このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
「森林を壊さない木材利用=フェアウッド」の調達100%、国産材使用50%以上を実現している株式会社ワイス・ワイスと、フェアウッドの利用促進活動を展開しているフェアウッド・パートナーズ(当財団と国際環境NGO FoE Japanが運営)主催の「WISE FORUM 2015」が2015年10月23日、東京・国連大学で開催されました。
国産材を使った多面的な事業の現状と可能性について、基調講演と事例報告の概要を特集しました。
私は「企業の社会的責任(CSR)」、「社会的責任投資(ESG投資)」、そして最近では、「エシカル消費」、この三つをテーマに研究しており、環境問題に長く関わってきた中で、森の問題は重要な問題だという認識を持っています。
なぜこの講演で「自然資本」というテーマを出したか。企業や金融関係の人は「環境は大事だが、金にならない」と環境の価値を認める人が少ないと感じます。しかし、これからは経済の仕組みの中に自然を価値として見る軸を作っていかなければなりません。
地球の生み出す生物性資源を人間が使った割合は、1960年代の約70%から70年代末〜80年代に100%を超え、今では約1.5倍です。さらに過剰採取や土地改変などにより、生物多様性も急速に失われています。
また、世界的に貧富の差が大きく拡大しています。これまで「経済が成長してパイが拡大すれば、シェアが多い人も少ない人も取り分は増える」として、経済成長は正当化されてきましたが、実際はフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』にあるように、経済成長は結果として貧富の格差をもたらすのです。
また、今や地球環境は経済への最大のリスク要因です。経済産業界の中には、気候変動を経済の外、いわゆる「外部不経済」であると思っている人がいます。しかし、世界の天災による経済的損失の推移は、1983年以来うなぎ上りに増えています。
米国で2014年にまとめられた報告書『リスキー・ビジネス』では、たとえば2100年に中西部の農産物の収量が50〜70%減少する可能性があるなど、気候変動問題は経済を大きく損ねるリスクであるとしています。産業界と金融業界は気候変動を自分たちのリスクとして、対策を直ちにビジネスに取り込むよう警告しています。気候変動は、もはや外部不経済ではないのです。
今年11月末〜12月、パリで気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されます。1997年の京都議定書で合意された2008〜12年の二酸化炭素(CO2)削減目標である「先進国は1990年比5%削減」は一応達成されたものの、結果としてCO2の濃度は下がらず、状況は悪化しています。
そこでCOP21では、産業革命前に比べて気温上昇2℃未満を目標としています。森林はCO2を吸収(シンク)することから、森を増やせば、CO2削減に寄与するという重要な役割を果たしており、気候変動と関連した森林への注目度はますます上がると思われます。
欧州では自然の価値を内部化する試みとして自然資本という概念に注目しています。
近代経済学の定義では「資本」は「土地」と「労働」を含めた三大生産要素の一つですが、その中に、地球環境や自然、生態系などは含まれていません。この自然の価値を認めない経済原理によってわれわれは自然を破壊してきました。そこで経済の仕組みの中に、自然の価値を反映させるような仕組みを作るためのツールとして、自然資本という概念が重要なのです。
生命学者の福岡伸一氏は、自然を生態系・命の塊と捉え、「生命は自己増殖を行うシステム」と定義しています。一方、資本とは利子や配当など資本と同様の金銭を生み出す源泉で、生命活動と似ているのです。実は近代経済学が定義する資本というのは、自然を手本に生まれた概念なのです。
経済では「財」という「価値のあるもの」を交換します。市場で取引される通常の財は「一般財」で、排除可能性と競合性という二つの性格があります。排除可能性は、その財を利用する人が特定でき、その他の人を排除できます。競合性は誰かが使用したら、他の人の使用量は減るということです。
この二つの条件を満たさないものは公共財・準公共財といわれます。紫外線を防止するオゾン層の機能や、森林の温度調節機能や保水機能、CO2吸収機能などは、地球上の人間全員が無料で受けられるので、市場で取引されず価格が付きません。
では、なぜ公共的価値が高い森林伐採が進んでいるのでしょう。林業家が自分の暮らしを立てるためには、木材の価値で森林の価値を計るしかありません。森林の価値というのは他にも水路の保全機能、水を保全する機能、気温を安定させる機能、癒やし効果などありますが、すべて準公共財・公共財に属する機能なので、誰もそれにはお金を払いません。そのため、森林の価値の一部でしかない木材の価値で経済的な判断をせざるを得ないのです。ですから、森林保全のためには、自然資本の概念を導入し、森林の公共財的価値を可視化しそれを経済判断の根拠にしていくことが求められるのです。
収益を上げることを普通のビジネスが主目的とするのに対し、ソーシャルビジネスは社会的な課題の解決を目的としています。
国産材ビジネスの活性化のためには、ビジネスの手法を使いながら、社会的な課題解決という目的も持つ新しいビジネスモデルが求められます。その仕組みを作るためには、森林を伐採することに値段を付ける、森を守る代わりに活用できる権利などの価値を付けるなどの取り組みが考えられます。国産材は「森林」という日本の貴重な自然資本拡大のための有効なツールといえるでしょう。
英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)の違法伐採についてのレポートによると、日本は2008年時点で違法伐採木材製品の1人当たりの輸入量は先進5ヵ国の中で最大と推計されています。日本は森林被覆率が67%あるのに、木材の自給率はわずか28%という矛盾。海外の人はこの日本の状況ををどう見ているのでしょうか?
炭素吸収源、気温安定化機能など価値の高い森林を保全しようという国際的な動きの中で、森林の多い日本が国産材の利用を促進することは、外交や国土の保全という観点からも日本の国益上絶対に必要なことでもあります。また地域経済の活性化としての役割も重要です。
林業関係者には、従来の林業に加えてフェアウッドを広める新たなソーシャルビジネスを生み出し、森林の社会的な価値を広く社会に提示することが求められます。
一方で森の価値を理解し、適正価格で良いフェアウッドの製品を喜んで買う消費者を増やす努力も必要です。
それは国策上重要なだけでなく地球規模の環境破壊を食い止める重要な方策でもあり、皆さんの努力に期待しています。