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産後、すぐ復帰しないと“過去の人” という扱いに…MeToo以後もつづく 母になったハリウッド女優の「苦悩」

  • 2024年5月12日
  • CREA WEB

「私の年の女優に良い役は全然ないの」。そう断言して話題を呼んだのは、ハリウッドスターのキルスティン・ダンスト(42)。

 子役から『スパイダーマン』や『マリー・アントワネット』でスターとなった彼女は、30代終盤にアカデミー助演女優賞候補となって以来、2年も俳優業を休んで子育てに専念していた。その理由は、40代となった彼女に似たような悲劇の母親役のオファーしか来なかったからだという。

 MeToo運動により女性の権利についての意識改革が進んだとされるハリウッドだが、中年女優や働く母親のキャリア問題はいまだ根深い。


アンジェリーナ・ジョリー ©AFLO

「映画の男性キャラクターには生涯が与えられるが、女性は賞味期限を課される」。こんな定番文句があるように、ハリウッドの役柄には男女間で年齢格差がある。

 有名な話では、マギー・ジレンホール(46)は37歳のとき、55歳の男優の相手役として「年をとりすぎている」とされたという。『マトリックス』のキャリー=アン・モス(56)の場合、40歳の誕生日を迎えた翌日、オファーされる役が子なし女性から祖母に切り替わるという、「典型的にハリウッド的な」経験をしたと明かしている。

 個々の俳優によって状況が異なることが前提となるが、こういったジェンダーギャップはある程度検証されている。少し古い調査になるが、2012年に発表されたクレムソン大学の経済学者らの分析によると、ハリウッドの歴代人気映画の主演は、20代だと5分の4を女優が占めた。しかし40代から男女比が逆転して8対2となり、以降の年代ではずっと男性優位がつづく。

 これは想像しやすい現象だろう。1980年代から活躍するトム・クルーズ(61)やトム・ハンクス(67)は中年になってもさまざまな映画で主人公を演じているが、1990年代にセンセーションを起こしたジュリア・ロバーツ(56)やニコール・キッドマン(56)、アンジェリーナ・ジョリー(48)は、だんだん大画面の話題作で見ることが少なくなっていった。

 もちろん、俳優のキャリアは人それぞれであるし、子育てに専念するために休業を選ぶ女優も珍しくない。ただ、キルスティンの言う通り、40代の女優には、役そのものが少ない。2023年の人気映画を対象にした最新調査によると、映画に登場する女性キャラクターは20代と30代、男性キャラは30代と40代が多い。女性キャラの割合は、30代で30%だが、40代となると13%にまで急落する。男性キャラの場合、50代に達するまで下り坂にならない。

「映画業界では常識」かつてメリル・ストリープが語ったこと

 これには、劇場映画業界が男性観客を重視する傾向が関係しているという。とくに2010年代以降で大きいのは、映画館のドル箱が『アベンジャーズ』などのアクション大作ばかりになったことだろう。同ジャンルは男性客に人気で、男性主演が好まれる。

 ハリウッド最高の名優とされるメリル・ストリープ(74)は、このように語ったことがある。

「映画業界では常識ですが、もっとも難しいことは、異性愛者の男性の観客を女性主人公に共感させて自分と重ね合わせてもらうことです。これこそが、女性主演映画が少ないことの根本原因なのです。サリンジャーからシェイクスピアに至るまで、女性客は男性キャラクターに共振しながら育ってきたので、女性客のほうが異性キャラクターに共感することに慣れています」。

 熟年になっても役柄に恵まれてきたメリルの場合、好条件とされる家庭事情もあった。彼女が45年間結婚している美術家の夫は、子育てに非常に協力的だったのだ。一方、ツアーで忙しいバンドマンの夫とのあいだに3人の子を持つキャリー・マリガン(38)の場合、撮影現場に託児所がないことにひどく苦労したと明かしている。

 ハリウッドのトップ女優でも、母親として働くのは大変だ。『アバター』のゾーイ・サルダナ(45)によると、長らく企業幹部も現場も男性ばかりの業界であるため、男性スターに対するペントハウスやヨットなどの贅沢な補助は充実していても、女性キャストのためのベビーシッターなどの育児支援は通りにくい。

 多くの女性たちと同じく、ワークライフバランスも悩みの種だ。新星俳優シドニー・スウィーニー(26)は早く子を持ちたいというが、若くして母親になることで、偏見によりキャリアが下降するおそれを抱いている。実際に、26歳で出産したミーガン・フォックスは、産後すぐに仕事に復帰しないと「普通の母親」になった過去の人扱いされる文化が根づよいと証言している。

 他方、女性キャラクターの幅が広い領域が、女性客がメインとされるテレビドラマ業界だ。29歳でアカデミー主演女優賞を獲得したリース・ウィザースプーン(48)は、今やテレビ界の大物。プロデューサー兼主演として、メリルやニコールと共演した『ビッグ・リトル・ライズ』といった大人の女性たち主演の番組をヒットさせている。

 Netflixで7シーズンつづく人気を誇った『グレイス&フランキー』は、放送開始当時70代後半だったジェーン・フォンダ(86)とリリー・トムリン(84)がダブル主演をつとめたシニアドラマだ。

中年女性スターの、意外な活躍の場

 近ごろ女性スターのあらたな活躍の場となっているのが、テレビ文化と近しい配信系映画。母親役のアン・ハサウェイ(41)が年下のアイドルと恋する『アイデア・オブ・ユー 〜大人の愛が叶うまで〜』やリンジー・ローハン(37)主演の『アイリッシュ・ウィッシュ』など、ラブコメもののヒットがつづいている。

 ジェニファー・ロペス(54)が母親役で主演したアクションもの、その名も『ザ・マザー』は2023年上半期ナンバーワンNetflix映画に君臨した。


アン・ハサウェイ ©AFLO

 もちろん、ハリウッドの頂点に立つ彼女たちは雲の上の存在だ。しかし、彼女らの葛藤には、多くの女性を悩ませるワークライフバランス問題に通じるものがある。

 家族を養うために働きつづける意向を示すゾーイ・サルダナは、母親としての葛藤についても語っている。

「働く母親として、仕事への義務感と欲求、子どもとずっと一緒にいたい気持ちがせめぎあいます」「それが、自分の人間らしさも感じさせてくれるのです。もし親として罪悪感を抱かないなら、そのほうがおかしいでしょう」。

文=辰巳JUNK

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