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ブナ林を守ってきたクマゲラ・本州で絶滅の恐れが高まる

  • 2024年10月16日
  • NACS-J
本州に生息するクマゲラは1970年以降、ブナ林保全の救世主となってきました。そのクマゲラの撮影記録が7年間途絶えています。NPO法人本州産クマゲラ研究会では、生息情報を求めています。
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▲クマゲラのメス
全長約45cmで赤い頭と黄色い眼、くちばし以外は全身黒く、白い部分はない。メスは頭の一部のみ赤く、オスは頭の上部全体が赤い。
鳴き声が独特で「キャー」または「クゥィーン」と聞こえる。北海道産は人間をあまり恐れないが、本州産は警戒心が強く、鳴き騒ぐ声が遠くまで響く

かつて北海道からの渡り鳥だと思われてきた本州のクマゲラ


 日本で初めて本州のクマゲラの存在が公に取り上げられたのは、1934年4月14日の新聞紙上でのこと。秋田県八幡平の宮川村国有林で4月10日に捕獲されたクマゲラです。

 京都大学理学部に講師として籍を置いていた川口孫治郎氏が、花輪営林署の署員の援助の下で、日本最大のキツツキであるクマゲラを求めて、雪中行軍さながら腰まで雪につかりながら歩き、その鳥を撃ち落としました。

 当時は、津軽海峡を生物の分布の境界線とするブラキストン線が有力視され、この時のクマゲラは「北海道からの渡り鳥」として処理されました。

秋田県森吉山で繁殖を確認


 しかし、それから41年後の1975年9月19日、秋田県自然保護課に勤務していた泉祐一氏により、秋田県森吉山で再びその存在が写真撮影という形で裏付けられました。

 その3年後には繁殖までも確認され、クマゲラが北海道からの渡り鳥ではない留鳥ということまで突き止められました。もちろん、撮影成功に至るには、地元からの有力な情報があったことは疑いありません。

 森吉山岳会会長だった庄司国千代氏は、川口氏のクマゲラ情報に興味・関心を抱き、鳥の門外漢ながらクマゲラを求めて森吉山中をさまよい、1970年に既にクマゲラの存在を確認していました。森吉山を会場に、1975年9月に第2回東北総合体育大会登山競技が開催された折、庄司氏はブナの伐根に巣くうムネアカオオアリを採餌しているクマゲラを確認して、この情報を泉氏に提供しました。

ブナ林の救世主


 このクマゲラの存在により、拡大造林の名の下に「ブナ征伐」が行われていた森吉山は、330haほどクマゲラのために保護・保全され、その後、国指定鳥獣保護区および特定動物生息地保護林として現在に至ります。

 クマゲラの存在は、日本全国のブナ林が伐採され続けていた1970年代以降、ブナ林伐採の歯止め役、換言するならば「ブナ林の救世主」としての東北各地のブナ林保護を推進しました。

 岩手県の葛根田川や生出川周辺の国有林の伐採計画の中止、山形県のスーパー林道建設計画の中止などのほか、青森―秋田間の林道建設で揺れ動いていた世界最大級のブナ林を抱える白神山地でも存分に発揮されました。

 森林生態系保護地域や国の自然環境保全地域の指定、日本初の世界自然遺産登録と、ブナ林の象徴種・クマゲラは、国をも動かす大活躍でした。

2017年が最後の撮影記録


 そんな本州のクマゲラが、青森県白神山地では2008年6月、秋田県森吉山では2014年6月を最後に繁殖活動が行われていません。

 個体撮影記録に関しては、白神は2009年5月20日、森吉山では2017年4月30日が最後であり、目撃記録は白神の2014年10月26日が最終となって現在に至ります。私たち本州産クマゲラ研究会の調査がすべてではないと思いますが、クマゲラに特化した研究団体ですらお目にかかれない「幻の鳥」と化しています。

 2024年は、9月末までに森吉山で姿は確認できていませんが、新しい採餌の痕跡だけは確認することができました。数は非常に少なくても、まだ生息していることは確かです。

日本自然保護協会と共に行政に要望書提出


 2024年1月17日、日本自然保護協会と共に、現在、絶滅危惧Ⅱ類に指定されているクマゲラの絶滅危惧Ⅰ類への格上げや、生息調査の実施、保全計画の策定などを求める「絶滅危急種・本州産クマゲラ個体群の保全に関する要望書」を関係省庁である環境省・林野庁・文化庁あてに提出しました。

 北海道のクマゲラはトドマツを中心とした針葉樹のほかに広葉樹も利用する一方、本州のクマゲラは、ブナに依存して繁殖活動などを行うため、私たちは北海道のクマゲラに対して、「本州産クマゲラ」と呼んでいます。

 種の段階ではどちらもDryocopus martius martiusとヨーロッパに生息する個体群と同様と現段階ではみなされていますが、長い間、津軽海峡を境に遺伝子の交流がないことから、本州の個体群をその亜種とみています。

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▲本州産クマゲラ個体群の保全に関する要望書を提出。
 (左から環境省の堀上勝氏、筆者、日本自然保護協会の大野)

クマゲラの痕跡


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▲クマゲラのオスと巣穴。本州のクマゲラは、営巣木(子育て用の樹)のほかに、ねぐら木(夜、就塒する樹)もブナを利用。巣穴サイズは約18×12cmの縦長の楕円形。他の日本産キツツキの多くはよく枯れ木に巣穴をあけるのに対し、クマゲラはブナの生木に巣穴をあけることが多い
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▲ブナ生木の採餌痕(枯れ木にも作る)
ノミ幅(くちばしの痕)が他のキツツキ3㎜に対し、クマゲラは5㎜以上ある。矢印のしま模様は、クマゲラがサイドから樹皮をはがしたくちばしの痕
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▲クマゲラの糞(黒いのは主食のアリのキチン質。それを白い尿酸が囲む)

本州産クマゲラの生息情報を募集中


 当会ではこの本州産クマゲラの生息情報を求めています。北海道以外の地域で、この10年以内にクマゲラを目撃した方は、ぜひ見た場所と年月日を教えてください。

藤井忠志(NPO法人本州産クマゲラ研究会 理事長)
連絡先:kumagera@ictnet.ne.jp

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