かわいらしい姿におもわず笑顔になってしまう清沢佳世さんのこけし人形。一つひとつ丁寧に手描きで絵付けされ、髪型も顔もそれぞれ。胴体の模様も同じにならないように描かれ、お気に入りの子を見つけるのが楽しいです。清沢さんにお話を伺い、眺めるたびに心がほっとするこけし人形たちをどのように描いているのかも見せていただきました。
プロフィール
清沢佳世(きよさわかよ)/長野県出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。こけし人形やイラストレーションの創作活動を行い、ギャラリーや雑貨店、手づくり市などに出品。
子どものころから絵が好きで、まわりの子とはできるだけ違うものを描こうと工夫していたと話す清沢さん。中学生になって絵を描いているときがいちばん安心でき、好きな時間だと実感したことにより、美術の道に進みたいと考えるようになったそうです。
清沢さんがこけし人形の絵付けを始めたのは、こけしの姿形に自分が似ていると思ったことから、「こけし堂」の名前でぽち袋を制作販売していたことがきっかけ。
「こけし堂と名乗っていたので、こけしの絵付け作家だと思われたんです。ワークショップをやってほしいと頼まれ、こけしは制作していないとお返事したのですが、どうしてもと言われて。試しに白木のこけしを取り寄せて絵付けしてみたら、うまく描けた(笑)。じゃ、やってみるかと。『こけし堂』という名前がこけしを呼んできてくれたんです」。
白木のこけしは、宮城県鳴子温泉のこけし工人さんに注文して作っていただいているもの。よく見ると木目の出方が一つひとつ違い、白の色味も異なります。清沢さんはそれらを見て「この子はこんな感じかな」と考えながら、顔と胴体の下絵を描くのだとか。
胴体の模様によく描くのは、清沢さんが大好きな花や植物。決まった種類ではなく、そのときにぱっと頭に思い浮かんだ空想のもの。ネコやキリンなどの動物、星やリボンなどの図形を描くこともあり、自分が描きたいと思ったものを描く気持ちを大切にしています。
色塗りは赤と黒の2色のアクリル絵の具で。下絵を描くときと同じようにバランスを見ながら、筆を慎重にていねいに動かし続けます。「同じ模様は描かないようにしているので、すべて一点もの。一つひとつ違うものをつくりだすことが好きなんです」。
髪型はおかっぱにしたり、くるくるカールにしたり、赤毛の子もいます。「髪の毛は線が曲がると修正するうちに少し長くなってしまうことも(笑)」。美術大学受験のときに絵の具をむらなく塗れるように練習したのが、髪や模様を描くことに役立っているそうです。
「顔を描くのが一発勝負で失敗できないので、いちばん緊張します」と清沢さん。「こけしの表情はそれぞれ手にした人の受け取り方で見てほしいので、シンプルに描くようにしています。個性的な顔に描くと主張が強くて見飽きてしまうかなと思いますし」。
そして、「こけしに自分の思いは入れたくないんです」とも。「かわいがってくれる人に好みの子を見つけてもらって、その人の感じ方で楽しんでもらいたいです」。
清沢さんはイラストレーションも線と色面でシンプルに表現しています。さらっとした静かな佇まいですが、「そこから何か確かな強い存在が感じられるような絵が理想」と清沢さん。「自分がいいなあと思って描いた世界を共感してくれる人がいたら嬉しいです」。
「黒く引いた線はカーボン紙で転写したものです。鉛筆より濃くてボールペンより太い。強いけどやさしさがあって、ちょっとしたニュアンスが出ます」。素直に伸びるしなやかな線とやわらかな色で描かれた絵には物語が感じられ、眺めていると想像が膨らみます。
手に取ってもらいやすく、作品を楽しんでくれる人と自分がつながるためのものとして、ぽち袋やカレンダーもつくっています。ぽち袋は動物のバクや理容室のくるくるまわるサインポールなど絵柄がユニークで、渡すほうも受け取るほうもほのぼのしそう。
2019年にはあんこもの、2020年には和洋の甘いものを描いたカレンダーも楽しいです。ぱらぱらめくると、2020年11月の絵はテーブルの上に鯛焼きと買い物かごと家の鍵。買ってきた鯛焼きを早く食べたいとはやる気持ちが伝わってきて、ふふっと笑ってしまいます。
こけし人形、ぽち袋、カレンダーは調布市仙川のギャラリー&カフェ「ニワコヤ」で展示販売しています。こけし人形はほかに西荻窪「生活日用雑貨店tsugumi」、川越のセレクトショップ「暮品」、愛媛県伊予市「ギャラリーこごみ」、webサイトやインスタグラムで販売することも。
東京都内の畑がある街に住み、花や植物を身近に感じられる環境で活動を続けてきた清沢さんですが、もっと自然のなかで描きたいと近々制作の場を長野へ移すことに。あふれ出るイメージがさらに豊かになり、また新しいこけし人形や作品たちと出会えそうですね。