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第32回 精神科医/水島広子さん
心の掃除…不安を手放し自ら「癒やし」を

  • 2015年8月13日

考え方を変えることで自ら「癒やし」を

「アティテューディナル・ヒーリング(AH)」とは、どういうものですか?

ジェラルド・ジャンポルスキー博士&妻のダイアンと
ジェラルド・ジャンポルスキー博士&妻のダイアンと
 Attitudinal Healing (AH)は、日本語で「生き方を変えるヒーリング」などと訳されているようですが、いずれもピンとこないので、原語のままAttitudinal Healing(日本語読みすると、アティテューディナル・ヒーリング)、あるいは略語としてAHという表記にしています。
 一言でいえば、ものごとに対する姿勢(Attitude)を変えることによって心の安らぎを得る、というやり方です。恐怖や不安、罪悪感という感情にとらわれて「敵」のいる人生を過ごしていくのか、それとも、こういった感情を手放して他者とのつながりを感じながら生きるのか、という選択は、個人の力で自由にできるという信念がその根底にあります。
 AHは、精神科医であるジェラルド・ジャンポルスキー博士と4名のボランティアによって、その活動がスタートしました。致命的な病を持つ子どもたちのサポートグループが、その始まりでした。

 なぜアティテューディナル・ヒーリング(AH)に興味を持ったのか、というと、政治活動の中で、私のテーマは往々にして「不安」でした。
 不安は、社会の中でいろいろなマイナスを作り出しています。たとえば、社会の仕組みに変化を起こすことができないのは、不安によるところが大きいものです。人間は、何らかの変化を乗り越えようとするとき、新しい環境に関して強い不安を感じる傾向があります。この不安が、変化をしようとする人の足を引っ張ることになります。
 また、不安は、人に「与える」ことにもブレーキをかけます。「自分も苦しいのに、人のことどころではない」と思っている人は多いものです。実際には、客観的に見てもっと「苦しそう」な人の方が他人に惜しみなく与えていることもあり、主観的な「苦しさ」が問題だということがわかります。
 「老後の心配」という不安も、特に日本では大きな社会的テーマです。老後が心配だから、と、亀が手足を引っ込めてしまうように、何もできなくなってしまうのです。

「奇跡のコース」を世に出したジュディス・スカッチ・ウィトソン夫妻と
「奇跡のコース」を世に出したジュディス・スカッチ・ウィトソン夫妻と
AHの国際会議で、ジェラルド・ジャンポルスキー博士と
AHの国際会議で、ジェラルド・ジャンポルスキー博士と
 不安と双子のような関係にあるのが「罪悪感」です。罪悪感も、社会のいろいろな面を支配しています。特に、働く母親などは典型的な被害者でしょう。子育てによって職場に迷惑をかけているという罪悪感、仕事のために良い母親でいられないという罪悪感、子どもの世話を頼んでいろいろな人を巻き込んでしまう罪悪感・・・と、一日中罪悪感を抱いているような人も少なくありません。罪悪感が何を生むか、というと、プラスのことは生まれません。罪悪感は仕事の生産性を落とし、対人関係をゆがめ、子どもと一緒にいても「心ここにあらず」になってしまいます。アティテューディナル・ヒーリングでも、「今このときを生きる」ということを大切にしていますが、特に子育てにおいては、「今」が一番大切です。子どもの将来のために、と、子どもには目もくれずに仕事に明け暮れたり子どもに過度な要求をしたり、というふうにしてしまうと、結局は「今」の子どもをネグレクト(育児放棄)してしまう、という皮肉な結果になってしまいます。

 罪悪感というのは、他人との関係の中で生まれることが多く、本人の自覚と十分なコミュニケーションによってかなりの程度克服できる、と私は思ってきましたが、不安についてはそんなに簡単なものでもありません。「だって老後がこれだけ心配なのだから、不安になって当たり前でしょう?」と言われてしまうと、それもそうだと思ってしまいます。このような不安を自然なこととして認めた上で、不安に飲み込まれてしまわないよう、できるだけの客観視につとめる、というのが、現実的な精神医学のアプローチです。

 でも、もう少し確固たる価値観を作り出すことはできないのだろうか、ということを私はずっと考えてきました。たとえば、老後を不安に思うことで人生の質が上がるのか、と言えば、決してそんなことはありません。むしろ、将来にばかり目が向いてしまって現在がおろそかになってしまう、というのは、子育ての場合と同じです。将来の保障もない上に、今このときまで不愉快な気持ちで過ごさなければならないという必要性はないのではないでしょうか。

 この疑問に答えを出してくれるのがアティテューディナル・ヒーリング(AH)です。不安や罪悪感を手放すことの重要性を教えてくれるものです。誤解しないでいただきたいのは、不安を手放すと言っても、決して、投げやりに刹那的な生き方をしようと言っているのでもないし、現実から逃避するような価値観にしがみつこうとしているものでもないということです。

 

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