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(Boulder)vol.18 ボールダーの学校給食改革は成功するか

  • 2013年3月1日

子どもたちを取り巻く食環境

「不健康情報」広告の風刺画
「不健康情報」広告の風刺画
Photo by Ann Cooper's Lunch Lesson
 アメリカ食品業界は毎年170〜200億ドルの費用をその宣伝広告費に費やし、その内2,500万ドルの予算が子ども向けのジャンクフードのマーケティングに充てられている。子ども向けのテレビ番組の間を縫うコマーシャルや雑誌の広告欄、町の広告パネルに溢れる圧倒的な「不健康情報」はほとんど洗脳と言ってよい程の影響力を持つ。
 またボールダー郡の資料によると、アメリカの子供たちは4食に1食はファストフードを、4食に1食を車の中で(車での移動中に)、4食に1食を「ブルースクリーン」の前で食べている。ブルースクリーンとはテレビやコンピュータ、スマートフォンなどの画面のことだ。
 経済停滞のためさらに忙しく余裕のなくなる共働きの家庭、廉価で便利な加工・既成食品への依存、食への無関心の蔓延、アメリカの食料システム問題が透けて見える。
 「子供たちに教えるべきことは健全な地球と健全な食べ物と健康な子どもの共生関係です。現代の食料システムや政府が食料を商品として扱うこと、その食料監視方法が問題なのです。この国では食べるものを自分で決めない人たちがほとんどなのです。モンサントやデュポンなど枯れ葉剤や殺虫剤を開発するような10数社の巨大企業が国内の農業を、そしてスーパーの店頭に並ぶ食料品の大半を支配しているのですから」そしてアンはこう続ける。



ボールダーの学校菜園で有機野菜を学ぶ子供たち
ボールダーの学校菜園で有機野菜を学ぶ子供たちPhoto by Ann Cooper's Lunch Lesson
 「子供たちにまず教えるのは地産地消。私たちが日常手にする食料は食卓まで平均1500マイル(2414km)の道のりを経て届きます。運搬にかかる化石燃料が何を排出するのかを子どもに教えます。有機野菜は高価であるためほとんどの学校では手が出ません。しかし、 殺虫剤や除草剤、抗生物質、ホルモン剤が詰まった食べ物は子供たちに悪影響しかもたらさないことを国としてきちんと考えなければいけない。アメリカでは抗生物質の70%は畜産業に使用され、私たちは牛肉やその他の動物性タンパク質を通してその抗生物質を子供たちに与え続けているのです。その結果、抗生物質が効かない大腸菌など、子供たちを救うことすらできないような病気が蔓延しているのです。子供たちにサステイナブルフードの知識を与えることが大切なのです。サステイナブルな方法で栽培された食物を摂取することで地球が守られ、子供たちが健康に育ち、我々が直面している問題を和らげることを目指して」
 CDCが発表した調査によると、2000年に生まれた子供たちの40%から45%が高校卒業の学齢を待たずして糖尿病を患い、また2000年に生まれた子供たちがその不健康な食生活から彼らの親よりも短命となる最初の世代になるだろうと予測している。アメリカの学校給食の予算は年間105億ドルであるのに対し、食生活関連の疾病に使われる医療費は実に2600億ドルにも及ぶという。廉価で不健康な給食をはじめとする圧倒的な食の悪循環が子供たちの健康に取り返しのつかない事態を招いている。


ボールダーの取り組みを全国へ

給食のメニューについて子供たちに説明する職員
給食のメニューについて子供たちに説明する職員photo by dailycamera
 ボールダーの学校給食改革への挑戦は始まったばかりだ。アンの指導のもと、ボールダー郡では子供たちへの食育に全力を注ぐ。バランスよく野菜や穀物を皿によそることの重要性、なぜそれらを食する必要があるのか、基本的な知識を子供たちに説明できるよう、学校給食に携わるすべての職員を再教育することから着手した。ランチ時間には食堂で子供たちにランチの食べ方を職員が丁寧に指導する。学校菜園を設け、アン子供たちが自分たちが育てた無農薬野菜を調理し味わうことができるよう環境を整備し、再利用できる食器を採用することで持続可能性への理解を促す。子供たちが能動的に学べるよう、学区内の学校対抗「アイアンシェフ大会」というイベントも考案され、年に一度開催されている。試行錯誤しながら真剣に調理に取り組む子供たちを見ていると明るい未来が見えてくるから不思議だ。
 郡の予算不足を補うためのファンドレイジングも盛んに行われている。2010年にミッシェル・オバマが開始した糖尿病に苦しむ子供たちを救うキャンペーン「Let’s Move!」も追い風だ。今年夏には米農務省がアンの給食改革を視察に訪れ、ボールダーの学校給食改革はテストケースとして全米から注目されるプログラムとなっている。2012年度は農務省が行う「Healthier US School Challenge」というプログラムでボールダーバリー地域の27の学校が表彰された。子どもたちを心身ともに健康に育てることは何にも勝る富国策だろう。このボールダーでの取り組みが全米に広がり、近い将来アメリカの食文化が健康と持続性を取り戻すことを期待したい。


■ 筆者紹介
グッドマン知子
グッドマン知子
Colorado House International, LLC代表。神奈川県生まれ。2005年、国際結婚を機にアメリカ合衆国コロラド州ボールダーへ移住。環境やサステイナブル、教育をテーマにした企業視察、メディア取材、学校研修、イベント等をコーディネートする傍ら、グリーンやロハスに関する執筆、翻訳活動を通して日本への情報発信にも注力。
一児の母の視点からロハスな育児についても興味を深めている。
http://www.coho-online.com/
info@coho-online.com(お問い合わせは日本語でどうぞ)


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