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緑のgooは2007年より、利用していただいて発生した収益の一部を環境保護を目的とする団体へ寄付してまいりました。
2017年度は、日本自然保護協会へ寄付させていただきます。
日本自然保護協会(NACS-J)の活動や自然環境保護に関する情報をお届けします。

沖縄のジュゴンはどこにいる?

  • 2017年12月19日
  • NACS-J

630 P8_海草藻場の食み跡

▲ジュゴンの餌は海草。海底に体をつけて前進しながら海草を地下茎ごと掘り起こして食べるため、その跡は砂地が露出し、少しへこんだ帯状の食べ跡が残る。(写真:北限のジュゴン調査チーム・ザン)

海牛目のジュゴンは草食

 ジュゴンは海にすむ哺乳類の仲間で、ゾウと同じ祖先から分かれたと考えられる海牛目に属します。日本の海の哺乳類には、鯨目のイルカやクジラ、鰭脚類のアザラシなどがいますが、これらが魚やイカ、オキアミなどを食べる肉食なのに対して、海牛目のジュゴンは草食です。
 ジュゴンの食べ物は、海に生える種子植物の海草です。海草は、ワカメやモズクなどの海藻とは異なり、一度陸上に進出した種子植物のうち、再び海に戻った仲間です。海の中で花を咲かせ、種子をつけて繁殖します。沖縄では海草のことをジュゴン(ザン、ジャン)が食べる草という意味でザングサ、あるいはジャングサと呼んでいます。
 海草は主にサンゴ礁の内側や内湾などの波の穏やかな浅場の砂泥底に生育します。海草がまとまって生えている場所を「海草藻場」と呼び、ここが、ジュゴンの餌場となっています。

日本のジュゴンは世界の北限

 ジュゴンは、西太平洋から東アフリカにかけての熱帯・亜熱帯の浅い海に分布し、沖縄は分布域の東側の北限にあたります。
 生息数はオーストラリア周辺に6万5000頭、ペルシャ湾に7500頭、紅海に4000頭、残りの海域に小個体群が不連続に分布しています。ジュゴンは海草が生える沿岸域に依存するため、人間活動の影響を受けやすく、過去90年間に20%が減少したと考えられ、種としてはIUCNが野生絶滅の危険性が高い「危急種(VU)」に、日本の個体群は、環境省が「絶滅危惧IA類 (CR)」に評価しています。
 ジュゴンの妊娠期間は約14カ月。授乳期間は約18カ月。一回のお産で一頭の子を産みます。性成熟に達するのはは8~18才。出産間隔は推定3~7年。寿命は最高73年と長寿ですが、長い妊娠・育児期間を要すため、雌が生涯に出産する数は数頭と考えられ、増加率は最大でも年率5%を超えないと推定されています。絶滅が危惧されるジュゴンですが、世界的には飼育の歴史は60年以上あり、これまでに30以上の飼育例があるものの、飼育下で繁殖に成功した事例はありません。数が減ったからといって、人工繁殖できないジュゴンにとって、生息地の保全はとても重要です。

640 海牛目図版RGB
▲海牛目はマナティー科とジュゴン科に分かれ、現在マナティー科は3種が生息する。一方ジュゴン科には、かつて北太平洋にステラーカイギュウが生息していたが、乱獲により発見からわずか27年目の1768年に絶滅し、現在はジュゴン1種のみが生息する。外見が似ている海牛目だが、ジュゴンは海底に生える海草を、マナティーは海草に加えて水草や陸上の植物も食べるため、それぞれアゴのかたちが違う。


沖縄島でのみ生息確認

630 P9_map
▲世界のジュゴンの分布。沖縄は世界的な分布域の東側の北限にあたる。
※IUCNウェブサイト『The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2017-1』より引用

 かつては、奄美大島以南の南西諸島に分布していた日本のジュゴンですが、前述のように歴史の中で数を減らし、現在では沖縄島でのみ生息が確認されています。

 1998年以降沖縄島では、東海岸では金武湾以北、西海岸では読谷村以北の海域でジュゴンが度々確認されていました。しかし、2000年11月までに混獲事故などで6頭の貴重な命を失いました。その後、08年から行われた沖縄防衛局による環境アセスメント調査では、目撃海域は東海岸では伊計島以北、西海岸では屋我地島の以北の海域に狭まり、発見頭数もわずか3頭でした。この3頭は、個体A、B、Cと識別され、個体Aは大浦湾に隣接する海域に定住し、個体B、Cは母子と考えられ、古宇利島沖を拠点に東海岸まで移動していました。個体Cは09年ごろ親離れしたと考えられ、大浦湾にしばしば姿を見せました。このように現在生息が確認されている3頭のうち2頭が、大浦湾を行動範囲としていることが分かりました。また、昨年の秋に沖縄島北西部の海域で、新たに子どものジュゴンが母親と思われる個体と一緒にいたのが目撃されています。

