。また大井川源流域は登山者の憧れである南アルプス南部の玄関口ですが、リニア工事に向けてその様子は大きく変容しています。今後、工事の影響について十分に注視していきます。

(日本自然保護協会 保護部 若松伸彦)
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▲椹島付近から見える赤石岳

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