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第30回 極地建築家/村上祐資さん
宇宙より遠い南極…極地の暮らし方

  • 2014年7月11日

極地の暮らし方

極地で生活してみて…どうでしたか?

基地の除雪作業
基地の除雪作業
ヘリで昭和基地を離れる村上さんたち
ヘリで昭和基地を離れる村上さんたち
 第50次日本南極地域観測隊の一員として、昭和基地で13ヶ月間の越冬生活を送りました。第2の生態系とも呼ばれる人工閉鎖空間バイオスフィア2では、男女8人の科学者がその中で2年間の完全隔離された生活を送りました。僕を含めて28人が暮した昭和基地も、年に一度の補給以外は外界と隔離された世界です。外はマイナス30度、時には平均風速50m/sにも達するブリザードがやってくる。越冬隊の中で僕は年齢的には下から二番目。しかし年齢や過去の経歴を言い訳にすることはできない。28人それぞれが与えられた役割を全うしてはじめて、観測隊が、そして越冬生活が成り立つ。除雪が必要であれば、機械隊員の他にシェフだって重機を操る。基地の土台となるコンクリートは医者が練る。救急蘇生法は全員が身につけ、本格的なレスキュー訓練や消火訓練を定期的に行う。とにかく常に走り続けているような越冬生活。実際、南極地域観測隊として参加してみて、南極に育ててもらったという実感があります。

 2010年2月13日に昭和基地をヘリで離れた時、上空から見た手を振り続ける一団は、広い大地に比べてあまりにちっぽけで、「僕らは13ヶ月の間、こういうスケールの中で生きてきたんだ」と、そう思うと急に涙が溢れてきて、走馬灯のように次から次へと出来事が蘇って、やっぱり長かったんだと思いました。

 

2010 年エベレストベースキャンプで

2010 年エベレストベースキャンプで
2010 年エベレストベースキャンプで
火星探査のシミュレーションの様子(Photo:HI-SEAS)
火星探査のシミュレーションの様子(Photo:HI-SEAS)
 ところで、地球には「地球の三極」とよばれる所があるのをご存知ですか?その三極とは、南極、北極、エベレストの3つです。南極での越冬生活を終えた半年後、もう1つの極地であるエベレストを知るために、ネパールに向かいました。
 僕は南極点到達やエベレスト登頂を果たしたわけではありませんが、それでも南極・昭和基地で越冬し、エベレストBCで登山隊をサポートし、極地生活の二極を経験してきました。もしも三極すべてを経験した者にしか知り得ない領域があるのなら、そこに足を踏み入れてみたい。だから残るもう一極、北極はぜひ経験してみたい場所ですね。

 実はもう目をつけている場所があるんです。その場所は、北極圏カナダ領のクイーンエリザベス諸島のひとつ「デヴォン島」。世界最大の無人島としても知られるこの島は、宇宙業界の人たちからは「地球の火星」としても知られています。夏に露出する、赤茶けて乾燥した剥き出しの大地。島に存在する巨大なクレーター。無人探査機から送られてくる写真の中の火星にそっくりな、そのデヴォン島の条件にNASAなどが注目し、2015年の夏には「Mars Arctic 365」ミッションという一年間の疑似火星居住実験がこのデヴォン島で行われる予定です。

 実際に男女6人のクルーがデヴォン島にある基地に住んで、有人火星探査ミッションのシミュレーションを行います。まあ簡単にいうと本気の「火星ごっこ」ですね。僕もクルー選考のセミファイナリスト62人のうちの1人に残っています。
 北極の他にもハワイ島のマウナロア火山でも、2014年から2016年にかけて4ヶ月、8ヶ月、12ヶ月の3つの期間の異なる「火星ごっこ」が計画されています。HI-SEAS(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation)という計画ですが、こちらも8ヶ月と12ヶ月のミッションで僕はクルー選考の最終候補者に残っています。
 「地球の三極」か、マウナロア火山か。どちらかのクルーの一人には残って、もっともっと宇宙に近づきたい。厳しい環境のなかで、美しい暮らしかたを身に付けたいんです。そしていずれはもう一度、南極に恩返しをしに戻りたいという思いも強くありますね。

 

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