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(Boulder)vol.14 成功した町“ボールダー”のDNAとは

  • 2010年11月1日

ボールダーの「顔」パール・ストリート

パール・ストリート・モール
パール・ストリート・モール
 パール・ストリートはボールダーの歴史と未来が混在する場所だ。そう、人の顔がそうであるように。パール・ストリートにある歩行者天国、パール・ストリート・モールは「地元の人間が集い、観光客も訪れる特別な空間。町の待ち合わせ場所だ。しかし当然そこには商業が必要になってくる」とリチャードは説明し「商品やサービス、アイデアの交換を促進するために町は存在する」と続ける。彼がこのモールを設計したとき、環境に配慮することはもちろん、社会と経済の持続可能性にも敬意を払うデザインでなくてはならないと考えた。「私たちは循環と車の往来という点を認めざるを得なかった。駐車場を設置しなければ人々はやって来てはくれないだろうから。町のどこからでもこのモールを望めアクセスしやすい駐車場の配置、視界の良さを用意しなければならなかった」
 モールの必要性が高まるにつれその地価は高騰し、多くの人気店が家賃を支払えずに閉店に追い込まれた。2003年、リチャードとそのチームは打開策として同ストリート沿いにテナントが低家賃の物件を探せるよう、他から隔離されていたモールの東西の囲いを取り払った。これによりモールの両端から東西へ伸びるパール・ストリートはボールダーで最も栄えた通りになった 。「これこそ有機体ならではの成長だ」とリチャードは言う。


ボールダーの「循環器」ファーマーズ・マーケット

ボールダー・ファーマーズ・マーケット
ボールダー・ファーマーズ・マーケット
 ダウンタウンを流れるクリーク沿いでは夏のあいだ週に2回ボールダー・ファーマーズ・マーケットが開かれる。地元農家の苦労話に耳を方向け、近況報告をし合いながら買い物をする地元客で賑わう。地元レストランの屋台も軒を並べ、堆肥利用可能な紙皿とフォークで供されるランチをクリーク沿いの芝生で楽しむ人々の様子がなんとも平和だ。「ファーマーズ・マーケットを人間の身体の一部に例えるなら、それは臓器ではなく栄養を行き渡らせるための循環器だ」とリチャードは表現する。全ての組織を繋ぐシステムであり、この町が信じる価値を集約した場所。地産地消を尊ぶことで地元産業をサポートし、地球全体への負荷軽減に想いを馳せる。マーケットに互いのアイデアを持ち寄ることで新たな価値を創造し、コミュニティの目指す方向性を一人一人が確認し団結する。町を巡る血液を自ら浄化し好循環を持続させるのがこのファーマーズ・マーケットの役割だ。

 ここまでリチャードと話してきてにわかに私は気分が高揚してきた。何かに辿り着けそうだ。有機体として息づく私たちの町はボディ・マインド・スピリットを有し、顔や循環器まで兼ね備えている。では、 これらの部位から「成功した町のDNA」なるものを特定することはできないだろうか。


成功した町のDNA

 リサイクルはするか?ボランティアはするか? 全てはコミュニティのような小さなレベルから始まる行動だ。世間に強要されて個人がしぶしぶ起こす行動ではない。「変化は社会レベルから始まるわけではなくいつも個人や地方レベルから自発的に始まる。これがボールダーのDNAのキーポイントだ」とリチャードは言う。マウント・サニタス、コロラド大学、シャタクア公園、パール・ストリート、ファーマーズ・マーケット、すべての背景には最初のアクションを起こした一個人がいる。そうリチャードのように偉大なビジョンを持った一個人がボールダーの町のDNAなのだ。何が彼らをこの町に引き寄せるのだろう。

共通の目的

幌馬車隊の円陣
幌馬車隊の円陣 by Eyes on Auburn
休日にコンサートを楽しむ市民
休日にコンサートを楽しむ市民
 リチャードはニューヨーク・シティで生まれロサンゼルスで育った。彼が最初にボールダーを訪れたときニューヨークやロサンゼルスとは一線を画すものを感じたそうだ。それはコミュニティとしての一体感だった。「ボールダーは人々が匿名性を隠れ蓑にしていない町だと感じた。大都市は人口も多いし小さなスペースに多くの者が詰め込まれている。人々は一部の隣人たちと職場の同僚くらいにしか感心を寄せないし、ついにはドローン(自分の頭で考えることをしないロボットのような人間)になってしまう」とリチャードは嘆き「ボールダーは大都市とは比べ物にならないくらい多くのことを可能にしてくれる。一人ひとりが顔の見える存在だし、高い責任感を持っている。何より自分の実績といま挑戦していることを正当に評価してもらえる。自分のコミュニティへの関わりをより実感できる町だ」と続ける。「まるで西部開拓時代の幌馬車の円陣(注2)のように。小さなコミュニティだからこそ、個々が共通のゴール、目的に向かって団結すればコミュニティに直接的な結果をもたらすことができるし変化にも迅速且つ柔軟に適応できる」。これこそがボールダーのDNAが成功した秘訣だろう。

 イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンはかつてこう言った。「生き残る種というのは、最も強いものでもなければ、最も知的なものでもない。最も変化に適応できる種が生き残るのだ」と。 ボールダーとそのユニークな歴史は自分たちが世界を変えられるという確信に満ちた独特のアトモスフィアを造り出して来た。私たちはここに変化に迅速に適応できる一つの有機体の構造図を書き留め、有機体の各部位がこぼれ落ちて行かずに生き残る仕組みについて考える機会を得た。私たちの次なる挑戦はボールダーの町のDNAを模写または移植可能にし、新たな繁栄と持続可能性を模索する他の地域にいかに応用してもらえるかを考えることであろう。それが東京のような太刀打ち不可能だと思われるような規模の大都市であっても、私は大いなる可能性を信じて止まない。

注1)サニタリウム:一般的に抗生物質投与前の結核患者のための長期療養施設のことを指す。またヘルス・リゾートの意味合いでも使用されることがある。
注2)幌馬車の円陣(circle of wagons): 白人がインディアンの攻撃に対して幌馬車隊を円形に並べて自衛したことから、 1つのグループが結束することを意味する。


■ 筆者紹介
サミュエル D グッドマン
サミュエル D グッドマン
Colorado House International, LLC 代表。コロラド州生まれ。コロラド大学ボールダー校心理学部を卒業後、約5年間に渡りシンガポールと日本で英語教育に携わる。アメリカに帰国後2008年にコロラド州ボールダーで「コロラドハウス」を立ち上げ、グリーンな商品やサービス、情報に注目したツーリズム、トレード、オンラインセミナーを得意分野として活動している。
http://www.coho-online.com/
info@coho-online.com (お問い合わせは日本語でどうぞ)


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