「スマート・シティ」に選ばれたボールダーの街 スマート・グリッド・シティはアメリカで初めて、町中にスマート・グリッド・テクノロジーを集約したコミュニティとなるだろう。スマート・グリッド・シティを先導する電力会社エクセル・エナジー社が、アメリカ中から候補として上がっていた他の8つの地域を差し置いてテスト区域として選んだのはコロラド州ボールダーの地。人口10万人弱という理想的なサイズ、新テクノロジーを受入れられるだけの教養を備えた地域住民の質(地域人口の70%が大卒以上の学歴を有している)、コロラド大学や国立再生可能エネルギー研究所を始めとする連邦政府研究施設の数々を有するアカデミックな土壌、この全てがボールダーを選ばしめた理由である。
現在14,000個のスマート・メーターとそれらをつなぐ100マイル(160km)の光ファイバーが取り付けを完了した。「これは非常に進んだ考え方のプロジェクトだ。私たちのビジネス形態さえも変質させかねない」とエクセル・エナジー社ディック・ケリー社長は語っている。
ボールダーのダウンタウン ◆ボールダーにおけるスマート・グリッド計画
フェーズI: 2008年3月〜8月
フェーズII: 2008年9月〜2009年12月
スマート・グリッド宣伝カーの内部
スマートハウスの模型 エクセル・エナジー社はボールダーで最新のテクノロジーをただ試行運転しているだけではなく、最新テクノロジーへの利用者の反応を確かめることにも注意を払っている。真夏の暑い日、果たして利用者は「電力を無駄遣いしているから」という理由で電力会社が自分の家への送電をストップすることを本当に許容できるのだろうか?そもそもこんなに高度なシステムを全ての利用者が使いこなせるようになるのだろうか?「猛暑に襲われ気温が35℃になった途端に‘ねえ、もうスマート・グリッドなんてどうでもいいわよ’と言い出したりはしないだろうか」とエクセル・エナジー社カスタマー・サービス課のケン・フロイド副代表が指摘するように、利用者側の意識変革が追いつくのかが懸念事項である。
私が数週間前に参加したエクセル・エナジー社主催のセミナーでも計画にかかる費用とそれから得られる効果について参加者から同じような質問がたくさん出ていた。スポークスマンが回答に窮するという場面にも度々遭遇した。「当社はこの計画に多大な投資を行った。当初、オバマ大統領が誕生し、景気対策法案が可決され、そしてこの分野への国の援助が大幅に増えると知っていたなら、もう少しスタート時期を遅らせても良かったかもしれない」と弱気なスポークスマンの発言が印象的だった。
しかし私はこう思う。厳しい質問が利用者から出るということは、それだけ人々が注目し期待を寄せているプロジェクトなのだと。スマート・グリッドは「採算が合うプロジェクト」というゴールだけを目指してはいけないだろう。エクセル・エナジー社はかつてのエジソンのように、ライフスタイルを向上させる公益をもたらす計画に取り組んでいるのだから。
トーマス・エジソンが世界で初めて電球を発明してから一世紀以上。デジタルコミュニケーション機能を備えた配電網は私たち自身が「どのように」「どこから」エネルギーを取得するかを選ぶ権利を与えてくれるだろう。そしてもっとも重要なのは、私たち一人一人がエネルギーの個人消費と地球上のカーボンフットプリントに責任を持つことをスマート・グリッドは可能にしたということだろう。
(更新日:2009.7.16)