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第30回 極地建築家/村上祐資さん
宇宙より遠い南極…極地の暮らし方

  • 2014年7月11日

標高3776メートル、日本でいちばん高い住まい

富士山頂での生活も試されているようですが…

富士山測候所
富士山測候所
山頂での観測作業
山頂での観測作業
 2010年8月に富士山特別地域気象観測所、昔でいう富士山測候所に3週間住んでみました。そこは気象庁が2004年秋に有人観測を終えたあと、夏の2ヶ月間だけを「NPO法人・富士山測候所を活用する会」が借り受けている建物です。日本でいちばん高いこの場所で、大気科学や高所医療、生態学・永久凍土、放射線科学など様々な研究者が、ここでしか採れない貴重なデータを観測しています。加えて、高所順応トレーニングや青少年へに向けての自然体験・教育、無線通信の実験など、標高3776メートルの活用分野は多岐にわたります。
 僕はというと、研究者の一員として、この建物の暮らしがどのようなものか、住まいとしての性能はどんなものなのかを調べるために。2004年以前は、気象庁の職員は3週間交代でここに勤務していた。だったら僕も3週間ここに住んでみようと。そして実際に住んでみて感じたのは、ここなら宇宙のシミュレーションができそうだなと。

 先ほどもお話したように、海外では極地の特殊な環境を利用して、積極的に宇宙技術や宇宙居住の検証が行われています。でも日本にはあまりそういう土壌や場所がないんですよね。研究室のなかで突き詰めていくことも勿論大事ですが、やはりリアルに本物のミッションに近い環境のなかで多くの失敗を重ねてみないと。極地で必要になる技術というのは、最先端がいいとは限りません。革新性よりもむしろ、信頼性の方が重視されるケースの方が多いんです。昭和基地で使われている観測機器なんかもそうですよ。30〜40年前の機械が未だに現役で動いています。ですから富士山測候所なんかは、宇宙飛行士の訓練や技術のトライアルに、大いに活用すべきだと考えています。

 

富士山頂からの夕暮れ
富士山頂からの夕暮れ
 僕が立ち上げた《ASTRO FARMER》プロジェクトは、宇宙のFeed.Clothe.House.(衣食住)を豊かにすることを目的としています。僕らが宇宙に出て行こうとすれば、どうしたって新しい技術が必要です。ですがいくら革新的な技術であっても、僕らがそれをうまく使いこなすことができなければ、宇宙の日常は豊かになりません。新しい技術と、そして新しい場所に行く人間と--。その適切な関係を、富士山測候所やHI-SEASのような「極地のなかで培う=唯耕心田」ことが《ASTRO FARMER》のプロジェクトの柱です。LOHASという思想に通ずる点もあるのではないでしょうか。

 月に基地を作りたいという僕の夢は、僕一人だけでは絶対にできません。僕は先祖になるだけでいいんです。最初の一歩を踏み出せば、あとは昭和基地のように次の世代の人たちがそれを引き継いでくれる。基地は原形を留めていなくたっていいです。百年先も、千年先も続くという思想で基地を作れることができれば幸せですね。

 

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