640 沖縄島ジュゴン確認位置RGB
▲沖縄島におけるジュゴン確認位置(1998年1月-2017年7月)。沖縄防衛局の調査によると現在沖縄島周辺では3頭のジュゴンが確認されている。個体Aは辺野古近海に暮らしている雄。個体Bと個体Cは母子と見られ、当初2頭は古宇利島近海を拠点に暮らし、東海岸に移動することもあった。その後個体Cは2009年ごろ親離れしたと考えられ、大浦湾や伊計島近海で確認されていた。
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▲大浦湾における食み跡確認位置(2009年6月-2015年5月)。官民の調査で確認されたジュゴンの食み跡の位置と本数。
300 P10_ジュゴンとウミガメ(東恩納琢磨)
▲辺野古近海で確認されたジュゴン。ウミガメと一緒に泳いでいた。


ジュゴンの生命線、海草藻場は激減

 ジュゴンにとって生命線とも言える海草藻場ですが、海草が生えるような浅い海は埋め立てやすく、ジュゴンの生息が確認されていた沖縄の海域では、1950年代から埋め立てが進められてきました。最近では、南西諸島で最大級の干潟であった泡瀬干潟で、2002年に埋め立てが着工されています。埋め立てに加え、近年は気候変動により台風の襲来頻度と勢力が増し、台風時の波浪の影響でジュゴンが利用する海草藻場が減少しています。また、大雨の際に、陸域から大量の赤土が流入し、餌場の劣化も進んでいます。
 このようなさまざまな原因により、既にジュゴンの餌場が減少している中、残された貴重な餌場が、辺野古・大浦湾の海域です。私たちはNACS‐Jとともに、2002年から10年間、この辺野古海域を中心に、海草の分布と量を調べる市民参加型モニタリング調査「ジャングサウォッチ」を実施しました。
 調査では、空中写真では読み取れなかった被覆度25%以下の海草藻場の分布や、生育している海草の種、種ごとの出現場所の傾向、季節変動など新たな知見を得ました。またジュゴンの食み跡を確認し、この海域がジュゴンにとって貴重な採餌場となっていることも裏付けられました。

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オオウミヒルモ
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ニラウミジグサ
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リュウキュウスガモ
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リュウキュウアマモ
▲ジュゴンが食べるさまざまな海草。これまでの調査から、沖縄のジュゴンは7種類の海草を食べていることが分かった。ジュゴンはこれらの海草を根を含む地下茎ごと食べるため、海草の葉だけを食べるアオウミガメの食べ跡と見分けられる。


埋め立てがジュゴンに与える大きな影響

 この海域で埋め立て事業が行われた場合、ジュゴンに影響を与えることが、多くの市民団体などから指摘されてきました。実際に個体Cは大浦湾で姿が確認され、この個体のものと思われる食痕が複数カ所で確認されていましたが、工事が進む2015年6月を最後に、その消息が途絶えています。
 工事が進めば、埋め立てや構造物設置に伴う海流の変化により、ジュゴンの餌場である海草藻場が減少します。また往来する船舶との接触事故、航空機や船舶の騒音被害、基地から流出する化学物質がもたらす健康被害や採餌場の劣化が懸念されます。加えて、この海域を追い出されたジュゴンが、網漁業を行うほかの海域で混獲事故に巻き込まれるリスクも高まります。

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▲2000年11月、宜野座村沖の大型定置網に混獲され死亡したジュゴン。哺乳類のジュゴンは漁網に絡まったり漁網で息継ぎが妨げられると、溺死してしまう。2001年、写真のジュゴンの死亡事故をきっかけに、民間主導でジュゴン保護検討会が設立され、ジュゴン放流マニュアルが作成された。2002年から行政主導でレスキュー検討会が設立され、レスキューマニュアルの作成、レプリカを使った放流の実地研修などが行われてきた。

 辺野古海域以外にも海草藻場はありますが、ジュゴンは海草があればどこにでも生息できる訳ではありません。海草を地下茎ごと食べるジュゴンは、海草の生育密度や底質によって採餌場を選択しており、すべての海草藻場が採餌場として利用できる訳ではないのです。また、漁業が盛んな海域では、漁網による混獲死亡事故が発生しており、これらの海域では、ジュゴンは姿を消しました。
 ジュゴンが生息できる環境が減少する現在、彼らが頻繁に確認され、実際に餌場として利用していた辺野古・大浦湾の海域は、ジュゴンが生息できる数少ない貴重な海域です。この海を潰して基地が建設されれば、日本産ジュゴンの存続の大きな障害になるのは明らかです。

●細川太郎

ジュゴンネットワーク沖縄 事務局長
名護市在住
200 P11_hosokawa

※掲載している写真やデータは、会報『自然保護』掲載時(2017年)のものです。
 出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.559(2017年9・10月号)

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