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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第146回 ロンドンを上回る2020東京オリンピック・パラリンピックの理念とは

  • 2016年4月21日

第146回 ロンドンを上回る2020東京オリンピック・パラリンピックの理念とは

 (一財)保健福祉広報協会、当財団に事務局を置く「社会福祉施設等の環境の取り組みに関する研究会」主催の、ユニバーサルでエコなまちづくりに関するセミナーが2015年10月、東京ビッグサイトで開催されました。ユニバーサルな社会を目指し、環境と福祉の取り組みを進めている報告事例の概要を特集しました。


 日本は2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎えますが、その理念ははっきりしないとたびたび批判されています。私は環境と福祉の両面で、特色のあるオリンピックにしなければいけないと思っています。そして、未来に向けた環境・福祉の在り方を世界に発信する大会でなければならないと考えます。

多様性を求めたロンドンオリンピック

 2012年に英国・ロンドンで開かれた大会の理念は非常に明確でした。ロンドンオリンピックは環境を重視したオリンピックとして知られていますが、実は環境だけではありませんでした。障がい者やいろいろな民族の人、高齢者、若者など、すべての人の参加による「多様性のあるオリンピック」として成功したのです。 私はずっと日本の障がい者やホームレスの人たちが地域の中で生きがいを持って暮らしていけることを目指して活動してきました。

 日本の貧困者に対する支援というのは生活保護が代表的ですが、結局お金を支給するだけで、いずれ限界にぶつかります。支給を受けた人が本当に生きがいを持ってその後の人生を歩いていくかというと、大半は違うと思います。

 私自身その限界にぶつかったとき、ロンドンのCAN(コミュニティ・アクション・ネットワーク)という団体の存在を知り、2000年に代表者であるアンドリュー・モーソン牧師を日本に呼びました。モーソン牧師は英国の大きなスラム街であるブロムレイ・バイ・ボウ(Bromley-By-Bow)という地域の再建に成功しました。その手法はお金を支給するのではなく、地域の中に仕事を作り、失業者に働いてもらうというものです。彼らは仕事をしながら生きがいを感じて生活をする、そして働くことによって互いに知り合い、地域の結びつきも生まれる。CANの活動により、失業率も大きく減少しました。

 2012年のオリンピック開催候補地は当初パリが本命でした。しかし、このアフリカなどからの多くの移民が住む貧困地域であるブロムレイ・バイ・ボウを中心にした多様性のあるオリンピックの実現を訴えた結果、ロンドンへの招致が決まり、大会も大成功に終わったのです。

レガシーを受け継ぎ、まちづくりに生かす

 オリンピックの2年後に私はロンドンを訪れました。ロンドンではオリンピックを一つのレガシー(遺産)として、地域が非常に活性化していました。

 競技会場近くにあるバイクワークスという障がい者や刑務所からの出所者が働く施設を訪問しました。バイクワークスでは、放置自転車や住民から譲ってもらった自転車を修理し、販売します。世界最高峰の自転車ロードレースであるツール・ド・フランスでイギリス人の選手が優勝したことや、健康ブームにより、障がい者などによってリサイクルされた安価なバイクワークスの自転車は飛ぶように売れていました。

 このように、イギリスではオリンピックが終わっても環境と福祉両方の向上を目指すというレガシーがしっかりと受け継がれているのです。

環境・福祉の取り組みをまちづくりに生かす

 環境・福祉の取り組みは国内外の多くの都市で生かされています。ブラジルのクリチバ市では、大阪府立大学大学院を修了した、ブラジル移民であるクリチバ市環境局長(当時)の中村ひとしさんが、「緑の交換事業」を始めました。この事業では、スラム街でごみの回収・分別を呼び掛け、回収したごみの重さの5分の1相当の野菜と交換します。貧しい移民の多いこの地域の人たちは進んで活動に参加し、スラム街はきれいになり、住民たちの生活水準も上がり、環境・福祉いずれも良くなりました。この取り組みに対し、国連環境計画賞も送られました。

 また、アメリカのオレゴン州ポートランド市は、不況対策として高速道路を廃止し、電車を走らせました。また、緑地も増やし、今ではアメリカで最も住みやすい街と言われています。 一方、日本では2002年から富山市でコンパクトシティ構想が着実に進められています。地方に分散していた都市機能をできるだけ集中化し、市中心部への転居に対する補助金を支給したり、低層の電車を走らせたりするなど、福祉と環境のまちづくりを目指した国内の成功事例といえます。

 日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、ロンドンを上回る環境・福祉の理念を目指すべきだと私は考えます。そして大会終了後も、環境・福祉の取り組みをまちづくりに生かしていければよいと思います。

グローバルネット:2015年11月号より

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